酒場での戦闘を終えて
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少し短めです。
騒ぎを聞いて駆け付けて来た冒険者たちに手伝ってもらい、遺体の運び出しや荒れた部屋の整理などを終えた。他の現場と同じように、殺人があったとは思えないほどきれいな部屋になった。シルヴィエが壁に残した傷を除けばだが。
「あの凶器は、呪龍の封印具なんでしょうか?」
シルヴィエが呟いた。誰かに聞いたわけでもないかもしれないが、俺は自分の考えを話すことにした。
「十中八九、そうだと思う。あれが吸血石でできていたのは間違いないし」
「でもー、ペルペトの解放が何とかって言ってましたよねー?」
俺の言葉に、ラムが疑問点をぶつけてくる。部下が殺されたことが明らかになったラムだが、気丈に振る舞っていた。
「あれは勘違いというか、ほとんど妄想の類だと思う。封印具に半分意識を乗っ取られているんじゃないかな?」
これこそが言いたかった考えだ。シルヴィエの師匠であるマルヌスは、もう正常な意識を持っていないんじゃないか、と。
「どういうことですか?」
すかさずシルヴィエから質問が飛んでくる。
「前にも話したように、危険なアーティファクトに類されるものは、人の精神に干渉してくるものが多い。マルヌスは、封印具によって見せられる幻想を信じ込んでいるんだろう」
「そんなことが……」
シルヴィエはそれから口を噤んでしまった。
「それが本当だったらー、死者を生き返らせるとか訳のわからないことを言っていたのも理解できますねー」
「ペルペトに死者蘇生の秘宝があるとか、そんな話は聞いたことがないもんな。子供のころ、ペルペトが好きだった俺が言うんだから間違いない」
「あれ、さっきは興味ないとか言ってませんでしたっけー?」
うっ、まずい。興味ないフリしてたの忘れてた。えーっと――
「子供のころ好きだったからと言って、今も好きだとは限らないだろ?」
少し苦しい言い訳だが、この場をやり抜ければそれでいい。
「お兄様がペルペト好きだったなんて知りませんでした。私としたことが……」
なぜかシルヴィエが悔しそうにしている。兄がペルペトとかいう子供じみたものが好きだからだろうか。もしそうなら申し訳ない。
「ま、まあ、この話はいいだろ。大事なのは、マルヌスが呪龍の封印具を使って殺しをやっている可能性が高いってことだ」
「それはそうですねー」
珍しくラムも同意してくれた。どうやらペルペトの話は終わったらしい。
「万が一にも呪龍を復活させられるようなことがあれば、この国始まって以来の危機にもなりかねん」
ペルペトの話が途切れた間隙を縫い、別の話題を差し挟む。自分の恥を晒さなくて済むように、国の危機を語るとは我ながら姑息なやり方だ。
「たとえ呪龍が相手でも、お兄様がいてくだされば怖くありません」
おいおいおい、俺が呪龍相手に何ができるっていうんだよ。すぐに石にされて、それから砕かれておしまいだよ。俺に対するシルヴィエの過剰評価がすごい。期待をかけられ慣れてないから、押し潰されてしまいそうです
「それにしてもー、あんな物騒なものをどこで手に入れたんでしょうかねー」
ラムは呪龍の封印具の出所が気になっているらしい。だが、俺にはだいたいの見当がついている。
「今この国にあるアーティファクトのほとんどは、古代竜人族、妖精族、マーリンの末裔、これら三つの文明のどれかから来ている。呪龍の封印具となると、南方の古代竜人族の遺跡から入手した可能性が高いな」
たしかに、とシルヴィエが応じ、話を続けた。
「師匠は、南方にある古代竜人族の遺跡を調査していたことがあります。そのとき持ち帰ったものの中に、呪龍の封印具があったのかもしれません」
シルヴィエが言い終わると、アレクが発言の許可を求めるように手を挙げながら言った。
「あの、それよりも、自分はマルヌスさんが何でここにいたかが気になります……」
アレクは尻すぼみになりながらも、何とか自分の疑問を言葉にした。
「分身魔法、じゃないでしょうか?竜人族が使う魔法の一つです」
答えたのはシルヴィエだ。分身魔法、なんとも便利そうな名前をしている。練習すれば俺でも使えるようになるだろうか。
「竜人族が使う魔法は私たちのものとは異なっているので、私も使うことはできませんが……」
ほう、なるほど。軍が竜人族相手に苦戦している南方前線では、我が国の魔術師でも再現できないような魔法を使ってくると聞いたことがある。それを使いこなすとは、曲がりなりにもシルヴィエの師匠と言ったところか。
というか、シルヴィエが使えないなら俺がいくら練習したところで使えるようにはならなさそうだな。もし使えるようになれば、分身体を砦に置いておいて、本体である俺は一人のんびりするっていう芸当が可能になったのに。
「分身体を砦に送って、自分は殺したパルドさんに成りすましていたってことですか……」
アレクが沈んだ顔で言った。アレクはさっきから元気がない。あんな光景を見せられれば当然と言えば当然だが、アレクのように気の小さいやつにはなおさらキツかっただろうな。
「犯人がパルドじゃなくてよかったよ」
ラムは明後日の方向を見て言った。顔は見えなかったが、声が震えていたのは明らかだった。ここまで毅然としていたラムだったが、さすがに堪え切れなくなったのかもしれない。
部下を疑い続け、その疑念が確信に変わったかと思えば、それは勘違いに過ぎず、部下がすでに死んでいたことを知る。改めて言葉に見るとわかるが、俺だったら到底耐えられないような激動の展開を経験したのだ。正直、掛ける言葉すら見つけられない。
「そうだな」
俺は辛うじて同意の言葉を述べたが、ラムに聞こえていたかはわからない。
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