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危険なブツ

読んでくださってありがとうございます!


 危険なアーティファクトと言ったら、《人斬り》を話さないわけにはいかない。これは人以外を斬ることのできない剣である。人を斬れば斬るほどその切れ味は鋭くなり、最終的には近づくだけで斬れてしまうという話だ。所有者が変われば、切れ味は元に戻るという。所有者の変更には、元の所有者が死ぬことが必要である。

 

 これだけなら剣の取り扱いに気をつければいいだけな気がするが、危険なところは他にもある。それは、剣に思考を乗っ取られるところだ。人が斬りたくてたまらなくなるらしい。所有者の手記は、その狂気がまざまざと感じられる。一読の価値ありだ。

 

 アーティファクトの中には、このように精神に作用するものも少なくない。現代の魔法で再現できていないものの一つだ。もっとも、シルヴィエならいつか再現してくれそうなものだけど。

 

 次に話したのは、《灼ける鎧》のこと。これは着用者の身体能力を著しく高めるが、その者に死ぬまで灼けるような痛みをもたらすという。過去の着用者の記録では、戦争にて英雄と持て囃された後、痛みに耐えきれずすぐに自死している。

 

 他にも、着けた瞬間死ぬネックレス、着るだけで嫌悪されるガウン、触れたら吸い込まれる壺、アーティファクトに分類される珍しい植物の話もした。

 

 極めつけは、と声のトーンを落として言って注意を引く。ラムとシルヴィエはもちろん、アレクまでも前のめりになっている。我ながら、話術の才があるかもしれない。

 

 「封印具だな」

 

 「それは何ですか?」

 

 シルヴィエが首を傾げる。シルヴィエが知らないとなると、知っている人は相当少なそうだ。この国の人は本当に歴史に興味がないんだな。過去の大国が封印具によって、正確には封印具から解き放たれた魔物によって滅ぼされた話は、枚挙に暇がないというのに。

 

 歴史には興味ないわりに、アーティファクトの利用は盛んなのがこの国の不思議なところだ。過去に敬意を払うことなく、使えるものを使うだけ。傲慢なやつらだ。まあ、俺も暇つぶしに本を読むまではそんな感じだったから何も言えないけど。

 

 「エルさんが話さないならー、私が話しましょー」

 

 少しボーっとしていたらラムに先を越された。俺の活躍の場所を取りやがって……

 

 「封印具というのはー、強大な魔物を封印するのに使ったアーティファクトですー」

 

 「強大な魔物とは?ドラゴンのような?」

 

 「え、それはー……エルさんにパスでー」

 

 こいつ、わからないところを俺に押しつけてきやがった。まあ、失った活躍の場が戻って来たならば歓迎しよう。話を引き継ぐ。

 

 「シルヴィエが言ったように、ドラゴンの類も多いな。あとは珍しいところだと、タコとかな」

 

 「なるほど」

 

 シルヴィエは神妙な顔で聞いている。

 

 「そういった魔物を封印するための道具が、どのように危険なんですか?」

 

 「封印したら絶対安全ってわけじゃないからだな。きっかけさえあれば、その魔物たちが復活するかもしれないんだ」

 

 「きっかけ、とは?」

 

 さっきから質問攻めにされている。俺だって本を読んだだけだし、あんまり覚えてないんだよな。特に、ここら辺のことはレポートにまとめるのにも必要なかったことだし。

 

 「俺が知ってる例は少ないけど、呪龍の封印具というのが吸血石でできるらしくて……」

 

 あれ、吸血石?最近似たような言葉をどこかで聞いたような。ああ、吸血鬼だ。聞いたんじゃなくて、俺が言ったんだな。

 

 「吸血石って、あの血を吸い込むやつですかー?」

 

 ラムからの質問によって、思考の中断を余儀なくされる。

 

 「え、ああ。それそれ。血抜きとかに使うやつ」

 

 吸血石は特殊な鉱石で、その中に血を吸収する性質がある。我が国では、動物の血抜きに使われることが多い。地域によっては血を抜く民間療法に使われていたこともあるらしい。失敗して失血死することもあって、危険だからやらなくなっているみたいだけど。

 

 「その封印具をどうすればいいんですかー?」

 

 ラムから再びの質問。そうだ、今は封印具についての話だった。それで封印が解けるきっかけを話すところだった。呪龍の封印を解く方法は……

 

 「十七人の血を集めることだ」

 

 「「「え?」」」

 

 三人とも何言ってんだこいつの顔。たしかに、ラムの質問に対する答えとしてはわかりづらかったな。もう少し詳しく話してやろう。それが事件解決にも役立つ確信が俺にはあった。

 

 「呪龍の封印を解くには、十七人の血を集める必要があるんだ。それも太陽の隠れし時、すなわち夜に一人ずつな」

 

 「まさか、それって……」

 

 勘のいいシルヴィエは、俺の言いたいことがわかったようだ。もしかしたら、吸血石という言葉が出てきた時点で、俺よりも先に思い至っていたかもしれない。

 

 「そうだ。今回の事件で使われた凶器は、呪龍の封印具に違いない」

 

 シルヴィエとラムの顔は青ざめ、アレクは白目を剝いている。静寂の時が流れる。そしてそれを破ったのは、俺たちのうちの誰でもなかった。

 

 個室の扉が倒れるように開き、二人の男が雪崩れ込んできた。

 

 「も、申し訳ありません!誰も通すなと言われていたのに!」

 

 部屋に入って来た二人のうち、片方が謝罪をした。こいつは覚えている。宿で見張りをやっていた男だ。パルドとか言ったっけ。

 

 パルドの謝罪はどこか芝居がかっていた。まるで俺の謝罪を見ているようだ。心が籠っていない。俺もその道の達人だからわかる。いや、何も誇ることではないけど。

 

 「そんなに謝らなくていいよー。で、これはどういう状況―?」

 

 ラムは冷静に状況把握に努める。変なやつだが、やはり仕事はできるようだ。

 

 「この冒険者が、代表に至急伝えねばならぬことがあると申していたのですが、代表から部屋には誰も通すなと仰せつかっておりましたので……」

 

 「それでその冒険者と揉めて、扉を壊しちゃったのねー」

 

 「ご明察の通りでございます」

 

 ラムの言葉で気づいたが、扉は完全に外れてしまっていた。えっと、弁償はギルドがやってくれよ?

 

 「私に何の用だったの?」

 

 ラムはパルドではない方の冒険者の方を向いて問うた。冒険者は言葉を探るように、ゆっくりと話し始めた。

 

 「……それが、申し上げにくいのですが、王都で十五体目の遺体が見つかったのです」

 

 どうやら今日の被害者が出てしまったらしい。


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