VIP席
読んでくださってありがとうございます!
「では、試合開始はおよそ三十分後になりますので、それまでにお席にお願いします」
「ありがとうございます!」
シルヴィエの活躍により、ラムを加えた俺たち四人は観戦券を手に入れた。
「やっぱりー、みなさんもミノタウロスを見に来たんですかー?」
席に案内される道中、ラムが話を始めた。ミノタウロスというとあの半人半牛の魔物のことだろうが、それがどうしたというのか。
「何の話だ?」
「え、知らないんですかー!?じゃあ、説明してあげましょー!」
そうしてラムは意気揚々と説明してくれた。その説明によると、今日のコロッセウムの超満員は、半年ぶりに大人気のミノタウロスが出場するかららしい。去年初出場して以来、無敗の実力派。今日は初の対人戦だという。
コロッセウムでは、様々な戦闘を観戦することができる。戦闘の種類は主に三つで、人同士、魔物同士、人対魔物がある。人は剣士もいれば拳闘士もいるし、魔術師だっている。一方の魔物の種類も多岐にわたっており、これまでに出場した種類は優に百を超える。まあ、出場と言っても、捕獲された魔物が闘技場内に解き放たれてるだけなんだけど。
魔物を解き放っても観戦客に危険がないように、観戦席前には結界が展開されている。砦で聞いた話なんだが、砦で使われている結界よりも強力なんだとか。この国の人たちにとっては、国防より娯楽が大事らしい。ロウマンド王国が滅ぶときは、きっと娯楽に滅ぼされるんだろうな。
「試合が始まるまでに、コロッセウムをぐるっと回って見て来れますかね?」
少し顔を赤くしたアレクが言った。そうか、俺は王都に住んでいたからコロッセウムって観戦する場所っていうイメージだったけど、外の人からしたらその外観すらも見物に値するものなんだ。
「見て来れると思うぞ」
「じゃあ、私が案内しましょう」
シルヴィエが案内役を買って出てくれた。外周を回るだけなら一人でも大丈夫だと思うが、慣れているシルヴィエがいた方が安心できるからお願いしておくことにした。
「私たちは先に席に行ってますかねー」
「そうだな」
受付のバッチさんに案内してもらってラムと席に行くと、まさかの最前列。しかも、周りはギッシギシに客が詰まっているのに、俺たちの席は広々空間。あまりのVIP待遇に恐縮してしまう。
「この席、最高ですねー!そこの給仕さん、飲み物くれるかなー?」
ラムは持ち前の図太さを発揮して、早速VIP専用の給仕に飲み物を頼んでいる。俺も図太いとは思うが、お前ほどにはなれねえよ。
「はい、エルさんのー」
ラムが飲み物を差し出してくる。ちゃっかり俺の分までもらったらしい。気が利くというか、恩着せがましいというか。軽く礼を言ってから受け取った。
「エルさんは上手くお仕事やりましたねー」
ラムは俺の隣にちょこんと座って、そんな風に話を始めた。だが、ラムが言うことに俺は心当たりがない。
「何の話?」
「ギルドに対して、国が干渉しやすくなったじゃないですかー。王様に頼まれてたんですよねー?」
「あー、すっかり忘れてた」
「ええ!?エルさんの活躍を間近で見て心を打たれた冒険者が、王国側を認めたっていうのに!」
そんな大層な。第一、俺は活躍なんてしていない。囮となって呪龍の周りをウロウロしていただけだし。
「俺の活躍ってどんな活躍何だよ?」
興味本位で聞いてみた。
「呪龍に飲み込まれても、諦めずに脱出してきたところとか?」
「それを活躍って言うのか?」
「危険を顧みずに仲間を助けたっていうのは、評価されることなんじゃないですかねー」
「ふーん、そんなもんか」
「そんなもんですともー」
危険を顧みずに仲間を助けたと言っても、結局俺はアレクに助けられて脱出できたわけだし、大したことは何もしていない。それで評価されてもむず痒い気持ちになるだけだ。
あれ、ちょっと待てよ?俺のその活躍を間近で見た冒険者が王国側を認めたって、ラムは言ったよな。あのとき、間近に冒険者たちは来ていなかったはずだ。冒険者が来る前に、シルヴィエと宮廷魔術師たちが呪龍を片付けてしまったから。あの場にいた冒険者となると――
「ラム、お前が俺のことをギルドに報告してくれたのか?」
「さてー、何のことでしょー」
この反応、間違いない。俺の活躍とやらをギルドに報告して、ギルドを動かしたのはラムだ。それによって、ギルドは国の干渉をある程度認めてくれたのだろう。そしてそのおかげで、俺は王から頼まれたもう一つの仕事を完了することができたのだ。
「お前、いいやつだな」
「いいもの見せてもらったお礼ですかねー」
「あ、やっぱ最低だったわ」
一瞬でもいいやつだと思ったのを激しく後悔する発言だった。というか、こいつまだあのこと覚えてたのかよ。もう忘れてくれよ……
「何の話をされていたんですか?」
そこへシルヴィエとアレクが戻って来た。空いている方の隣に座りながら、シルヴィエが聞いてくる。
「俺が頼まれてた仕事が上手くいってよかったって話だよ」
「お兄様、大活躍でしたものね!」
「お、おう」
とりあえず、「いいもの」の話を追及されなければなんでもいいや。
「試合、そろそろみたいですよ」
声が増大されるアーティファクトを使った場内アナウンス。それによると、ミノタウロスと戦う人間は、今日が二戦目となる新人らしい。そんな新人を無敵のミノタウロスと戦わせて大丈夫なんだろうか。
挑戦者的立場である新人が入場してきた。ちょうどVIP席の反対側の入り口からの入場だ。最前列とはいえ、百メトルは離れているであろう反対側から入場してくる人間なんて、小さくてよくわからない。が、中央に進み出て来るにつれて、その姿が見えてきた。
上半身は裸。特段身体が大きいわけではないが、隆起した筋肉は遠目でもその密度を感じさせる仕上がりだった。やや日に焼けた肌は、筋肉の凹凸を際立たせるのに一役買っていた。そして特筆すべきは――
「あいつ、素手じゃん」
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