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アレクの秘密

読んでくださってありがとうございます!

 俺としては、最終的に死ぬのだとしても、諦めて殺されるよりは最後までもがいて殺される方がいい。今から俺がやろうとしているのは、そんな俺にぴったりの悪あがきだ。上手くいくなんてとても言い切れないが、成功する可能性があるならそれに賭ける。

 

 シルヴィエのそばまで運んでから、中佐を肩から降ろす。俺の作戦が失敗したとき、シルヴィエに中佐を守ってもらうため、ではなく中佐にシルヴィエを守ってもらうためだ。たとえ中佐がシルヴィエのことを守ってくれなかったとしても、シルヴィエの狙われる確率が小さくなるならそれでいい。

 

 「ラムさんも、ここへ」

 

 俺が中佐を運んできたのを見て、シルヴィエが言った。時間はないが、妹の願いを聞き入れないわけにもいかなかった。返事もしないで走り出し、一瞬でラムを抱えて戻った。人生の中で、一番速く走った瞬間だった。


 「お二人のことは、私が必ず守ります」

 

 シルヴィエが力強く言い切った。うん、何か勘違いしているらしい。お前が狙われないように、中佐とラムを囮として置いておくだけだぞ。だが、シルヴィエのように優しい子の前でそんなことは言えない。

 

 「た、頼んだぞ」

 

 歯切れ悪くなってしまったが、シルヴィエの意気込みを無碍にしないよう話に乗っておく。

 

 「中佐、剣借りますね」

 

 「お、おい」

 

 体が思うように動かせない中佐から、問答無用で鞘ごと剣をいただく。自分の剣は、アレクとゴロゴロ回っていたときに落としてしまったのだ。剣はなるべく長い方がいいし、中佐の長剣がちょうどいい。

 

 「じゃ、行って――」

 

 言い終わる直前、身体にぴたっと何かがくっついた気がした。脇腹を見れば、鮮やかな赤。その刹那、足が地面を離れた。そして、身体が空を飛んでいるような感覚に襲われる。いや、実際に空中を移動していた。大きく開いた呪龍の口へと吸い込まれていく。遠くの方に、シルヴィエの悲鳴が聞こえた気がした。

 

 二秒とか三秒の時間だったと思う。二十メトル近くの距離をそれくらいで移動し、今は呪龍の口の中だ。めでたく作戦の第一段階を突破した。

 

 中は暗いので、手元に火球で明かりを確保する。王都までの移動中、少し練習していたのが役に立った。明かりに照らされた口内を見れば、その巨大さがわかる。まるで洞窟のようで、火球一つでは奥まで照らせないほど広い。洞窟と違う点と言えば、地面、すなわち舌が柔らかいことくらいか。

 

 俺が火球を使ったことに気づいたのか、舌が動き始めた。舌を器用に動かし、俺のことを喉の奥へと落とそうとしている。まるで、地面が波打っているかのような動きだ。しかし、その波に合わせてジャンプしていれば、当分飲み込まれることはなさそうな気が――

 

 「あ、やばいかも」

 

 そう簡単に飲み込まれることはないと思っていたが、呪龍は舌を巻いて上顎に沿わせるように動かし始めた。俺の視点からすれば、舌の壁が迫っているような感じだ。

 

 舌を斬るか、飲み込まれるか、というおそらく人類初であろう二択を突きつけられる。飲み込まれてしまえば、消化されておしまいだ。よって前者を選択すべきだろうが、舌を斬って返り血を浴びて体が麻痺してしまえば、飲み込まれるのも時間の問題となる。

 

 そこで俺は、その選択を遅らせることにした。物事を先延ばしにする才能は、俺の右に出るものはない。舌から飛び降りて、舌と下顎の隙間に隠れることにした。 

 

 その先にはアレクがいた。火球で顔を照らしてやると、目が飛び出るんじゃないかというくらい驚いていた。こいつも俺と同じ考えで、舌と下顎の隙間でやり過ごすことにしたらしい。

 

 「副長官、何してるんですか!?」


 俺が話しかける前に、アレクが叫んだ。


 「助けに来てやったんだよ」


 呪龍を殺しに来ただけだが、それが上手くいけば間接的にアレクを助けることになるし、嘘ではないだろう。

 

 「で、でも、ここに落ちちゃったら、もう出られませんよ」

 

 「え?」

 

 「壁っていうか、口の中が少しヌルヌルしてるから、上に登れないんですよ」

 

 「なるほど」

 

 ここに落ちてしまえば、上には戻れないらしい。すなわち、上顎に剣をぶっ刺して脳まで斬ってやろうという俺の作戦は、もう不可能になってしまったということだ。

 

 「じゃあ、どうすんだよ」

 

 「知りませんよ!!」

 

 アレクは目に涙を浮かべながら言った。……え、どうしよう。作戦と全然の出鼻挫かれまくりなんだけど。ここで死ぬしかないのか?ここで白骨化するっていうのか?そんな魚の小骨みたいなことになりたくない。

 

 「これで出るしかないか……」

 

 そう言って、俺は腰の鞘に触れた。中佐から半ば奪うように借りてきたミスリル製の長剣。柔らかい口内を掻き切って、外に出ることができないだろうか。でも、肉を斬れたとしても、一番外側には鱗があるし難しいか。

 

 舌の付け根付近に立ち、改めてその質量を感じる。すでに舌の動きは止まっており、俺を飲み込むことに成功したと勘違いしているのかもしれない。となると、呪龍が別の人間を食べようとするのは時間の問題なんじゃないだろうか。

 

 ここまで懸命に戦ってくれたシルヴィエを危険に晒すわけにはいかない。次の人間が食べられるまでに、ケリをつけなければ。


 しかし、いったいどうすればいいのか。意気揚々と呪龍の体内に乗り込んだはいいが、取れる行動があまりに少ない。巨大な舌に寄りかかって考え耽る。


 「アレク、魔法使えたりしない?」

 

 貴族でもない田舎者が使えるわけはないが、アネモネのような例もある。念のため聞いてみた。まあ、半分以上冗談のつもり――

 

 「……使えますよ」

 

 「ええ!?」

 

 今、使えるって言った?本当に?

 

 「それ、本当?」

 

 「まあ」

 

 なんだかアレクらしくないボソボソした話し方だ。本当は使えないのに、俺を励ますために嘘をついているとか?いや、こんな場面でくだらない嘘をつくわけがない。だが、にわかには信じられない。

 

 「なんで、今まで黙ってたんだ?」

 

 「聞かれませんでしたし」

 

 それはそうだ。魔法が使える者は王都に集まってくる。あんな田舎にいる時点で、魔法が使えるとは思わないのが普通だろう。だがもうこの際、細かい事情はどうでもいい。魔法が使える人間がいるなら、ここから脱出できるかもしれないのだから。

 

 「協力してくれるか?」

 

 「秘密にしてくださいよ」

 

 「もちろん」

 

 暗闇に、希望の光が見えた気がした。


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