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復活

読んでくださってありがとうございます!

 ロックの顔を思い出そうと奮闘していると、肩をツンツンとつつかれる。シルヴィエかと思ったが、見るとアレクだった。ロックの顔は思い出せなかった。

 

 「あの、呪龍って地竜なんですかね?」

 

 予想外の言葉に、しばし固まってしまう。そんな俺を見て、アレクは詳しく説明すべく言葉を継いだ。

 

 「あ、いや、なんと言うか、呪龍が想像していた姿違っていたので……」

 

 どうやら、アレクも俺と同じようなことを考えていたらしい。ドラゴンと言われれば、思い浮かべるのは飛竜のような姿だ。しかし呪龍にはどう見ても翼はないし、四足歩行と見える。その姿はまるで――


 「ピーちゃんみたいですよね」

 

 アレクに一瞬先を越されたが、言いたいことは同じだった。ピーちゃんも呪龍も翼のない四足歩行のドラゴン。アレクの言う通り、呪龍も地竜の一種なのかもしれない。個人的には、ピーちゃんの方が呪龍よりも細身で好みだけど。

 

 って、そんなことはどうでもいい。ピーちゃんが実は呪龍の親戚で、俺たちを攻撃しないよう説得してくれるとかなら話は別だが、ピーちゃんが呪龍に似ているからってそれがどうしたというのだ。

 

 ……いや、待て。どうでもよくないかもしれない。ピーちゃんも呪龍もドラゴンで、なおかつ姿まで似ているとなれば、ピーちゃんが苦手なものは呪龍も苦手な可能性が高いのではないだろうか。そして、ピーちゃんが苦手なものと言えば――

 

 「シルヴィエ、ここら辺を寒くすることってできる?」

 

 「できますけど、暑いですか?」

 

 今は十二月で、しかも今は空が雲に覆われている。暑いわけがない。

 

 「呪龍を倒すための作戦だ」

 

 「なるほど。寒くというのは、具体的にどれくらいでしょう?」

 

 「ちなみに聞くけど、どれくらいまで寒くできるの?」


 純粋な好奇心から質問した。

 

 「試したことはありませんけど、時間を掛ければダルガ湖の湖面を全て凍らせることくらいはできるかもしれません」

 

 「へ、へー。シルヴィエはすごいなあ……」

 

 ダルガ湖は我が国でも最大級の湖で、あそこが凍ったなんて話は聞いたことがない。どの程度まで寒くすればいいかはわからんが、そこまでは必要ない気がする。シルヴィエが本気を出したら、俺たちまで凍っちゃいそうだし。

 

 「とりあえず、呪龍の周りだけ温度を下げるとかできる?」


 「やってみます」


 やってみますでできちゃうのがすごいよなあ。俺なんか温度を下げるのにどんな魔法を使えばいいかもわからない。


 「では」


 さっきのような圧力は感じさせずに、シルヴィエは静かに魔法を使い始めた。


 数秒後、呪龍の周りに白い靄がかかり始めた。空気中の水分が凍り付いているのだろう。詳しいことはわからないから、間違っているかもしれないけど。


 「副長官、アレを見てください!」


 アレクが呪龍の方を指して叫ぶ。シルヴィエの魔法を見て驚く気持ちはわかる。


 「シルヴィエの魔法すごいよな」


 「それもすごいですけど、呪龍が!」


 言われてから気づく。白い靄で見づらくなっているが、よく見るとその体は鱗で覆われていた。肉体の細部までが仕上がってきたということは――


 「呪龍の復活が近そうだ。そろそろ、お前の策を聞かせてもらおう」


 中佐も呪龍の変化に気がつき、俺と同じ考えに至ったらしい。上手くいくかはわからないが、俺の今の考えを伝えるしかない。


 「作戦は実に単純です」


 こういった枕詞を置くことによって、考えをまとめる時間を稼ぐことができる。もちろん、まったくまとまらないときもある。今の俺のように。


 「ほう」


 中佐の反応は短いものだったが、多少は興味がありそうな口ぶりだった。


 「まずですね、呪龍の周りを冷やします」

 

 話すときは結論を初めに言えとよく言われるが、馬鹿の一つ覚えにそうした話し方ばかりしていてはいけない。時には、こうして相手の興味を引けるような言葉選びが必要になることもある。俺の場合、結論が固まっていないから結論から話せないだけだが。

 

「冷やす?」

 

 中佐は訝しげな表情を浮かべ、食いついてくる。存外上手くいっているらしい。

 

 「なるほどな。呪龍とて大きなトカゲに違いない。寒さは苦手なはずだから、冷やすことによって動きを鈍らせるのか」

 

 「そ、その通りでございます」

 

 上手くいっていると思ったんだけどなー。中佐の察しのよさがすごすぎて、もう何も言うことないや。

 

 「しかし、ドラゴンお得意のブレスはどうする?炎で温度を上げられてしまえば、その努力も意味を成すまい」

 

 あ、そんなこと考えてもみなかった。中佐の思考速度が尋常じゃない。半分しか聞いていない話の先を予測し、懸念点まで出すとかおかしいって。

 

 「それで、そこはどう考えているんだ?」

 

 中佐は追い打ちをかけてくる。

 

 「は、はい。その点に関しましては……」

 

 まずい、何も思いつかない。頭が真っ白だ。

 

 「呪龍のブレスは石化の呪いを吐き出すもので、一般的なドラゴンのブレスとは異なります。中佐のご懸念には及ばないものと愚考します」

 

 スラスラと述べられる中佐への回答。もちろん、俺からではない。想定外の問いに対してここまで饒舌に答えを言えるなら、軍の中でもっとうまく立ち回れていることだろう。

 

 俺を救ってくれたのは、シルヴィエだった。持つべきは優秀な妹だ。

 

 「ですよね?お兄様」

 

 「その通りだ」

 

 今この瞬間の俺の仕事は、妹のサポートを無駄にしないこと。シルヴィエから求められた同意に、最大限の力で頷く。

 

 「そうか。ならば、後は待つだけということだな?」

 

 「おっしゃる通りです」

 

 堂々と答える。ここまで堂々としていれば、尋常じゃない冷や汗を隊服の中にかいていることなど想像もできまい。

 

 「あ!」

 

 唐突に叫んだのはアレク。反射的に呪龍の方を見た。体が不随意に震える。この震えが何によるものなのか、考える必要はなかった。恐怖だ。

 

 呪龍が、復活した。


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