おばちゃんのミートパイは美味い
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昨日の四人、つまり俺、シルヴィエ、ラム、アレクは改めて集合した。
「あーんなシンプルな作戦が上手くいくとは思いませんでしたよー」
昨日のアレクが考えた作戦が上手くいったことを伝えると、ラムがいの一番にそう言った。少し機嫌がよさそうだ。
「俺もそう思う。シルヴィエの後押しがなければ却下していたような作戦だったからな」
「そうだったんですか!?」
アレクは驚愕に目を見開いていた。昨日もやんわりと否定的な意見を述べたと思うんだが、そういうようには捉えていなかったらしい。お気楽なやつだ。
「でも、今回のことでアレクのことを見直したよ」
「それならいいですけど」
それならいいのかよ。
「まあ、それはそれとして、あとは犯人がいつ姿を見せるかだな。向こうからの情報を完全に信じるというのは愚策だろう」
そういうわけで、おばちゃんの店でミートパイを食べながら、再び作戦会議を開くことにした。議題は、呪龍を倒す、もしくは封印する方法についてだ。
ここのミートパイは二日連続になるわけだが、まったく飽きのこない味だ。学園時代には、二週間ほど続けて食べた記憶もある。
「おばさま、今日も絶品です」
「美味しいです!」
シルヴィエもアレクも、俺と同じように飽きてはいないらしい。
「おうおう、ありがたいことだねえ。これからも御贔屓に頼むよ!」
シルヴィエの言う通り、たしかに今日も絶品だ。俺を一捻りにできそうな巨躯からこんな繊細な味が生み出されることがいまだに信じられない。ラムなんて卓についてから無言で食べ続け、もう四つ目に手を伸ばそうかというところだ。
「満腹ですー」
「だろうな」
即座に四つ目を食らい尽くしたラムは、満足そうにケプーと息を吐いた。はしたないですよ、とシルヴィエに窘められている。昨日の食事とは比べ物にならないほど和やかな雰囲気だ。事件解決が近づいていることを感じさせた。
結局、みんなの食事が一段落するまでは、まともに作戦について議論を交わすことはなかった。
「万が一の場合だけどさ、呪龍が復活したらどう対処するべきだと思う?」
改めて議題を投げかける。
「古代竜人族の魔法と私たちの魔法を簡単に比較はできませんが、古代竜人族の魔法もかなり強力なものだったと思われます。そんな彼らが封印しかできなかったとなると、かなり厳しい戦いになることが想定されるかと」
シルヴィエからの真っ当な意見に、俺を含めたシルヴィエ以外の三人はしばし沈黙。やはり呪龍が復活してしまえば、最強国家の名を冠する我が国でも、対処は困難を極めるかもしれない。
最善が呪龍復活の阻止であることは言うまでもないが、マルヌスが投降するというのは嘘かもしれない。あいつを捕縛するまでは油断できないのだ。
そうは言っても、なかなかいいアイデアは浮かんでこない。何か考えなくてはならないが、その取っ掛かりすらも掴めず、実りある議論にはならない。どこからどう考えるべきなのか……
呪龍とは、大きな目で見ればドラゴンだ。ドラゴンの対処法から考えれば、何かいいアイデアが出るかもしれない。
「ドラゴンって、普通はどんな風に倒すんだ?」
「種類によりますけどー、ドラゴンの中でも飛竜種を倒すってなったらパーティーをいくつかまとめた討伐隊を組まないとダメですねー。あと必要なものはー、討伐隊の半分が犠牲になる覚悟とかですかねー」
誰に聞いたわけでもないが、答えてくれたのはラムだった。なるほど、冒険者なら依頼があればドラゴンにも挑むことがあるのだろう。
「何かいい戦法みたいなのはないのか?」
「んー、そもそも討伐依頼自体が滅多にないですからねー。有効な戦い方は知りませんねー」
「そういうものなのか」
あちこちを駆けまわる冒険者でも、野生のドラゴン様と遭遇する機会は意外とないらしい。それゆえ実戦経験が蓄積しておらず、いい戦法とかもないということか……
シルヴィエの言葉で十分思い知らされた気になっていたが、今のラムの言葉でさらに現実を突きつけられた気分だった。ドラゴンってすごいんだなあ、という子供じみた感想が溢れるばかりだ。大きなくくりではピーちゃんもドラゴンだと思うんだけど、さすがに伝説の呪龍と比較してはかわいそうか。
「お食事中すみません、マラキアン少尉。早急に軍本部へお越しください。中佐がお呼びです」
突如現れた軍服姿の男に耳打ちされる。また中佐がお呼びのようだ。実は、俺って中佐に気に入られてるのかな?とありもしないことを考えてしまう。さっきは中佐の方から現れたが、今回はそんなことはないようだ。
そういえば、少尉なんて久々に呼ばれたな。砦の副長官は少尉扱いなんだよな。自分の階級が意外と高いことを意識させられる。窓際を求めて国境警備隊に行ったはいいが、責任を取らねばならぬ立場になったのは、誤算だった。
「何かあったのですか?」
シルヴィエが心配そうな顔で聞いてくる。耳打ちされた内容は聞こえていなかったはずなのに心配されているということは、俺は嫌そうな顔をしていたのだろう。
「中佐に呼ばれた。急いで来いとのことだから行ってくるよ」
用件を伝えられたわけではないので、中佐に呼ばれたということだけを告げる。
「わかりました。いってらっしゃいませ」
それを聞いて、シルヴィエは鈴の音のような声で送り出してくれた。
小走りで向かうと、中佐の部屋に着くころにはだいぶ息が上がっていた。部屋の前で荒い息を整える。
「入れ」
例のごとく中佐から声がかかる。
「失礼します」
今朝、礼は必要ないと言われたが、これくらいは言わないと逆に気持ちが悪い。
そして中佐の部屋には、鋼鉄製と思われる拘束具に猿ぐつわを嚙まされた瘦せ型の中年男。おまけに半裸だ。この変態を俺に見せて、中佐はどうしたいというのだ?
困惑した俺を見てから放った中佐の一言は、驚くべきものだった。
「お前は見たことがなかったか?こいつがマルヌス・フィンフィルド。今回の事件の首謀者だ」
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