尊い犠牲
読んでくださってありがとうございます!
文字数はいつも通りですが、ちょっと情報量が多いです。
シルヴィエが指をさした方向には、パルドがいた。間違いなくパルドを指さしている。それなのに、シルヴィエはパルドが犯人ではないと言う。
ラムはシルヴィエに、頭がおかしくなったのか、とか失礼なことを言っていた。しかし、こんなわけのわからないことをされたら、シルヴィエの頭がおかしくなったと思うのも無理もない。今回だけはその無礼を許してやろう。
でもシルヴィエの顔を見れば、彼女が大真面目であることがわかる。頭は正常に働いているだろう。では、これはいったいどういうことなのか。
「私たちにもわかるように説明してもらえますか?」
すでに落ち着きを取り戻していたラムは、静かにシルヴィエに聞いた。
「お兄様、よろしいですか?」
「もちろんだ」
なぜ俺の許可を求めたのかはわからないが、とりあえず許可しておく。俺も説明は聞きたいからな。
「ではお兄様に代わって、僭越ながら私が説明させていただきます」
お兄様に代わってって言った?何か勘違いしているみたいだけど、俺は何にもわかってないからね?恥ずかしいからあえて指摘はしないけど。
「お兄様を除いたみなさんは、混乱していることでしょう。パルドさんが犯人ではないと言っておきながら、この人を指さした私の行動に」
だからね、俺もわかってないんですよ。
「この矛盾を解決する簡単な方法があります。私が指をさした人がパルドさんでなければいいのです」
うん、もう意味がわからない。
「この人は、本物のパルドさんじゃないんですよ」
「え!?」
「え、何かございましたか?」
「いや、何もないとも」
シルヴィエの衝撃発言に、つい声を上げてしまった。ラムのときにも同じことやったし、俺って学習しないやつだな。
まあ、それは今後学習していくとして、パルドが本物じゃないってどういうことなんだろう。パルドには今日初めて会ったというのに、それが偽物だとどうやって見抜いたというのか。
「では、ラムさん」
シルヴィエはそう言うと、ラムに対して何か耳打ちしたようだ。すると、ラムは懐から球状の物体を取り出した。あれは――
「ふぁ、ファルサ・ウェリタス……」
パルドは顔を驚愕によって歪めながら、その球体の名をこぼした。パルドはしまったと言う顔をしたがもう遅い。
「パルド、なぜその名前を!」
ラムがその言葉を聞き逃すはずもなく、パルドを問い詰める。
「……いや、そうか。そういうことか。シルヴィエさんの言うことは正しいみたいだ。こいつは、パルドじゃない!」
しかし、パルドが何か言う前にラムは自分で答えに辿り着いたらしい。あのー、できれば俺にも教えてもらえますかね。
それからしばらく誰も言葉を発さなかった。聞こえてくるのは、カウンターやテーブルで飲んでいる人々の声。だがやがて、そこに交じってクククと変な音が聞こえてきた。
「もう誤魔化しは効かないね。少し想定よりも早くなってしまったが、こうなっては仕方がない。よく気づいたね、シルヴィエ」
パルドはベタッとした嫌な笑みを顔に浮かべて言った。さっきの変な音は、こいつの笑い声だったか。
「……師匠。その薄気味悪いにやけ顔、間違いありません」
シルヴィエが言った。え、パルドがシルヴィエの師匠だったの?あ、違う。こいつはパルドじゃなくてシルヴィエの師匠なのか。でも、師匠はソーン砦にいるはずじゃないの?しかも、師匠に向かってすっごい悪口言ってたよね?
「いかにも。犯人は私、マルヌス・フィンフィルドだよ」
パルド、いやパルドの見た目をしたマルヌスが名乗った。やはり、こいつが犯人らしい。お前さ、あんだけ悪口言われれば少しは反論しろよ。
「本物のパルドはどこだ!」
突如として判明した真犯人に、ラムが食って掛かる。真っ先に部下の心配とは、心優しい上司だな。あと、俺もそれ気になってたから聞いてくれてありがとう。
「おや、察しはついているんじゃないですか?シルヴィエのお兄さんは気づいているようでしたが」
お前もそれを言うのか。俺は何にもわかってないんだってば。
「ま、まさか本当に……」
「仕方のない犠牲だったのですよ」
マルヌスが言った。犠牲ということは、パルドはすでに死んでいるのだろうか。そうか、納屋で見つかった遺体がパルドだったんだ。パルドに化ける上で、本物のパルドは邪魔者。最初にパルドを殺して、バレないように死体を納屋に隠していたんだろう。奇しくも、俺が言った通りのことが起きていたらしい。
「仕方ないで済むわけないだろ!」
ラムが叫ぶ。しかし、マルヌスはどこ吹く風といった様子。いけしゃあしゃあと語りだす。
「ペルペトを解放するための尊い犠牲と思ってほしい。でも、安心してくれ。ペルペトが解放されさえすれば、死んだやつらは生き返らせてやる。だからそれまで、ちゃんと死体は取っておくんだぞ」
マルヌスは言い終わると同時に、横にいた冒険者の首を裂いた。血が吹き上がる。そして吹き上がったそばから、首を裂いた物体に吸収される。血が大蛇のようにうねりながら吸い込まれていくのだ。
異様な光景に誰も動けない。蛇に睨まれた蛙に硬直していた。
そんな硬直を脱し、最初に動いたのはシルヴィエだった。マルヌスを拘束すべく、足元に氷を発生させる。足を床に固定してしまおうというわけだ。が、マルヌスはそれを一瞬にして破壊する。何をしたのかわからなかった。
次にシルヴィエは、風の刃を飛ばした。拘束は無理だと考え、ダメージを与えることを選んだのだ。並の魔術師なら死んでいるところだが、マルヌスはそうではなかった。いとも容易く受け流す。後ろの壁には大きな傷ができていた。
それでも攻撃は終わらない。今度はラムが突進した。いつの間にかれに持っていた短剣を突き出す。しかしその切っ先が届く前に、ラムは見えない何かに吹き飛ばされた。風魔法の一種だろう。
俺とアレクは、二人の猛攻をただ見守ることしかできなかった。
そして攻防が幾度か繰り返されたのち、血の奔流が止まった。マルヌスは再びニヤリと笑う。
「待って!」
シルヴィエの悲痛な叫び空しく、マルヌスの姿は消えた。妙にあのにやけ顔が頭に残った。
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まだまだ謎の多い話になっていると思いますが、次回以降も読んでもらえると嬉しいです。
自分でも書いていて、何の情報をどれだけ出したとかがわからなくなりつつあります。精進します。