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座ってるだけの簡単なお仕事

 アネモネはいい報告として、内通者なしという報告をしてきた。これはつまり、アネモネは内通者ありという考えを念頭に置いて調査を行っていたということだ。そして、アネモネが俺にこの報告をしてきたということは、アネモネは俺が内定者の存在を考慮していると考えていたということでもある。


 実に恥ずかしいことだが、俺はそんなことまったく考慮していなかった。今朝、アレクが俺に教えてくれていなければ、内通者って何のこと?とか聞き返していただろう。アレク、ありがとう。

 

 だが内通者なしという報告を受けたとはいえ、それをそのまま受け取るわけにはいかない。アレクの内通者ありという考えを退けたのだから、内通者なしというアネモネの報告も厳しい目で見なければ、アレクへの義理が立たないからだ。

 

 「なんで内通者がいないと言えるんだ?」

 

 「当然の疑問だと思います。ですから、順を追って説明しましょう」

 

 少し長くなりますが、と前置きもそこそこに、説明を始めた。少し得意げにしているのがいつもはない幼さを感じさせる。そういえば、アネモネって何歳くらいなんだろう。直接聞いたら怒られそうだよな。

 

 「まず、調査部隊を二分して、領内と領外の両方を調査しました」

 

 俺のことを気にせずアネモネは続ける。国外まで調べに行くことは思いつかなかったが、確かに他国の侵略の可能性があるなら外を調べるのは当たり前か。ちょっと面白くなってきたな。面白いとか言っちゃダメか。

 

 「それで?」

 

 「スイートランド領手前にある集落に滞在していた行商人から話を聞きました。二十年以上の間、ソーン砦周辺で行商人をやっていて、隊員たちには顔の知れた者です」

 

 顔の知れた行商人ね。長い時間を掛けて信頼を築き、その信頼を利用して今回の犯行に及んだということだろうか。

 

 「そいつが『黒の刃』の構成員だったとか?」

 

 「そのとき話を聞いた隊員もそれを疑ったようですが、違いました」

 

 「なんだ、違うのか」

 

 予想が外れてちょっと恥ずかしかったんだが、アネモネはさして気にする様子もない。これがラムだったら、俺がキレるまで煽ってきたことだろう。

 

 「はい。むしろ被害者だったことがわかりました」

 

 「被害者?」

 

 「その方は、馬車を引く馬を殺されたと」

 

 「もしかして、斬殺体の?」

 

 「ご明察の通りです」

 

 おお、話が繋がった。座っているだけで勝手に事件が解決していく。俺に連続殺人事件の調査を命じた王様もこんな気分だったのかな。王様って最高だな。

 

 俺も王様になりたいなー、と不敬なことを考えているうちにも、説明はどんどん進む。

 

 「数日前、ティラの町に滞在したとき、馬が一頭いなくなっていたそうなんです。逃げたのだと思っていたそうですが、今回の調査でその馬が殺されていた馬のうちの一頭だったことがわかりました」

 

 「なるほど。ということは、他の斬殺体もそういう経緯で殺されていたということか?」

 

 「それに関してはボンドさん、あ、先の行商人の方ですが、その方以外に行商人を見つけられなかったので、そこは調査中です。ですが、必ずしもそうではないかもしれません」

 

 さっきから予想が全然当たらない。推理大会じゃないから別にいいけど、一個くらい当てたい。

 

 「と言うと?」

 

 「体調不良騒ぎで気づくのが遅れていたようなのですが、町や村からも家畜がいなくなっていて、それが斬殺体として見つかっているんですよね。もしかすると、カモフラージュ的な狙いがあったのかもしれません」

 

 「なるほどな。仮にそれが正しいとすると、行商人の馬と住民の家畜のうち、どちらが本命だったのかということが問題になりそうだな」

 

 「おそらく、ボンドさんの馬が狙いだったんだと思います」

 

 話を聞きながら必死で頭を働かせてみても、アネモネより先に行けない。俺は調査情報を持っていないという不利な点もあるが、やっぱりアネモネの方が俺より頭が回るのは確かだ。こればっかりは仕方がないので、そろそろ聞き役に専念しようと思った。

 

 「それはまたどうして?」

 

 「逆って考えづらくないですか?」

 

 「ごめん、どういうこと?」

 

 「つまり、住民の家畜を殺すカモフラージュに、行商人の荷馬を殺すことがあるのかという話です。行商人の荷馬の方が数は少ないですからね。わざわざカモフラージュのために狙うのは、いささか不合理かと。そういう意味で、逆は考えづらいと申し上げました」

 

 つらつらと述べられる筋道立った説明に、俺は感心して頷くばかりだった。

 

 「話を本筋に戻します」

 

 アネモネが言った。あれ、これ本筋じゃなかったんだ。俺が途中で余計な口を挟んじゃったせいで、いつの間にか横道にそれていたらしい。ごめん。

 

 「先ほど申し上げたように、ボンドさんはよく顔の知られた行商人でした」

 

 ふむ、それはさっき聞いたので覚えている。それがどうしたのだろう。俺が何も答えないのを見て、アネモネはそのまま続けた。

 

 「これは完全に砦の落ち度なのですが、ボンドさんは付き合いが長いことに加え、いつも大量の荷車を運んでこられるので、荷物検査が手薄になってしまっていました。『黒の刃』にそこを突かれ、荷車のうちの一つに忍び込まれていたみたいです」

 

 「え、でも――」

 

 それだけじゃ、ボンドが『黒の刃』の一員じゃないと言えないと思う。と言おうとしていたが、途中で気づいた。もしボンドが『黒の刃』の一員なら、ファルサ・ウェリタスで弾かれる。だから、ボンドは『黒の刃』の一員ではない可能性が高いだろう。

 

 「何ですか?」

 

 「いや、えーっと、そこからどうやって『黒の刃』の犯行だってわかったんだ?」

 

 適当に誤魔化す。すると、アネモネは少し笑みを浮かべて言った。

 

 「何でだと思います?」

 

 「わからん」

 

 コホンとわざとらしく咳ばらいをし、背筋を伸ばすアネモネ。そして、衝撃発言。

 

 「その『黒の刃』の犯人を捕まえたからです!」 

 

 本当に座ってるだけで事件解決しそう。

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今のところ座っているだけのエル。


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