十五番目の殺人
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やはり殺人を未然に防ぐことはできなかった。夜になってすぐ、今日の殺人は起こってしまったのだ。夜になってすぐということは、犯人は呪龍の封印具を使っており、さらに呪龍の復活を目論んでいる可能性が高い。
「それは本当なの?王都で見つけてからここに来たということは、いつもよりかなり犯行時間が早いみたいだけど」
ラムは取り乱すことなく、冷静にそんな質問を投げかけた。俺は知る由もないが、いつもより遺体の発見報告が早いようだ。それはつまり、犯行時間がいつもより早いことを意味する。
ちなみに、ここでのラムの質問についてだが、極めて嫌な質問だ。この本当かどうかを聞く問いの形式は、「はい」か「いいえ」でしか答えられないからな。おそらく、この質問をするタイミングでファルなんとかを発動させ、その返答によって報告の真偽を確かめようとしているのだろう。抜け目がないし、ファルなんとかを使うのが上手い。
「はい、本当です。王都のとある納屋で見つけました」
一呼吸置いてから、そして、と冒険者は続ける。嫌な予感がする。
「さらに問題なのは、その死体はほんの少しですが腐敗が進んでおり、死後二週間は経過しているものと思われることです」
冒険者の言葉にラムは絶句した。俺たち三人も驚きを隠せない。これが本当ならば、一連の殺人事件はもっと前から起きていた可能性があるからだ。そしてラムの反応を見るに、この冒険者が言っていることは本当だ。
「……他にその情報を知っている者は?」
ラムは何とか次の質問を絞り出す。
「ともに発見した同僚とここにいる方々以外、知る者はおりません」
そうかい、とだけ答えたラム。その表情は険しかった。そんなラムにつられてか、個室――扉が破壊されてしまったせいで、正確にはそう呼べないかもしれないが――には、重苦しい空気が漂っていた。
「あのー、今までの殺人で、納屋に遺体があったり、納屋が現場だったりしたことってありませんでしたよね?いや、自分の記憶違いだったらすみません」
そんな空気の中、アレクがおどおどした様子で発言した。久しぶりに声を聞いた気がする。だが、なかなか鋭い着眼点だ。言われるまで気がつかなかった。
「たしかにそうだねー。もし、仮にその遺体が最初の被害者なのだとしたらー、何か理由があってもおかしくはないよねー。問題はー、それが何かだけど」
納屋と言えばアレ、と言っても過言ではない目的があるじゃないか。誰も気づいていないのか?
「そんな理由、簡単だろ?」
思わず声を上げてしまう。その場にいるみんなの視線が集まる。え、やだ。恥ずかしい。そんなに見ないでよ。
「その理由、教えていただけないでしょうか」
シルヴィエが代表するように聞いてくる。逆に、みんながわからない方が驚きだ。普通に生きてきたら、誰しも経験するもんだと思うんだが。まあ、なんだなんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情けだ。教えてあげようじゃないか。
「その殺人がバレてほしくないからだよ。学園の授業をとある納屋でサボっていた俺にはわかる。意外と人来ないんだよな、ああいうところ。つまり、納屋にある遺体はバレてほしくなかった。そして、それ以外の場所にあった遺体はバレてもよかったってことだな」
みんなの顔はポカーンとしている。え、これってあるあるだよね?みんな経験してるよね?俺がおかしいんじゃないよね?
「……え、えーっと、バレたくないなら、遺体を燃やしてしまうなどの方法があったのではないでしょうか?」
シルヴィエがおずおずとしてきた反論に少し固まってしまう。言われてみればたしかにそうだ。そんなことまったく考えてなかった。そうか、みんなサボったことはあるけど、俺の考えの甘さに言葉が出なかっただけなのか。うん、それはそれで悲しい。
さて、シルヴィエが言ったことを改めて考える。シルヴィエの言うことは正しい。死体が邪魔なら、俺がアンデッドたちを燃やしたように燃やしてしまえばいいのだ。燃やしてしまえば、残るのはせいぜい骨くらい。さらに言えば、別に燃やさなくとも死体の隠しようはいくらでもある。
では、犯人はなぜ死体を残していたのだろう。これまで全ての死体が残されていた。死体を残す理由ってなんだ?最初の殺人の死体だけ納屋にあった理由ってなんだ?何か、手掛かりが掴めそうな気がする。
だが、今すぐにその手掛かりを掴めそうもない。点と点が繋がりそうで繋がらない。あと少しだと俺の直感が告げているんだが、気のせいかな。
「シルヴィエの疑問も最もだ。だけどそれに答えるのは、先にパルド君に一つ質問を答えてもらってからでいいかな?」
「わかりました」
シルヴィエは俺の提案を素直に了承してくれた。よし、誤魔化すための時間稼ぎ成功。
「遺体を安置所に置いておくことを提案したのは、キミなんだよね?」
何かいい言い訳のアイデアが得られないかと期待して、パルドに思い付きの質問を投げかけた。
「そうです。それが何か?」
「それはなぜ?」
「そもそも、身元の特定ができるまで保存しておく必要がありますし、傷跡の比較、被害者の共通点探しにも有益だと考えました」
「なるほど」
普通に納得できる答えで、それしか言えなかった。そして、シルヴィエの反論に対抗する材料になり得そうな情報は得られなかった。まずい、このままではカッコ悪いお兄ちゃんの烙印を押されかねない。何か、何か一発逆転のチャンスはないものか。
「そういうことだったんですねー。エルさん、やっとわかりましたよー」
悩める俺を救ってくれたのはラムだった。ただ、そういうこととはどういうことなのだろう。話が見えてこない。が、ここはとりあえず話に乗っておこう。
「ぜひともみんなに説明してあげてくれ」
「……趣味が悪いですねー。まあ、いいですけどー」
ラムは実に不服そうだが、何もわかっていない俺の代わりに説明してくれるようだ。ありがたや、ありがたや。
「パルド、犯人はお前だったんだね」
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余談ですが、昨日は投稿がやや遅れたので、今日はしっかり予約投稿です。