アレクのお手柄
読んでくださってありがとうございます!
今日で一か月毎日更新したことになります。みなさんのおかげです。
「呪龍について軽く話しておこうか」
古代竜人族の伝承で知ったことくらいしか話せないけど、と前置きをしてから俺は話始めた。
まず呪龍の特徴と言えば呪いだ。呪いの中でも石化の呪いである。伝承によれば解呪可能とのことだが、古代竜人族に伝わる秘宝が必要らしい。俺たちからすれば古代竜人族のアーティファクトになるんだろうが、そんなものは見つかっていない。
そんなわけで、現時点では呪いにかかればそのまんまになる可能性が高い。つまり呪龍と対峙することになったとき、重要なのは呪いにかからないことになるだろう。
「恐ろしいですね。呪いってどうやったらかかるんですか?」
「その質問を待っていたよ、アレク君」
アレクの質問を受けて、さらに話を続けた。
呪龍の吐き出す息、いわゆるブレスに触れることによって呪いにかかる。呪いも結局は魔法的なもので、吐き出した息がいつまでも呪いを纏っているわけではないというが、詳しくところはわからない。
「私も一つ質問をしてもいいでしょうか?」
シルヴィエも質問があるようだ。胸の前に小さく手を挙げて言った。
「伝承にあったことなら答えられると思う」
答えられない場合もあることを知らせ、保険を張っておく。いや、だってシルヴィエの質問とか難しいそうなんだもん。
「ブレスに触れたら呪いがかかるというのは、その触れた部分だけが石化するのでしょうか?それとも、ほんの少しでも触れれば問答無用に全身が石化してしまうのですか?」
「なるほど。いい着眼点だな」
そう言って少し考える。シルヴィエの質問の答えは、少なくとも俺の記憶によれば、伝承にはなかった。しかし、ヒントとなりそうな話なら知っている。
「『石の仙人』って話あるだろ?」
「童話、でしたよね?体の一部が石になってしまった仙人が、自らの不自由な体を厭わずに人を助けるというような」
「そうだ。あの話の中に出てくる石の仙人は、右の手足が石だった。もしかしたら、呪龍のブレスを浴びたことで、右の手足だけ石化したのかもしれない」
童話が根拠というのは心許ないが、何も答えないというのも不誠実な気がしたので、とりあえず話してみた。
「そんなの所詮童話ですよー」
シルヴィエは黙って聞いてくれていたが、案の定ラムがツッコんでくる。
「まあ、俺もそう思うけどさ。わからないなりに仮説を一つ言ったまでだ」
「すぐさま全身が石になってしまうという答えより、希望が持てるお考えだと思います」
シルヴィエがフォローしてくれる。ダメな兄貴ですまねえ。
「自分、そろそろ眠くなってきちゃいました」
アレクは欠伸を噛み締めるように言った。シルヴィエも瞬きの回数が増えていたし、眠いんだろうな。あと言うまでもないが、俺はいつでも眠い。しかし、ラムだけは元気そうだった。捜査で朝早かったろうし、酒場ではあんなことがあったのに、体力お化けだ。
四分の三が眠いということでひとまず解散し、明日の備えることになった。俺とアレクは軍本部の仮眠室、シルヴィエは家、ラムはギルドが運営する宿をそれぞれの寝床とすることにした。
翌朝。軍のベッドは硬いが案外よく眠れた。というか、ベッドに入ってすぐ泥のように眠ってしまったため、硬さを意識することすらなかった。
解散した後、中佐に作戦の報告をしたが、まあまあだ、との評価を受けた。アレクの発案であることはしっかり伝えておいた。これも上司の務めだ。無用な評価を受けて軍での立ち位置が上がってしまうと面倒だし、アレクにそれを譲ってしまおうとかそういうことではない。断じてない。
「おはようございます!」
アレクが元気に朝の挨拶をしてくれる。なんともかわいい部下ではないか。初めはあんなにガチガチだったのに、今はこうしてにこやかで朗らかだ。今日のような寒い朝でも、気持ちのよい挨拶は心が温まる。
「おはよう」
俺も気持ちよく挨拶を返す。
「あの、中佐がお呼びです」
その知らせは急な腹痛を俺にもたらした。聞きたくなかったなあ、いい朝だと思っていたのにこれで台無しだ。
「わかった。今行くよ……」
「その必要はない」
いつの間にか開いていた仮眠室の扉から、中佐が覗いていた。怖いって。
「申し訳ございません。こちらから参上しなければならないところを」
「構わん。今は非常時だ。ならば、礼などという非生産的なものに時間を使う必要などない。動ける者が動く、それでいいだろう」
過剰なまでの礼儀とか、形式だけの会議とか、いらないと思っていても部下が指摘するのは難しいことが、組織にはたくさんある。しかし、今回のように上司が指摘してくれたらどうだろう。その問題は一気に解決され、組織はより効率的な運営を行えるようになる。
中佐、カッコよすぎるぜ。俺も砦に戻ったら、いらない朝礼とか全部なくそう。俺が出席するのが面倒だからとかではない。断じてない。
用件だが、中佐は話を続ける。うう、いったいどんな話をされるのだろうか。腹がキリキリと痛む。
「作戦は上手くいったぞ。犯人のマルヌス・フィンフィルドから投降するとの知らせがあった」
「ふえぇうっ!?」
素っ頓狂な声が出た。そんな俺を見て中佐は満足気だ。ちょうど、いたずらが成功した子供のように。口の端には笑みが浮かんでいるように見えた。
「食えないやつだと思っていたが、お前でもそんな顔をするんだな」
中佐が言った。食えないやつって、俺はそんな評価だったのか。恐れ多いというか何というか。
「私も中佐がそのようなお顔をされるとは思いもしませんでした」
我ながらいいカウンターが入った気がした。
「ふはははは。これは一本取られたかな?」
言い過ぎたかと少し心配もしたが、それは杞憂だったようで、中佐は笑ってくれた。
笑い終えた中佐は、それと、と言い加えた。
「アレク・ヴァルツァー国境警備隊員よ、いいアイデアだった」
「も、もったいなきお言葉にあります!」
アレクは恐縮しきった様子だ。どうやら俺の作戦は上手くいって、体よくアレクへ評価をパスすることができたらしい。
……あ、違う。部下が評価されて上司として誇らしい。ちょこっと言い間違えてしまったが、そう言いたかったのだ。本当だよ?
感想お待ちしております!
誤字訂正等もあれば、お知らせください。
ブクマ・評価ありがとうございます!
一か月毎日更新できるとは思ってませんでした。予想外にブックマークや評価をしていただけたことがモチベーションにつながったことが、大きな要因の一つだと思います。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
今なら一か月毎日更新記念でなんと無料でブックマーク・評価ができるので、面白いと思ってもらえたなら、ぜひよろしくお願いします!
(※もちろん、いつでも無料でできます。)