意外な才能?
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特に秘密の魔法とかではないようで、その後もフェイロンは聞いたことを何でも答えてくれた。無駄に色々考えていた自分がバカみたいだ。ときには、ラムのように図々しい言動も必要なのかもしれない。
フェイロンに聞いたことによると、まずは練魔で魔気を高め、それを全身に纏わせることで魔纏が完成するらしい。ロウマンド式と比べれば、シンプルな手順だ。
ロウマンド式では、魔法は収束、変換、発動もしくは作用といった手順を踏む。収束は体内の魔力を集めること。変換は集めた魔力を各属性の力に変えること。発動は空間に火、水、風、土を生み出すこと。俺が砦で火球を作ったのは発動にあたる。作用は、すでに存在する火、水、風、土に何らかの変化をもたらすことだ。俺が火球を遠くまで飛ばしたのが作用である。
このようにロウマンド式魔法は、フェイロンの使う魔纏に比較すると複雑である。そのため、各手順には様々な技術的論点が存在するのだが、授業を聞いていなかったから詳しくはわからない。砦に帰れば専門の魔術師がいるから、必要なときにはそいつらに聞くとしよう。
「もう質問は終わりか?」
説明が一段落着いたところで、フェイロンが言った。フェイロン自身がこう言っているのだから、質問しなければ無粋というもの。さて、他の質問――
「私も魔纏を使えるようになりますかねー?」
またもラムに先を越された。
「魔纏は特別な技術ではない。我が国には、私が教えた魔纏の使い手が大勢いる。我々よりも魔気を多く持つお前たちなら、より強力な魔纏が使えるだろう」
「おおー!教えてください!」
あれ、私が教えたとか言った?フェイロンってけっこうすごい人?まあ、ミノタウロスを倒せるんだからすごいんだろうけど。
「いいだろう。魔纏の祖であるこのフェイロンにかかれば、誰であってもすぐさま魔纏の使い手となれるはずだ」
こいつ、めちゃくちゃ気前いいじゃん。というか、やっぱさっきの聞き間違いじゃなかったらしい。本当に、フェイロンは神仙国で魔纏を教えているんだ。そんでもって、魔纏を生み出した張本人なんだ。俺も教えてもらえるかしら……
数時間後――
「お前、絶望的に魔纏のセンスがないな」
早ければ明日にはフロレンツに着いてしまうという理由で、フェイロンに付きっきりで魔纏を教わっていたラムだが、さっきから何の進歩もないようだった。今しがたも、絶望的にセンスがないと言われていた。
「な、なんでできないんだ……」
「俺が思うに、ロウマンド式の魔法に慣れ過ぎていることが原因だと思う。そもそも練魔ができていないから、魔纏には遠く及ばない」
「そんな……」
落胆しているラムに、フェイロンがトドメを刺した。というか――
「ラムって魔法使えたの?」
「当たり前じゃないですかー」
「あ、そうなんだ」
こんなやつにも魔法が使えるのに、いまだに魔法がおぼつかない俺って……
「冒険者をやっている魔術師に教えてもらったんですよー」
「へー」
「あ、その顔。私の武勇伝が聞きたいって顔ですねー?」
「興味ないっていう顔だったんだけど。あと、そんな使う状況が限られている顔ねえよ」
「聞いてくれたっていいのにー」
「勝手に話せよ。聞かないから」
「ひどい!」
「――ところで、フェイロン。俺にも魔纏を教えてくれないか?」
竜車が揺れるほど抗議してくるラムを無視して、俺もフェイロンに教えを乞うた。ポカスカ殴られているが、無視を決め込む。ちょっと痛いけど無視だ。
「お前もロウマンド式魔法に慣れているのではないのか?」
「いや、簡単な魔法しかできない」
「そうか。ならば、やってみる価値があるかもしれん」
「簡単な魔法しかできないとか、誇ることじゃないですからねー?」
横から変な煽りが入るが、それも無視だ。
「では、練魔からだ」
「はい、師匠!」
俺が練魔の特訓を始めたときには、ラムは飽きて寝ていた。冒険者は自由人が多いが、ここまでの大物はなかなかいないんじゃないだろうか。
「練魔の神髄は、内に宿る魔気を増幅させることだ。まずは、自分が集めやすい場所に魔気を集めてみろ」
「こうか?」
俺は手のひらに魔力を集中させる。これは王都に行くときの竜車の中で練習していた。ロウマンド式魔法なら、ここから属性変換を行う。
「む、なかなかやるな」
これで合っているらしい。よかった。ちょっと褒められたし、才能あるかもしれない。
「次に、それを続けろ。そうすれば、集めた魔気に引っ張られて、空間から魔気が集まって来る。さっきの女は、これができなかった」
「え、どういうこと?」
「言われた通りにしろ」
「お、おう」
とりあえず、言われた通りに魔力を手に平にキープし続ける。ロウマンド式魔法では、魔力はすぐに属性変換しなければ空間に拡散してしまうというのが常識だ。そのため、俺はフェイロンの言うことがにわかには信じられなかった。
しかし、目を閉じてしばらく集中すると――
「うわ、何だこれ」
手の平が温かくなってきて、脈を強く感じるようになってきた。それと、誰かに手を揉まれているような……
「って、お前かい!」
目を開くと、ラムが寝ながら俺の手を揉んでいた。ほっぺたを叩いて起こす。
「何してんだよ」
「ハンドマッサージですー」
「いらねえんだよ、紛らわしいだろ」
「えー。エルさんの手、あったかくて気持ちいいんですもーん」
「なんか、急に温かくなってきたんだよ」
俺の手は通常ここまで温かくないが、今はなぜか妙に温まっていた。
「変化を感じたか?ならば、それが練魔だ」
「あ、そうなんだ」
フェイロンによると、この手が温かくなるのが練魔らしい。何ともあっけなかった。ラムは何でこんな簡単なこともできなかったんだろう。もしかして、やっぱり俺って才能ある?
「ラム、お前ももう一回やってみろよ。簡単だぞ?」
「無理なんですってばー。魔力を維持したことなんてないから、感覚がわからないんですよー」
「え?」
「だってー、普通はすぐに属性変換するじゃないですかー」
「ああ、そういうこと」
ラムにそこまで言われて理解した。俺は属性変換が苦手なのだ。苦手な上にまともに練習していないから、変換するまでに時間がかかる。俺は属性変換が下手で遅すぎるがために、変換が完了するまで自然と魔力を維持する癖がついていたらしい。要するに、練魔や魔纏の才能があるわけではなく、ロウマンド式魔法が下手なだけなのだ。
「なんだかなー」
日も沈み始めた冬の空を眺めて、俺はひとり呟いた。
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