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無茶振りは止まらない

読んでくださってありがとうございます!

 中佐からの無茶振り的な質問。もちろん、答えなど用意しているわけがない。さっきからずっと想定外の連続なんです。無能は決まりきったことしかできないんです。俺にはもうどうしようもありません!と叫んで逃げ出したい気持ちをグッと抑える。そんなことをしても、どうにもならないのはわかりきってるから。

 

 「……剣が通らないとき、取れる行動は二択です」

 

 俺は恐る恐る話を始めた。声が震えるのを抑えようとして、少し裏返り気味の声になってしまう。内容はまとまっていないが、一か八かで――


 「おっと、お前の考えを聞いている余裕はないようだ。何か来るぞ」


 中佐が前を向いたまま言った。


 「え?」


 何かって何よ?と俺も顔を正面に向けると、呪龍の喉元が膨らんでいるのが見えた。まるでカエルの鳴き袋のようだ。どう見ても、先ほどまでとは様子が違う。たしかに何か来そうだ。

 

 「呪龍から距離を取れ!」

 

 中佐の掛け声により、再び全員が言われた通りの行動を取る。中佐の声には、不思議と人を動かす力があるような気がする。

 

 何の前触れもなく、呪龍の口が開かれる。途端、溢れ出してきたのはどす黒い煙のようなもの。地面を這うようにこちらへ向かってくる。

 

 そこへ一羽の鳥。暢気なもので、呪龍の目の前を通過しようとした。必然的に、黒い煙に触れることになる。

 

 「あれが石化の呪いか」

 

 煙に全身を突っ込んだ瞬間、鳥が地面に落ちた。それを見て中佐が呟いた。

 

 吹いている風の影響もあり、石化ブレスは向かって左側へと流れていく。こちらには届きそうにない。しかし、流れていく先には市民たちの避難した広場がある。ここから広場までは距離があるとはいえ、ブレスがいつまで呪いの効果を持つのかわからない以上、脅威なのは間違いない。

 

 「石化の呪いを含んでいるにしても、所詮はブレス。吐息に過ぎない。空気の流れを制御することによって、拡散を防ぐことができるのではないか?」

 

 中佐が提案する。なるほど、ブレスを制御するとか考えてもみなかったな。たしかに、砦の魔術師にも沼気を制御してもらったし、シルヴィエならその程度のこと造作もなさそうだ。この場にいる魔術師がシルヴィエただ一人という点は、少し気がかりではあるけどな。

 

 「やってみましょう」

 

 シルヴィエの返事はいつものように早かった。俺もそんな風に投げられた仕事を素早くこなしてみたいものだ。いや、理想は仕事がないことなんだけどね。

 

 黒煙がみるみるうちに収束していく。そして、石化ブレスを収束させた大きな黒い球が完成した。ここまで上手くいくとは思わなかった。これなら石になってしまうのを心配しなくてもよさそうだ。冷却魔法で動きを封じ、風魔法でブレスを封じる。シルヴィエ一人で呪龍を完封している。

 

 「さすがだな。完璧な仕事だ」

 

 その歳で中佐からお褒めの言葉をもらうとは、シルヴィエは末恐ろしい子だ。知ってたけど。

 

 「とんでもございません。しかし、問題が一つあります。今後もこれを続けていくとなると、いずれ並行処理の限界が来ます。すると、今かけている冷却の魔法を停止せざるを得ません」

 

 俺が心配していた通り、呪龍相手に魔術師が一人しかいないというのは厳しいようだ。厳しいというだけで、現時点でどうにかなっているのがそもそもおかしいんだが。


 「ならば、それまでにケリをつけなければいいだけの話だ」

 

 中佐は自信満々に言い切った。

 

 「何か策があるのですか?」

 

 あそこまで堂々と言い切るんだ。中佐には策があるに違いないと思い、聞いてみた。

 

 「それを考えるのが、お前の仕事だろう?」

 

 「あ、はい」

 

 人任せにしておいて、そんなに堂々としていられるものだろうか。無能に仕事を振るのは止めてほしい。策なんてそうポンポン思いつくわけじゃないんだから。

 

 アンデッドがせめてきたときは、レポートにまとめていたから作戦を思いついただけなんだよ。その作戦だって、砦の隊員たちから直されてようやく形になったぐらいだし。あー、無理無理無理無理。

 

 「とりあえず、宮廷魔術師に応援を要請しましょう。それから冒険者にも」

 

 無難な提案を一つしておく。これをしておくだけでも、何かやった感が出る。何もしていないよりはマシだ。無論、その提案が的を外していなければだが。もし外していれば、たいていの場合、何もしなかったときよりもさらに無能とみなされる。提案をするときは、それなりに自信があるときに限る。俺のような窓際軍人は特にな。

 

 「そうだな。だが、王宮はここから三十分、冒険者ギルドも二十分はかかる。呼んで連れてくるなら、往復でその倍かかる。それまで持つか、マラキアン嬢?」


 今回の提案は無難も無難なものだったが、必要なものであったため、特に無能ぶりが露呈することもなかった。俺の提案を受けて、中佐は話を広げてくれた。


 「軽々しく持つとは言い切れません。自分の全力がどれほど持つのか、十分承知しておりませんもので」

 

 シルヴィエは悔しそうに言った。

 

 「そうか。では、持たないものと考えておく方がいいだろうな」

 

 中佐の言葉はやや厳しく聞こえるが、たしかにその方が現実的な考えだ。特定個人への頼り過ぎは、その人がいなくなった後の穴が大きすぎるからな。

 

 「さて、この膠着状態を続けているわけにもいかない。打開策を聞こうじゃないか」

 

 まだまだ無茶振りは続く。軍人はつらいよ。


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