王都観光
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「お兄様と王都観光、楽しみです!」
さあ、王都観光としゃれこみますかとういうとき、そんな声が聞こえてきた。振り返ると、そこにはシルヴィエ。いつからいたんだろう。ちょっと怖い。
「あ、アレクさんもいたんですね」
まるでアレクがおまけかのような言い草。あくまで主役はアレクだぞ?予定では、俺がアレクに王都の案内をするはずだったんだが、自然と三人で王都を観光する感じになってしまった。いや、別にいいんだけどさ。
「ア、アレクはどこ行きたい?」
「そうですね、とりあえず腹ごしらえを」
有名な観光地を言ってくれるもんだと思っていたら、まさかの腹ごしらえ。とはいえ、俺も今朝から色々あって腹減ってるし、適当な屋台で何か食べるか。
「俺も腹減ってたんだよね。そこら辺の屋台でいいか?」
「お兄様は昨日の朝から何も食べていないわけですし、お腹が減っていて当然ですよね」
「え?」
昨日の朝からとはどういうことだろう。今日は早朝に朝ごはんを食べてから、朝から昼にかけて呪龍との戦いがあった。で、今は日の登り具合からして昼下がりのはずだが……
「気づいてませんでしたか?副長官は一日寝てたんですよ?」
「えええ!?」
全然気づいてなかった。階段から転げ落ちて一日気を失ってたってダサすぎるんだけど。
「疲れてるみたいですし、消化に優しいものがよさそうですね」
アレクの優しいセリフによって、俺のダサさが強調された気がした。
大量の具材を煮込んだ謎のスープとパンをいただいてから、改めて観光をスタートさせた。これまでの移動はピーちゃんに頼っていたが、ピーちゃんは軍本部近くの係留所にてお留守番しているので、今回は徒歩で移動することになる。
「で、行きたいところは?」
これを聞くのは本日二回目である。
「大聖堂、とか?」
アレクの曖昧な答えを聞いてから、ようやく俺は自分の失態に気づいた。そもそもアレクはこの王都に詳しくないのだから、行きたいところと言われてもピンとこないのだ。それにもかかわらず二回も同じことを聞いてしまうとは、案内人ひいては上司失格である。一回目の「腹ごしらえ」という答えも、今考えれば行きたいところがわからなかったゆえかもしれない。
「よし、大聖堂行ってみるか!」
俺は王都が嫌いだが、アレクにも嫌いになってもらう必要はない。嫌いなものが多いと、その分人生がつまらなくなるからな。アレクには、むしろ王都を好きになってもらえるように案内しようと心に決めた。
王宮から大聖堂までは、徒歩で三十分ちょっと。道はずっと下るような感じで、足腰にくる。砦の見回りで普段から歩いて慣れてなければ、きっとすでにダウンしていたことだろう。砦でのあんな仕事が役に立つ日が来るとは思わなかった。アレクも砦歴は俺より長いし、軽快に歩みを進めている。問題は――
「は、速いです……」
シルヴィエが何度目かの弱音を吐いた。シルヴィエの弱点を一つ発見できて俺としては嬉しいんだが、当のシルヴィエは大変そうである。
「こうなったら……」
そう言ってシルヴィエは立ち止まった。次の瞬間、シルヴィエは直立姿勢で地面を滑るように移動し始めた。俺とアレクをあっという間に追い越して行った。
「何それ、気持ち悪っ!」
「ズルいですよ!」
アレクはズルいとか言っているが、あの気持ち悪い移動方法がズルなのか何なのか俺には判断がつかない。見てはいけないものを見てしまったような、そんな気分だ。
「お先に失礼します!」
その言葉を最後に、シルヴィエの姿は見えなくなった。何なんだ、あれは。
「風魔法で自分の体を浮かせるとともに、身体の後ろから風を吹かせて移動しているんでしょうね。普通、空中で体勢を維持するのも難しいですから、とても高度な魔法をいくつも使っていると考えられます」
アレクに説明を受けたが、そんなに高度な魔法なら、もうちょっと見た目がどうにかならなかったものかと思ってしまった。
五分後、俺たちは大聖堂前の広場の入り口で合流した。理由はわからないが、今日は人が多い。この広い広場が人で埋め尽くされるのは、ジーズ教の神事とかがあるときくらいなもんだが、これはいったい。
「呪龍が倒されたことを祝っているようですね。ジーズ神を称える声しか聞こえてきません」
「なるほどね」
呪龍がジーズ教の敵とかそういうわけではないだろうが、災いが退けられれば、ジーズ教徒たちはそれを神のおかげだと考える。それでお祝いというか、神への感謝を捧げる何かしらの宗教的行事を行っているのだろう。俺は教徒じゃないから詳しくわからないけど。
「これじゃ大聖堂に近づけねえな」
「ここからでもすごさはわかりますけどね」
「でも中に入ると、また王宮とは違った様式できれいなんだよな」
「また明日にしてみればどうですか?」
シルヴィエがそう提案してくれたが、あまり長く王都にいるわけにもいかない。一応、俺は砦の副長官だからな。
「明日、帰る前に寄れそうだった見てみるか」
「それでお願いします」
もし明日見れなくても、最終手段として、中佐に頼んで王都への滞在時間を延ばしてもらうというのもアリだ。
そんな事情もあり、大聖堂からはすぐに離れて、そこから十分足らずで着く闘技場、いわゆるコロッセウムにやってきた。だがここも超満員で、席に余裕がないらしい。ここは一つ、アレクのために言えの権力を使わせてもおうと思う。
「あの、席を用意してほしいんだけど」
受付に行って、そう切り出した。
「お客さん、今日はもう席が――」
「すみません、バッチさん。三つお席を用意してもらえませんか?ほら、この方はかの英雄エル・マラキアン様で……」
俺が交渉する前に、すでにシルヴィエが俺を材料に交渉を始めていた。ちゃっかり名札にある名前で呼んでるのが小賢しいし、胸の前で手を組んでお願いする仕草はかわいい。シルヴィエのような美少女にこんなことをされたら、イチコロだろう。
「な、なんと、あのマラキアン家の!今回の呪龍討伐おめでとうございます!ぜひ、そのお祝いも兼ねてお席を用意させてください!」
なんかめちゃくちゃ歓迎されてるし。シルヴィエの交渉術がすごい。あと、なんでこの人俺が呪龍討伐に絡んでいるとすでに知っているんだろう。……まあ、あれだけの騒ぎになっていれば、知っていても不思議ではないのか?
「ありがとうございます!では、席を三つ――」
「四つです!」
シルヴィエの声に被せるように聞こえてきたのは、そろそろ聞きなれてきたあの声。ラムだ。俺たちに混ざって、自分の席を確保しようという魂胆なのだろう。
「図々しいやつだな」
俺の言葉に、ラムはえへへーと笑うだけだった。
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