面倒なやつ
読んでくださってありがとうございます!
急いで書いたので、あとで改稿するかもしれません。
ローバラを通過しようとしたとき、竜車が止まった。急激な減速によるものではなく、目的地に着いたかのような緩やかな停止である。
「アレク、どうかしたか?」
「ラムさんです」
ラム?ラムがこの停車に関係があるのだろうか。
「ラムがどうしたって?」
「ピーちゃんを撫でてますね」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
アレクが何を言っているのか本当にわからなかったので、竜車を降りて前の方に行く。そこには、たしかにピーちゃんを撫でているラム。アレクの言っていたことは理解できた。しかし、状況は理解できなかった。
「何してんの?」
「乗せてください」
ピーちゃんを撫でる手を止めることなく、ラムは即答した。おいおい、お前もか?ただでさえ余計なのが一人乗ってるっていうのに、これ以上面倒なのを増やしたくない。俺はパーソナルスペースを犯されるのが嫌なんだよ。もっと直接的に言えば、ラムは鬱陶しいから乗せたくない。
「定員オーバーだ」
ラムの要求を切り捨てる。一発で嘘だとわかる断り文句だが、これだけ嘘だとわかりやすければ、逆に俺は乗せる気がないのだと伝わりやすいだろう。お前は鬱陶しいからダメ、とか本当のこと言ったらラムが傷ついちゃうしね。俺ってば優しい。
「一人でこんなにでかい竜車使ってるんでしょー?乗せてくれてもいいじゃないですかー」
ラムは食い下がってきた。残念なことに、ラムには俺の気遣いがわかってもらえなかったようだ。だが、まだラムを乗せたくない本当の理由を言わなくても、断れそうな段階にいる。
俺の心の中の優しさが尽きぬ限り、本当の理由は言わないでおいてやろう。
「この中にはな、俺の他にもう一人乗ってるんだよ」
俺の言葉に首を傾げてから、おもむろに竜車に近づいて行った。そして、ラムは中を覗いた。
「ぎぃやああああああ!」
直後、ラムは尻もちをついて、のどかな平原には不釣り合いな大音量の叫びを上げた。
「ど、どうしましたか!?」
焦ったアレクは御者台を飛び降り、ラムのもとに駆け寄る。俺もラムの声の大きさに驚きはしたが、何かしらの反応があることは予期していたため、わざわざラムの方へ行くことはなかった。
「何もないじゃないですか……」
アレクは竜車の中を確認してから言った。しかし、そこにはたしかにラムが絶叫するだけの理由があるのである。あるというより、いると言った方がいいか。
「見えてないんですか!?この男が!」
「あー、フェイロンさんですね」
アレクはやる気のない店員のように事務的に答えた。露骨にラムを面倒くさがっている。わかるぞ、その気持ち。
「誰!?」
ラムはなおも過剰な反応を見せている。アレクは限界まで目を細めて、ラムの後ろ姿を見ていた。
「俺はフェイロンだ」
目の前の異常者をものともせず、フェイロンは冷静に答えた。それはそれで怖いって。なんかもうちょっとラムのテンションに釣り合うテンションで答えてくれよ。
「な、なんでお前がここにいるんだ!」
そろそろラムがうるさいので、説明することにした。
「なんだー、そういうことだったんですねー」
フェイロンが同乗している理由を説明すると、手を打って納得したように言った。何かと面倒なことになりそうだから、シルヴィエの頼みごとについては話していない。
ラムは少し声を潜めて続ける。
「でもー、ここからは私が乗るので降ろしてくださいねー?」
「なんでそうなるんだよ」
「こんな見ず知らずの男よりー、私のような見知った女の子の方がいいですよねー?」
「正直なことを言うと、どっちも嫌なんだけどね」
「そんな!?」
その後もラムが駄々をこね続けたので、渋々ラムも乗せることになった。ラムの目的地はフロレンツというここから二日くらいの場所らしく、アレクと話して、それくらいなら我慢しようということになったのだ。やっぱり、アレクもラムのこと面倒くさいと思ってたんだな。
「それにしてもー、盟友である私に何の報告もなしに帰るなんてひどくないですかー?」
再びピーちゃんの引く竜車が進み始めて十分。無言の車内に耐えかねてか、俺に言いがかりをつけるためか、ラムが話を始めた。うん、後者だろうな。
「いつ盟友になったんだ?」
「初めて会ったその瞬間ですよ」
「お前、まだそれ言うの?」
「あはははは、一生言いますよー」
「“それ”とは何だ?」
俺とラムの会話にフェイロンが入ってきた。なんでよりによってそこに食いつくのかね。ここは適当に誤魔化し、話を逸らすほかない。
「俺たちの出会い方が劇的だったって話だよ。――そういえば、フェイロンはラムの仇なんじゃないのか?愛しのミノタウロスちゃんがフェイロンによって倒されちゃったんだから」
「あー、それに触れちゃいます?」
「ミノタウロスか。あれは手ごわい敵だった」
我ながら少し強引な話題変更だったが、ラムとフェイロンが気にしている様子はない。よしよし、この話題ならそれとなくフェイロンが使った魔法を聞き出せそうだし、上々だ。
「手ごわかったのか?余裕そうに見えたけど」
「そうですよー、斧とか片手で止めちゃってー。化け物なんですかー?」
「俺は化け物ではない。マテンを使ったのだ」
あれ、今それらしい言葉が聞こえてきたような。よし、何とかしてそのマテンとやらを詳しく聞き出さなければ。さて、どうやって聞き出すのが正解か――
「マテンって何ですかー?」
出遅れた。ラムが先にフェイロンに聞いた。しかし、そんな直接的に聞いてしまっては、警戒されて教えてくれないはずだ。これではフェイロンの警戒度を高めるだけで終わってしまう。くそ、ラムめ。余計なことを――
「己が魔気を纏う術。それが魔纏だ」
あれれー、おかしいぞー?めっちゃ普通に教えてくれてる。全然警戒とかしてない。
「魔法みたいなものですかー?」
「お前たちが使う魔法に明るくないから何とも言えん。しかし、お前たちが魔法を使うときには、間違いなく魔気が使われている。よって、魔纏も魔法も突き詰めれば同じものかもしれない」
「なるほどー」
魔気とは、魔力のことだろうか。それならば、シルヴィエの言っていたこととも一致するが。それにしても、俺が聞きたいことをラムがすべて聞いてくれてしまったな。
帰路について一時間。シルヴィエからの頼まれごとは、何もせずに終わった。
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