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大晦日

読んでくださってありがとうございます!

昨日の話が少し長かったので、今日は短めです。

 新しい朝が来た。暴食の果てに爆睡してしまっていたようだ。欲望のままに食って寝る。きっと、これが人間の本来の姿なのではないだろうか。貴族の責務や仕事なんて忘れて、こうやって食って寝て……

 

 「朝ですよ!もう何日もここにいるんですから、早く帰らないと!」

 

 ボーッとする頭にアレクの大声が響く。シチューを食べたことにより、快活で真面目なアレクが帰ってきたらしい。嬉しいやら、面倒くさいやら。

 

 「今行くって」

 

 俺が部屋を出たのは、そうアレクに答えてから三十分後のことだった。

 

 トービリの町を発ち、一時間ほどが経っていた。朝食では残ったシチューが出ることを期待していたが、残りは一滴もなく、ありふれたスープとパンの組み合わせをいただいた。少しがっかりしたが、暴食によって疲れているであろう胃腸に優しい味だった。

 

 カラカラカラ、と竜車の車輪が回る僅かな音が聞こえてくる。軍用竜車の作りがいいことに加え、道が舗装されていることによって、竜車から発せられる音は小さい。ピーちゃんの足音の方がよく聞こえる。

 

 「日没くらいには砦に着くと思います」

 

 御者台にいるアレクが、竜車の小窓を開けて教えてくれた。今日でようやく日常に戻れると思うと、気が抜けてしまう。

 

 「往復で一か月か、長い旅だったな」

 

 「王都で過ごしたのは一週間もなくて、ほとんどずっと移動でしたから疲れましたよね」

 

 「わざわざ行く意味はあったんだろうか。本当に人使いが荒いよなあ、軍って」

 

 「事件解決に役立ったんだし、いいじゃないですか。勲章までもらって」

 

 「仕事の結果がよかったから表彰されただけだよ。大したことじゃない」

 

 「素直じゃないんですねー」

 

 「それ、ラムっぽい」

 

 「え、嫌だ」

 

 そんなのんびりとしたお喋りをしながら、街道をぐんぐん進んでいく。ピーちゃんは大変優秀なので、アレクも御者台にはほとんど座っているだけだ。今の季節的に、風がものすごく冷たいことが心配だったんだが、風魔法を使って風よけをしていたらしい。抜かりないやつだ。

 

 「今年も今日で終わりだな」

 

 俺とアレクの話が途切れたとき、フェイロンが新たな話題を投下した。

 

 「え、マジ?」

 

 「言われてみれば、そうかもしれません。日付なんて全然意識していませんでしたよ」

 

 俺は当然として、アレクも気づいていなかったらしい。まあ、移動ばっかで日付なんて気にする必要がなかったからな。

 

 「お前たちはほとんど仕事をしていないのだから無理もない」

 

 「ちょ、それは言い過ぎだって」

 

 「仕事をしていないのは、副長官だけです」

 

 「おい」

 

 アレクは完全に俺のことを舐めている。俺は上司だぞ?ここは一つ、お灸をすえてやらねば――

 

 「あ!」

 

 「何だよ、急に」

 

 俺が一言ガツンと言ってやろうとしたタイミングで、アレクが叫んだ。

 

 「大晦日ということは、今日は砦では宴ですよ!」

 

 「え、あの砦そんなことしてんの?」

 

 「毎年の恒例です!」

 

 いくら一年の終わりの日だからと言って、国防の要衝で宴を開くってどうなんだ?アンデッド侵攻を退けたとき、寝て起きたら宴が開かれててやけに手際がいいと思ったけど、毎年やってるからなんだな。納得がいったわ。

 

 「とんでもねえ職場だな、あそこ。さすが窓際部署」

 

 「でも、好きなんですよね?」

 

 小窓から見えるアレクの目は細められていた。口元は見えないが、たぶん笑ってるんだろう。俺も頬が緩むのを感じながら答えた。

 

 「ああ、最高の職場だ」

 

 「宴だと思うとお腹減ってきました。――よし、飛ばしますよ!」

 

 アレクの食いしん坊キャラは、生まれつきのものであることが判明した瞬間だった。ピーちゃんが小さく鳴いた気がした。

 

 昼過ぎには砦から一番近くの町に着いていた。ピーちゃんの頑張りのおかげだ。このティラの町はロウマンド王国の辺境ではあるが、国境警備隊員が立ち寄ることが多いため、トービリの町と同じくらいか、それ以上の規模がある。


 フェイロンは今日ここに泊まり、明日の早朝にソーン砦から出発するということだった。フェイロンを降ろすため、町の入り口にて竜車は停車させている。

 

 身体を伸ばすために俺も竜車から降りてみると、俺と同じ灰色の軍服に身を包んだ者が多数。何やってんだ?

 

 「あれは宴の準備ですね!」

 

 立ち尽くす俺を見て、アレクは嬉しそうに言った。なるほど、こんな時間からしっかり準備しているのか。宴に気合入れ過ぎだって……

 

 「どうせなら、フェイロンも宴に来れば?」

 

 この気合の入れようを見るに、一人くらい客人を招いても有り余るほどの食材や酒を用意しているに違いない。フェイロンとの旅もこれで終わってしまうことだし、最後にパーッとやろうという意味を込めて誘ってみた。

 

 「部外者がいてもいいのか?」

 

 ほう、フェイロンでも遠慮することはあるらしい。

 

 「副長官がいいって言うんだからいいんだよ」

 

 「長官が許すかわかりませんよ?」

 

 「アレク、それ本気で言ってんのか?」

 

 「もちろん冗談ですよ」

 

 下っ端のアレクにも、長官は適当なやつだと思われているらしい。副長官である俺も適当だし、大丈夫かな、ソーン砦。というか、ロウマンド王国。

 

 「ということで、来いよ。そのまま砦に泊まればいいし」

 

 「そこまで言うのなら、行かないのも無作法というものだろうな」

 

 二人して再び馬車に乗り込み、あと十分ほどの旅路をともにすることになった。


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