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暴力反対

読んでくださってありがとうございます!

 「死んだか」

 

 中佐が言った。マルヌスが死んだことで魔法が解けたのだろう。怖いから黙っていてほしいのが正直なところだが、そんなことを言えば、次の瞬間に首はないだろう。軍人をクビになるとかそう意味ではなくて、物理的に。

 

 「なぜ自殺したんでしょうねー。封印具に操られていたならー、呪龍の復活を目指したはずですがー」

 

 尋問室にラムの声がかすかに反響する。言われてみればそうだ。アーティファクトによる精神干渉は強烈で、容易に抜け出せるものじゃないはずだ。そうであるならば、自殺などせずに最後の一人を殺そうとしたのではないだろうか。

 

 「何はともあれ、これで事件は終了ですねー」

 

 ラムが話を終わらせるように言った。自分の疑問に誰も答えてくれないから気まずくなったのかな?あるよね、そういうこと。

 

 「そうだな」

 

 ラムの言葉に、今度はしっかりと中佐が応じてくれた。俺はと言えば、マルヌスが自殺したことが気がかりで反応する余裕がなかった。中佐なら、起きなかったことを考えても仕方がないとか言いそうだけど、俺は気になっちゃう人間なのだ。

 

「人を呼んでこよう。こいつを片付けねばな」

 

 本来は俺が行かなければならないんだろうが、中佐自ら赴いてくださった。こういうときに率先して動けないと、使えない部下だと思われてしまうな。いや、もともと使えないからいいんだけど。

 

 中佐が部屋を出ようと踵を返したとき、俺は見た。マルヌスの手元が暗く輝くのを。

 

 これはー、あれだな。まずいな。うん、誰がどう見ても危険を感じる輝きだ。

 

 「中佐!」

 

 何かしら状況が伝わるようなことを言うべきだっただろうが、ただ中佐を呼ぶことしかできなかった。俺のような驚くべき無能には、仕事ができる人を呼ぶことが仕事だと思っている者が一定数いる。

 

 すでに尋問室から出かかっていた中佐は、顔だけをこちらに向けた。そして当惑したような表情を浮かべる。

 

 「何だ、それは?」

 

 実にシンプルな質問だったが、答えに窮する。答えてしまえば、それが現実のものになってしまう気がしたからだ。答えてあげるが世の情けとか言ってられない。

 

 「呪龍が、復活する?」

 

 俺の代わりにラムが答えた。この場の全員の脳裏によぎったであろう最悪の答えを。

 

 「私もそれを考えていた」

 

 中佐は封印具の発する光を眺めながら、何でもないことのように言った。予想通り、俺以外の二人も同じことを考えていたみたいだ。

 

 ならば、と言って中佐は剣を抜いた。抜いたのは左腰に差している二本のうち短い方、レイピアだ。中佐はそれを構えるでもなく、手にぶら下げたままマルヌスの死体に近づく。

 

 剣を持った中佐は、封印具にも劣らぬような圧力を感じさせた。しかし、それでいて歩みは優雅。俺が一生をかけても身に着けられなさそうな空気感だ。これが最強のロウマンド軍の中でも、トップクラスの実力者なのだと理解する。窓際志向の俺とは格が違う。

 

 俺も中佐のような実力があればなあ、と考えたことは何度もある。普段から窓際サイコーと言ってはいるが、強者に憧れがないわけではないのだ。

 

 実力があれば、軍で成り上がることを目指したかもしれない。ちょうどケイ兄みたいに。しかし、俺は俺なのだ。家柄がそこそこいいだけの凡人中の凡人。俺には俺の生存戦略が存在するのである。

 

 ガキンッという硬質な音が、俺を思考の渦から解放した。音の発生源は中佐の足元。レイピアでマルヌスの手ごと封印具を貫いている。剣を抜いて何をするのかと思ったら、封印具を破壊したらしい。中佐ってば大胆なんだからぁ。

 

 って、破壊!?そんなことしちゃって大丈夫なの!?いきなり呪龍が飛び出してくるとかないよね……?

 

 「あの、それ壊しちゃって大丈夫なんですかね?」

 

 「知らん。が、見ていて気分が悪かったのでな」

 

 即答された。いつも合理的で冷静沈着な方だと思っていたが、意外と衝動的な面もあるらしい。少佐や大佐ほどでないにしろ、中佐にも武闘派な側面があるんだろう。

 

 改めて思うけど、そういう素質がないと軍でやっていくのは難しいよな。そういう素質を持たない俺が窓際にいることを考えれば、説得力のある仮説だ。自分で言ってて悲しいけど。……いや、悲しくなんてない。俺は暴力が嫌いなだけなのだ、そうなのだ。


 「とはいえ、これで呪龍が復活したときには、お前が何か策を用意してくれているだろうからな。安心して破壊することができた」


 中佐はこちらに体を向けて言った。何も考えていない俺への皮肉なのか、それとも俺の信頼なのかはわからない。でももし後者なら、すみません。なんの策もないんです。だから呪龍が復活していれば、中佐の剣技に頼るほかありませんでした。とは口が裂けても言えない。


「もちろんです。呪龍が復活した際の策は用意してあります」

 

 さらりと嘘をつき、その場を流す。見たところ呪龍が飛び出してくるような気配はないし、俺の嘘が暴かれることもないだろう。

 

 「私に斬らせてくれるんだったな?」

 

 そういえばそんなことを言っていた気がする。そのように取り計らうとか余計なことも言っちゃった気がする。

 

 「無論、そのような作戦を立てておりました。徒労に終わってしまったようですがね」

 

 嘘に嘘を重ねていくことしかできない俺。良い子のみんなは、嘘をついちゃダメだぞ!

 

 「ああ、実に惜しいことだ」

 

 中佐は薄く笑みを浮かべながら言った。顔が怖いんだよなあ。

 

 「ギルドの中にも、こんな幕引きでは納得できない者はいるでしょうねー」

 

 ラムが言った。犯人がギルド所属の冒険者に成りすましていたとすれば、ギルドの沽券に関わるだろうからな。

 

 「冒険者たちは、呪龍狩りがしたかったでしょうからー」

 

 「いや、そっちかい!」

 

 「何がです?」

 

 ラムはキョトンとした顔。

 

 「ああ、いや、何でもない」

 

 てっきりギルドのメンツが潰されたとかそういう話だと思ってたから、反射的にツッコミを入れてしまった。冒険者は自由人が多いし、別にそんなことは気にしてないか。

 

 この国の人たちは血の気が多くて嫌だな、と子供のような感想を抱いた俺だった。



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