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俺の仕事

読んでくださってありがとうございます。

もう六話とは早いものです。

 「了解!」

 

 唐突な指示にも関わらず、魔術師隊は快く返事をしてくれた。付き合いの浅い俺にここまで従ってくれるなんて、なんていいやつらなんだ。これが終わったら、俺のおごりで宴じゃ!

 

 俺の決断は、ひどく独りよがりなものだ。まったくもって合理的ではない。進んで作戦の成功率を下げるようなものだ。しかし、これは俺がやらなければいけない気がした。

 

 よく考えると、やりたいからやるってダメな上司というより、嫌な上司だよな。ダメだけど愛すべきやつはいるが、嫌なやつで愛すべきやつはいないし、みんなから嫌われちゃうかも、ぐすん。

 

 それでも、俺はやる。宴を開いたときには、みんなで寄ってたかって俺をボコボコにするゲームでもしてくれればいいさ。

 

 そして、俺がこんな非合理的な決断を下したのには、もう一つ訳がある。こっちはプライド云々という高尚な話ではない。単に、自己満足的な罪滅ぼしをしたいのだ。

 

 何の罪滅ぼしかと言えば、俺が見張りを早く上がってしまったがために、アンデッドの発見が遅れたことの罪滅ぼしだ。共犯のマリアはバカすぎて気づいていないかもしれないが、アネモネは絶対に気づいている。わかってて言わないのは、隊員たちの士気に関わるからだろう。

 

 そうであれば、何かしら一発大きな仕事をしておかないと、本格的にこの砦から追い出されかねない。不祥事で砦を離れることになれば、行き先は間違いなく前線だ。それだけは絶対に避けたい。

 

 前線送りになれば、どれだけ頑張って戦ったところでほぼ死ぬ。この国の安定のため、国を代表する貴族は名誉の戦死によって愛国心や忠誠心を演出しなければならない。貴族はそういう役回りなのだ。

 

 ここで死ぬのと前線で死ぬのどっちがいいかと問われれば、前者だと即答できる。後者ではいくら努力したところで死ぬのは確定しているが、ここでなら頑張れば生き残れるかもしれないから。

 

 やはり、この砦から離れるわけにはいかない。ここは俺の楽園だ。どうにか俺の有用性をアピールして、ここに留まるのだ。なんで窓際部署に来てまで自分の評価を気にしなければならないのかは甚だ疑問だが、やるしかない。

 

 「沼気、広げ終わりました!」

 

 おっと、もう終わったのか。相変わらず仕事が早い。指示を出してから一分程度か。これであとは俺がやるだけとなった。しっかし、自分でやるとは言ったが、いざやるとなると嫌になってくるな。

 

 失敗が怖い。これは、人間の性なのだろうか。きっと、失敗が怖いのは俺だけではないはずだ。というか、少なくともそう思い込まないと心が折れる。

 

 沼気を広げることで、おそらく威力は下がる。しかしその分、砦への影響も小さくなるはずだ。しかも、見えないポイントではなく、形あるアンデッドを狙えばよくなった。火球をぶつけるタイミングにも少し自由が利く。だが、タイミングが遅くなりすぎては、爆発が砦にまで及ぶかもしれないことに注意だな。


 改めてアンデッドたちの様子を窺う。先頭が砦からおよそ一五〇メトルといったところ。まだ俺の魔力量や技術では、火球を飛ばすのがきつそうだ。

 

 まあ、あいつらも近づいてきてくれるわけだし、そろそろ潮時か。早めにやっておけば作戦に失敗したとしても、撤退に余裕ができる。やる前からこんなこと考えてちゃダメかな。

 

 「今から火魔法を使う!」

 

 周りに宣言し、手のひらに小さな火を灯す。緊張で手が震え、同時に炎も揺らぐ。まずは火球を安定させないと。

 

 少し集中し、安定させる。あとは、アンデッドが俺の射程圏内に入ったら、これをぶつけるだけ。言葉にすれば簡単な仕事だ。俺が決めてやる、そう覚悟を決めたときだった。

 

 バタッと音がした。人が倒れたような音だったな。大丈夫だろうか。周りのやつらが急にざわざわし始めた。嫌な予感がする。

 

 「副長官!ダメです、もう長くは持ちません!」

 

 魔術師隊の方から悲痛な声が上がる。え、なんだって?持たないって、魔力?なんでどんなことになっている。いくらなんでも、いきなりすぎるだろ。

 

 「アネモネ隊員が倒れてから、必要な魔力が一気に増えているようです」

 

 見張り役に耳打ちされた。さっきまで魔力の大部分を負担していたアネモネがいなくなり、魔法の維持が厳しくなっているのだろうと推測する。沼気を広げたことも影響しているのかもしれない。

 

 あいつは、真面目なやつだからな。限界まで魔力を振り絞って、力尽きたのだろう。というか、本職の魔術師を凌駕する魔力量って、あいつ何者なんだよ。

 

 さて、状況はかなりまずい。また人が倒れる音が聞こえた。これは本当に時間がなさそうだ。アンデッドたちはまだ遠い。俺の魔力量じゃ、あそこまで届くかわからない。

 

 いや、考えいている場合じゃない。考えてどうにかなる段階を過ぎてしまっている。こういうときは、勢いだ。

 

 「なるようになりやがれ!」

 

 そう叫び、火球を放つ。火球はアンデッドをめがけて一直線に飛んでいく。ことはなく。ヒョロヒョロと力なく近づいていく。ダッセえ。第一学園卒業して、こんなに魔法が使えないやつがいるだろうか。

 

 しかも、ダサい見た目に反して魔力がゴリゴリ削られる。久しぶりだな、こんな感覚。すでに立っているのが辛くなっていた。労働中にこんなにしんどくなるって、どこが窓際部署なんだよ。超ブラックじゃねえか。

 

 


 かれこれ一分近く火球を飛ばし続けている。もう座りながら魔法を使っている。顔も下を向けて、ときどき顔を上げて火球の軌道を修正する感じだ。アンデッドたちの先頭まで、残り四十メトル。ここからは慎重にいかないと火が消えかねない。

 

 こんなギリギリの戦いなのに、絵面が地味すぎる。この歴史的な戦いが絵画かなにかになっても大した値はつかないだろうな、とか場違いなことを考えてしまう。

 

 魔術師隊を横目で捉える。立って魔法を使っている者がかなり減っている。座っているやつらも、多くが魔法を使っているように見える。みんな必死なんだ。俺一人がくたばっていられない。

 

 

 

 死ぬ気で火球を飛ばし続けた。あと少し、あと少しで届く。あと少しなのに、もう限界だ。繊細な魔力制御が必要で、進む距離がどんどん小さくなっている。今ばかりは、アンデッドの足の遅さを呪いたい。




 もう限界、何度もそう思った。しかし、そのときは来た――


 火球がアンデッドの先頭に着弾。同時に、俺は意識を手放した。

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