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ぼくがかんがえたさいきょうのさくせん

メトルはメートルに読み替えてください。なんとなくそのままメートルを使うのが憚られたので、面倒なことをしています。

 十万のアンデッドが攻めてくる。間違いなく異常事態だ。平穏なソーン砦において、いまだかつてこんなことが起きたことはないだろう。というか、ロウマンド王国史上にもないはずだ。俺が副長官になっていきなりこんなことになるなんて、我ながらついてなさすぎる。

 

 砦の魔術師は五十数人。多国に先駆けて魔法教育が浸透している我が国とはいえ、まだまだ戦場で役に立つレベルの魔術師は少ない。


 王国最強の魔術師は、一人で歩兵一万を完封するというが、一般的な魔術師では歩兵五百の相手が関の山だ。しかも、国境警備隊なんかにいるような魔術師は、言っちゃ悪いが三流魔術師だろう。そこまでの期待もできないかもしれない。

 

 バリスタと投石だって、明らかに弾数が足りない。まともにやり合えば、こっちの魔力や武器が尽きて飲み込まれるのは明白だ。うーん、詰んでないか?

 

 ジーズ教徒に言わせれば、神は乗り越えられない試練を与えないらしいが、あいにく俺はジーズ教徒ではない。今から教徒になれば、この試練を乗り越えられるだろうか。俺みたいな現金なやつは、たとえ教徒だろうが救ってもらえなさそうではあるが。

 

 さて、神には頼れない。何か手を考えなければ。

 

 「アンデッドたちは、もう間近に迫っているのか?」

 

 とりあえず、現状把握を図ってアネモネに聞く。もう落ち着いたつもりだったんだが、けっこう声が震えている気がした。恥ずかしい。

 

 「到達は、およそ二十分後になる計算だとのことです」

 

 二十分か。アンデッドは前線で見たことがあるが、あいつらは足が遅い。それで二十分後に到達となると、距離は六百メトルほどか。

 

 でも、それだとおかしいか。アンデッドのような低位の魔物なら、砦から一キロメトルにある魔物除けの結界で止まるはずだ。ということは、攻めてきたのはアンデッドより高位の魔物か、あるいはアンデッドが結界内で発生したかだ。

 

 前者なら、今すぐにでもジーズ教徒の洗礼を受けたい。神に救ってもらう以外、どうしようもない事態だ。そして後者なのだとしたら、アンデッドがどこから湧いてきたのかが問題となる。

 

 「どの方角からだ?」

 

 「は、なにが?あ、アンデッドですね。南東です」

 

 俺の言葉足らずの疑問にも、アネモネはしっかりと答えてくれた。やはり仕事ができる。

 

 南東というと、大沼の方向だよな。ソーン砦には南東八百メトル付近に巨大な沼がある。大沼というのはそこの通称だ。とにかくでかい。

 

 そこまで考えたところで、俺の脳内で何かがバチっと弾ける感覚。ソーン砦、大沼、アンデッド。俺は、何か知っている気がする。

 

 直後、俺の脳内は「まさか」で埋め尽くされた。しかし、それしか考えられない。大沼のアンデッドたちが蘇ったのだ。より正確には、眠りから覚めたとでも言うべきか。

 

 

 

 ――それは俺が、でっち上げレポート作成のため、王立図書館に通い詰めていたときのことだった。

 

 「百一年戦争?聞いたこともないな」

 

 名もなき歴史家がまとめた戦記に、その言葉が登場した。本は埃を被っており、長い間誰にも読まれていないことがわかる。かなり昔のことが書かれているようだが、言葉はわかる。この本自体はそこまで古くないのだろう。羊皮紙じゃなくて紙でできてるし。

 

 一般に、戦史に価値はないとされている。理由は単純で、ロウマンド王国が魔法を主戦力とした戦闘スタイルを確立し、前時代的な戦争をこのよから消してしまったからだ。この本が並べられていた本棚そのものにも埃がたまっていて、そのことからも戦史が軽視されていることがわかる。

 

 だが今の俺にとって、この本棚は宝の山だ。なぜなら、誰もここの本を読まないから、ここからどれだけ文章を借りてこようが気づかれないからだ!

 

 今読んでいる本によると、どうやら昔、ソーン砦のすぐそばで大きな戦争があったらしい。戦争をしていたのは、今はどちらも存在しない国だ。

 

 「どっちの国も聞いたことないな。学園にいたときにも耳にしなかったと思うし、しょぼい国だったんだろうな」

 

 率直な感想が口をつく。でも念のため、国境付近での出来事だから読んでおくか、そう思ったのが吉だった。

 

 「は、二十万?」

 

 思わず声が出た。当時、両国から拠出されたとされる兵士の総数だ。最初は、歴史書にありがちなデフォルメだと思った。だって、今のロウマンド王国の人口が全土で五、六千万だぞ?それでも二十万の兵士なんて、おいそれとは出せない。

 

 二十万は両国の合計だから、半分の十万でもすぐに出すのは難しい。しかし、百一年戦争という名前から想像できるように、この戦争は百一年もの間続いたのだ。そんな人数になることもあり得るのかもしれない。

 

 歴史書とは思えない軽妙な文で、あっという間にその部分を読み終わってしまった。毎年、半数のくらいの兵士が死に、死者は総計で十万くらいだったとか。「今も、戦士たちは沼の底に眠っているのだ」とか締め方かっこよかったな。パクらせてもらおう。

 

 あと、この戦争のちなみに話も面白い。なんでも、戦争をしていた両国とも戦争が原因で国力が落ちて行って、別の国に滅ぼされたらしい。なんだか教訓めいた終わり方だ。そこら辺の童話集に載っていてもおかしくない。

 

 読み物としても普通に面白かったし、また使えるものを見つけてしまったよ。我ながら、こういう才能だけはあると思う。さーて、レポート作成が捗りそうだ。

 

 

 

 ――なんてあのときは思ってたけど、あの戦争は本当にあったんだな。おそらく、戦士たちが眠っている沼というのが大沼のことだったんだろう。そう考えれば、結界に引っかからなかったことにも合点がいく。結界内で発生したっていう俺の読みは正しかったわけだ。

 

 さて、そうなれば話は早い。レポートを書くとき、なんとなく対策は考えてある。上手くいくかはわからないけど。まったく、人生何が役に立つかわからないもんだ。

 

 では、作戦開始といこうか。まずやることは――

 

 「大沼から風を吹かせるんだ!」

 

 なるべく自信ありげに、アネモネに指示を出す。こういうときは、部下を不安にさせてはいけないからな。


 指示を聞き、アネモネは口を開けたまま固まっている。ふふふ、相当驚いているようだ。俺だってやるときはやるんだよ。さあ、「了解!」の返事を聞かせてくれ!

 

 「そんなことに何の意味があるのですか!」

 

 アネモネからの返事は、俺が想定していたものとはかなり異なるものだった。

感想・批評、誤字訂正等お待ちしております。

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