中佐はいい上司
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「全力をもって防ぐ所存でございます」
呪龍の復活を防ぐためには、明日の夜までにマルヌスを捕まえなければならない。不可能ではないだろうが、捕縛は困難を極めるだろう。簡単にできるとは言えなかった。
「具体的な計画はあるのか?」
ぐっ、来るとは思っていたが、まさかこんなに直球で来るとは。即座に返せる言葉がない。
「それは今から……」
「計画もなしに報告に来たのか?」
中佐は被せ気味に詰めてくる。報・連・相が大事だっていうからこうして報告に来てみれば、この対応。これさー、パワハラだと思うんだよねー。
中佐は一つため息をついてから、口を開いた。
「このような場合、呪龍復活を阻止する最善策群、呪龍復活してしまった場合の次善策群に分けて、その中で取れる手段をそれぞれ網羅的に把握し、それらを実行可能性の観点に照らしていくつか絞り込む。そして、絞り込まれた手段のメリット・デメリットの検討、実行時のインパクトの推定をせよ。その上で最も有効だと思われる策を遂行するのだ。最善策、次善策ともに抜け目なく準備せよ。私が与えられるヒントはここまでだ。すでに夜が深くすぐに動かせる人員は少ないが、朝になれば動かせる人員も増やせる。必要な人員は私が集めよう」
……パワハラとか言ってごめんなさい。言ってることの大半がよくわからなかったけど、ヒントをくれるわ、人手を工面してくれるわで、めちゃくちゃ頼りになる上司だった。
「必ずや、ご期待に添う結果をもたらします」
「私の期待だと?」
中佐は眉を顰めて言った。あれ、何かまずいことを言ったか?
「案外、退屈な書類仕事に飽き飽きしていて、呪龍との戦いを望んでいるやもしれんぞ?」
うわ、出た。冗談なのか本気なのかわからない上司の言葉。これほど返答に困る言葉はこの世にないんじゃないだろうか。なんて返すのが正解なのか、誰か教えてください。とりあえずは、適当に受け流しておこう。
「そうであれば、そのように取り図らせていただきます」
「ふはははは。エル・マラキアン、面白いやつだ。好きにやってみるがいい」
中佐は愉快そうに笑った。どうやら正解の台詞を引き当てたらしい。計画性のなさを延々詰められるかと思いもしたが、報告は無事に終わった。
報告が終わったとはいえ、俺の仕事が終わったわけではない。事件解決までが俺の仕事なのだ。シルヴィエたちは竜車の中で待っていた。竜車の中はとても暖かかった。この暖かさを味わえないピーちゃんには少し申し訳ない。
「待たせたね」
「いえ、作戦会議をしていたらあっという間でした」
シルヴィエはにこやかな笑みとともに返事をしてくれた。だが、作戦って何の話だ?
「作戦会議って何の?」
「ああ、呪龍の復活を防ぐ方法、および復活してしまったときの対処についてです」
な、なんと。俺が中佐から言われたことをすでに考えてくれていたとは。おかげで俺が考える手間が省けそうだ。……じゃなくて、えーっと、おかげで国を守ることができそうだ。
「なるほどな。何かいいアイデアは出たのか?」
「これと言ったものはないですね。呪龍の復活を防ぐには、明日の夜までに師匠を捕まえて封印具を回収する必要があります。ですが正直に申し上げますと、逃げに徹した師匠を捕まえるのは難しいと思います」
「そんな気はしていたよ。見つけるのも難しいだろうし、見つけたとしても捕まえられるかどうかわからないもんな」
一瞬、重苦しい空気が流れる。が、それは本当に一瞬だった。思いついたんですけど、とアレクが明るい声で切り出したからだ。
「ペルペトの調査を開始するとか、ペルペトを破壊するとかそういう声明を出すっていうのはどうですか?」
「それでマルヌスをおびきだそうって言うのか?」
「その通りです!」
アレクは自信ありげに言った。シンプルでわかりやすい作戦だ。しかし、わかりやすすぎやしないだろうか。罠だとバレる可能性が高そうだ。中佐の言っていた実行可能性の観点で考えれば、実行は簡単だろうけど。
「どうですか、自分の作戦は?」
アレクがちょっとだけ胸を張ってアピールしてくる。
「悪くなと思うんだけど、いささか簡単すぎないか?すぐに罠だと見破られてしまいそうだが」
自慢の作戦を否定するようだが、これが俺の率直な感想だった。
「私は上手くいくと思いますよ。犯人は単純な人間ですし、私が本気になればペルペトを破壊することもできなくはないでしょうから、放っておくことはできないはずです」
俺とは違い、シルヴィエは乗り気のようだった。シルヴィエの方がマルヌスのことはわかっているだろうから、判断は任せた方がよさそうだな。
にしても、その気になればペルペトを破壊できるって怖すぎるな。間違っても兄妹喧嘩なんてできないな。いや、別にする理由もないんだけどさ。
「シルヴィエがそう言うならやってみようか。これって大々的に宣言する形でいいのかな?」
「そうですね。時間的余裕があったら、ペルペトを破壊する計画があるというダミー情報を匂わせて誘うこともできたでしょうが、もう時間がありませんからね」
「わかった。これを呪龍復活阻止の作戦として中佐に伝えて来よう。軍が動いてくれるはずだ。問題なのは、これが失敗したときなんだが」
「呪龍への対処ですよねー」
わかっていますよ、とばかりにラムが割り込んでくる。
「そもそも、呪龍って何ですか?」
さらにアレクが横槍を入れてくる。お前、そんなのも知らないのか。
「呪龍を知らないのか?」
「実は、私もそんなに詳しくなくて……」
アレクに聞いたつもりだったんだが、どうやらシルヴィエもよく知らないらしい。じゃあ、アレクが知らないのも無理ないか。二人は典型的なロウマンド人だな。
ちらりとラムの方を窺うと、心なしか顎を挙げて自慢げな表情をしていた。呪龍を知っているアピールだろう。やるでしょ?と言わんばかりの視線が腹立つ。が、ここは無視。
シルヴィエとアレクに、呪龍アポフィスについて話をしておいた方がよさそうだな。
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