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バカばっかのソーン砦

読んでくださってありがとうございます!

 国境警備隊員だらけのティラの町を竜車で突っ切る。アレクが御者台に座っているし、ピーちゃんは砦では知られた存在だから、俺の帰還に気づいた隊員もいたことだろう。というか、気づいてほしい。

 

 それからすぐに砦に到着した。一か月ぶりのソーン砦である。ここで働き始めて一か月弱で王都に呼び戻されたため、そんなに懐かしいという気持ちはない。しかしその短い期間でも、ここが俺の楽園であることはわかっている。


アンデッドが攻めてきたときは、なんでこんなところに来ちまったんだと後悔しもしたが、もうあんなことが起きることはない。あとはここで、俺はのんびりと副長官という一番楽な立場に甘んじて生きていくのだ。

 

 副なんとかって、実質一般人なのに、謎に好待遇になるよな。いや、軍以外の組織以外は知らないからただの偏見だけど。

 

 「出迎えはないみたいですね」

 

 竜車の扉を開けてくれたアレクがいらないことを言う。

 

 「うるさいな。別にいいだろ」

 

 「悪いとは言ってませんよ」

 

 「じゃあ、わざわざ言わなくてよくない?」

 

 クスッと笑うだけでアレクは何も答えなかった。完全にバカにされている。まあ、俺はそんな小さなことは気にしないけどな。なぜなら、俺は器な大きな人間だからだ。

 

 「副長官なのに、出迎えがないのか?」

 

 「追い打ちかけるのやめてくれない?」

 

 フェイロンの悪気のない発言が痛かった。

 

 言わずもがな、このソーン砦は東側国境防衛の要である。東側国境というのは、ソーン砦の南にあるパルサ湾から、北にあるピスカ湖の南端までのことだ。その距離はおよそ八百キロメトル。そのすべてにわたって長城が走っているが、ちょうど中心にソーン砦が位置している。

 

 ピスカ湖は南北方向に千キロメトル以上、東西方向に二百キロメトル以上もあるとんでもなく大きな湖であり、我が国はこの広大な湖を天然の国境として利用している。強力な魔物の巣窟で、誰もここから我が国を攻めようなどとは考えもしない。したがって、ピスカ湖自体は防衛対象としての東側国境とは定義されていない。

 

 もちろん、ピスカ湖の西岸にも長城が建てられており、万が一責められた場合にも、簡単には突破されることはないだろうと考えられている。

 

 ソーン砦は東側国境に唯一の大規模な砦であるため、とにかくでかい。幅は五百メトルもあるし、最も高いところで高さが六十メトルもある。その割に人員が少ないのは、東側国境防衛が軽視されている証左だ。人員の少なさのおかげで、俺の管理が楽になっているため、悪く言うつもりもないが。

 

 さて、そんなソーン砦の中央部には、中庭のようになっている部分がある。屋根はなく、木が生えていたりする。そして、今日の宴の舞台はその中庭らしかった。隊員たちが忙しなく準備をしており、屋台のようなものを設営している。宴というか、祭りと言った方が近いかもしれない。だから、気合入りすぎなんだって。

 

 「おかしいですね、いつもより規模が小さいです」

 

 結局、出迎えがないまま中庭まで来たが、中庭に着くや否やアレクが言った。これで規模が小さいって、例年はどれだけ派手なんだよ。

 

 「この間もやったからじゃないか?アンデッド侵攻のときに」

 

 俺は一つの仮説を提示する。

 

 「あー、それでお金がないのかもですね」

 

 「金がないならやるなよ……」

 

 さすがにこんなに適当な運営がなされていると、不安になる。が、何か責任を取るならあの長官だ。全てを長官に押し付ければいい。

 「砦にこんなところがあったのだな」

 

 フェイロンは辺りを見回している。

 

 「ああ、入国者はこんなところ通らないからな。知らなくて普通だよ」

 

 「よそ者をこんなところまでいれてしまっていいのか?」

 

 「まあ、お前なら大丈夫だろ」

 

 「副長官がこれでは、国防が心配になるな」

 

 これにはぐうの音も出なかった。そのとき――

 

 「あれ、副長官じゃないっすかー!いつ帰ってたんですか!?」

 

 「いった!」

 

 そんな台詞とともに、後ろから背中をバシーンと叩かれた。振り返ると、果たしてそこにはロックがいた。上官に対して暴力とは、いい度胸をしてやがる。

 

 「ロック、てめえな」

 

 「あ、すんません。副長官に会えて嬉しくてつい……」

 

 急にしおらしくなるロック。だが――

 

 「そんな台詞で俺が許すとでも?」

 

 「ですよね。――じゃ、またあとで!」

 

 「あ」

 

 次の瞬間にはロックは走り去っていた。この一か月で逃げ足を磨いたらしい。

 

 「ロックさんは相変わらずですね」

 

 「知ってるんだ」

 

 アレクもロックを知っているらしい。

 

 「まあ、ソーン砦の問題児ですから」

 

 「問題児って、たしかあいつ三十超えてるよな……」

 

 頭が痛い。比喩ではなく、この砦の人材不足のせいで急激な頭痛がしてきた。気のせいではない、はずだ。

 

 「あれー?エルさんだー!」

 

 痛む気がする頭をマッサージていると、今度は正面からゆるふわ系バカことマリアだ。なぜこうもバカばっかがここに集まってくるんだ。……あ、わかった。バカって新しいもの好きだから、新任の副長官である俺のもとには、最初にバカばっかが集まってたんだ。そのせいで、この砦における今の俺の知り合いはバカばっかになってんだ。その結果、俺に気軽に話しかけられるのはバカばっかになってるってことだな。おっと、「類は友を呼ぶ」なんて言葉は知らないぞ。

 

 「宴に間に合ったよかったですね!」

 

 あー、久々にこのハイテンションな感じ。これには不覚にも懐かしさを感じてしまう。

 

 「いや、別に宴のために帰ってきたわけじゃないけどね?」

 

 「そうなんですか?まあ、どうでもいいです!」

 

 「あの、上官に対してその物言いは――」

 

 「でも、残念ですよね」

 

 マリアを諫めようとすると、マリアはわざとらしく俺の声に被せた。

 

 「何が残念なの?」

 

 アレクがマリアに聞いた。タメ口であるのを見ると、マリアよりもアレクの方が年上のようだ。そういえば、アレクって何歳なんだろう。

 

 「ティラの町で起きている事件のせいで、宴が例年より縮小されたんですよ」

 

 「「え、事件?」」

 

 マリアの言葉に対して、俺とアレクは息ぴったりに間抜けな声を出した。あのさ、もう事件とかこりごりなんですけど。

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