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ロウマンド王国のお隣さん

読んでくださってありがとうございます。


※ここから何話か視点が変わります。

 ロウマンド王国が現在構築している戦線は、南方前線のみだ。前王の時代からそれが続いている。相手となっているのは、竜人族。彼らは、人族よりはるかに長寿で頑丈、独自の魔法を使い、古のアーティファクトも多数所持している。

 

 そうしたいくつかの理由により、兵の数は圧倒的にロウマンド王国側が勝っているにもかかわらず、いまだに前線を押し上げることはできていない。ロウマンド王アントニール・ロウムは、自分の治世のうちに、この前線を少しでも押し上げることを目標にしている。

 

 南方前線だけに集中していていいのか、南方以外から攻められたらどうするのか、という議論は基本的に起こらない。理由は簡単で、どんな集団も国も最強国家に戦いを仕掛けることなどしないからだ。


 エル・マラキアンが国境警備増強を訴えたレポートを発表したときにも、それが有名学者による推薦論文だったところで、そこまで大きな反響はなかった。


 先日、アンデッドの侵攻があり、レポートにその予想が書いてあったことが注目された。しかし、それもエル・マラキアンの功績を称賛するだけに留まり、アンデッドの侵攻自体に目が向けられることはなかった。アンデッドの侵攻は、単なる自然現象だということで片付けられたのだ。

 

 だが、事実はどうなのか。ロウマンド王国内に、それを追求する者は一人もいなかった。

 

 

 

 ロウマンド王国の東側国境防衛の要であるソーン砦からさらに東へ一千キロメトル弱、そこにはスイートランドという王国が存在する。

 

 スイートランドは、戦闘民族シュガ族によって建国された大陸中央部の王国である。前国王スイート三世の改革により近代化に成功して以来、一気にその国力を伸ばしている。現国王のスイート四世はその路線を引き継ぎ、最近はその領土を拡大させ続けている。

 

 それでも、ロウマンド王国はそんな隣国を歯牙にかけない。果たして、それは強者の余裕か、愚者の油断か。




 私の目の前で、我が王スイート四世は、腕を組んで目を瞑っている。昼食を終えてからずっとこのままだ。私は他に見るものもないので、まじまじと王を観察してしまう。短く揃えられた赤髪は、精悍な印象を抱かせる。凶暴なまでに鍛え上げられたその体は、私の細いそれと比較すると別の生き物かと思うほどだ。


 我が国はこの二年間、着々と領土を広げてきた。国力もついてきていて、国民たちの生活も向上したはずだ。それなのに王の顔は晴れない。そう、王は悩んでおられるのだ。そして私には、その悩みの種がわかる。


 我が国が領土を広げてきたとはいえ、それは東側のみの話だ。そもそも、西側に広げようなどという意見すら出ない。こんな状況を作り出した元凶。それが、王の悩みの種。ロウマンド王国だ。


 不意に、王の目が開かれる。その紅い瞳には、決意の炎が灯っていた。私は、その時が訪れたことを知る。

 

 「ときに、リューよ」


 「はっ」


 王の言葉に、間髪入れず応える。


 「ロウマンド王国は、やはり、強いのか?」


 王の言葉は、ゆっくりだが力強かった。


 「はい。強大な国家でございます」


 私は誠実に答えた。


 「そうか」


 王の返事は短いものだった。その言葉だけで感情は読むことはできない。しかし、表情がそれを十分に表している。王は喜んでおられるのだ。その強大な国家を、打ち破ることができることに。


 「では、リュー・エクレール。お前に、ソーン砦の攻略を任せる」


 実に短い問答だった。だがこれが、歴史を変える。私にはその確信があった。我が身が、歓喜に打ち震えるのを感じる。


 王の望む返事はわかっている。そしてそれが、私の望むものと同じだということも。


 「御意に」

 

 私はそう答えた。

 

 

 

 悔しいが、ロウマンド王国が大国であることは認めなければならない。領土は広大で、資源も少なくない。世界の文明の中心であり、国民の教養も高いという。そして特筆すべきは、その圧倒的軍事力。


 ロウマンド王国は、戦争のあり方を変えてしまった。かの国の軍は、魔術師隊を中核に添えている。その火力は強大で、たった一人の一撃が歩兵一万を吹き飛ばすと聞く。


 そんな超火力によって、従来の白兵戦は意味をなさなくなったのだ。そこまでの力を持つ魔術師の数は限られているが、我が国にはそんな魔術師は一人もいない。世界を探しても、ロウマンド王国でしか見つからないだろう。


 しかし、白兵戦を仕掛けることができれば、我が国にも勝機はある。なぜなら、我が国の兵たちは戦闘民族シュガ族の血を引いているからだ。


 この民族は、ロウマンド王国建国前から大陸にその名を馳せていた。伝説では、その拳は竜の鱗すら貫くという。真相は定かではないが、我が王のことを考えれば、そんなこともあるかもしれないと思える。王はその血を強く引いており、凄まじい戦闘能力を持つ。軽い平手で、同じくシュガ族の家臣を殺してしまったことがあるほどだ。


 さて、問題は白兵戦を仕掛ける方法である。真っ向から挑めば、こちらの手が届く前に魔法で一掃されるのは目に見えている。


 今回攻略目標に掲げているソーン砦に常駐している魔術師は、五十人ほどという報告があった。ソーン砦は、歴史上侵攻を受けたことがない。ならば、精鋭魔術師を集めているとは考えづらい。一般レベルの魔術師だと仮定すると、五十人で対処できるのは、どんなに多く見積もっても五万といったところ。


 この情報をもとに、白兵戦を仕掛ける方法を導く。要は、魔術師が対処できないほどの兵をぶつければよいのだ。だが、五万を超える兵を我が国から出すのは無理。となれば、話は簡単だ。我が国の兵でなければいい。


 私には、その数の兵に当てがあった。兵と称するのは語弊があるかもしれないが、使えるならばそれでいい。その当てとは、十万のアンデッドだ。


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