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シルヴィエの話

読んでくださってありがとうございます!

 「今思えばバカなことをしたと思います。お兄様は誰よりも寛大なのですから」

 

 そう言って、シルヴィエは泣きそうな顔で笑った。うん、やっぱりシルヴィエは笑っているのが一番だ。泣かせかけた俺が言うのは筋違いかもしれないけど。

 

 でも待てよ?シルヴィエの答えは、俺の質問に対する直接的な答えにはなっていない気がする。俺が聞いたのは、なぜ最初の事件の日付を覚えていたかだ。そしてそれを容易に思い出し、被害者数を逆算できたのかが気になる。今のシルヴィエに聞くのは憚られるが、聞かなければならない気がした。

 

 「ごめん、シルヴィエ。もう少しだけ話してもいいか?」

 

 シルヴィエが断るはずがないと思いながらも、一応聞いた。免罪符を手に入れるような浅ましい質問だが、こうしないと俺はこれ以後の話を続けられないと感じたのだ。俺はつくづくずるい人間だと感じる。

 

 「はい。何でもどうぞ」

 

 シルヴィエの返答は予想通りのものだった。

 

 「じゃあ、もう一度聞くんだけど、なんで最初の事件の日付を覚えていたんだ?」

 

 「ああ、きちんとお答えしていませんでしたね。その日、事件が起こったと知らせが入るほんの少し前、師匠からソーン砦に着いたという連絡をもらったのです」

 

 「師匠って、シルヴィエの?」

 

 「そうです。と言っても、そう呼べと言われているだけですけどね。お兄様にお渡しした魔法陣の研究に協力してもらっていたのです」

 

 シルヴィエの言い方は、少しよそよそしかった。師匠のことがあまり好きではないのかもしれない。

 

「ソーン砦ということは、俺の代替人員がその人なのか?」


「おっしゃる通りです」

 

 噂の凄腕魔術師は、シルヴィエの師匠だったらしい。その人から連絡があった直後、殺人があったからよく覚えていたというわけか。筋は通っているな。

 

 「到着の知らせをもらって、その後少し師匠とやり取りをしている中、王都で殺人があったと連絡があったのです。それでその日付をよく覚えていました」

 

 直後ではなく、連絡を取っている最中だったか。つまり整理すると、まず師匠からソーン砦到着の知らせがあり、続けてやり取りをしていた際に事件発生の知らせがあったということか。まあ、大差はないだろう。

 

 「話してくれてありがとう。それがちょっと気になっていてね」

 

 「いえ、こんなことがお兄様の助けとなるならば、これ以上の幸せはありません」

 

 なかなか恥ずかしいことを言ってくれるもんだ。アレクとラムもいて恥ずかしさは倍増する。場を濁すため、シルヴィエに話を振る。

 

 「師匠とは、そのときどんな話をしたんだ?」

 

 「そうですね……シルバーベアのシチューを食べたと言っていたような」

 

 「え、本当に?」

 

 「ええ。記録も残っていると思います」

 

 記録って何だ?と思っていると、シルヴィエは腰に付けていた小さなカバンから手帳のようなものを取り出した。

 

 「この《双子の手帳》を使っていたので」

 

 「そういうことか」

 

 《双子の手帳》とは、連絡道具の一つだ。手帳に文字を書き込むと、対になるもう一つの手帳にその文字が表示される。これはアーティファクトなので、一般人が所有できるものではないが、シルヴィエとその師匠ならば持っていても不思議ではない。

 

 機能自体は便利なんだが、連絡相手につき一冊の手帳が必要となるため、持ち運びには不便だ。そうした理由から軍においてはあまり使われていないが、指揮官クラスなら一、二冊は所持している。

 

 ここですね、と《双子の手帳》の該当箇所を見せてくれるシルヴィエ。どれどれ……

 

 「たしかに書いてあるな」

 

 「それがどうかされたのですか?」

 

 「いや、珍しいこともあるもんだなって」

 

 シルヴィエはきょとんとした顔をしているが、無理もない。王都の人間で、シルバーベアのシチューが辺境にある銀熊亭の超レアメニューだと知っている者などそういない。俺だって、砦周辺の情報をひたすら集めていたときに、たまたま知っただけなのだから。

 

 もう一度、《双子の手帳》に目を落とす。最初に見たときには気づかなかったが、シルヴィエはどうやら事件のことを師匠に伝えたらしい。師匠はそれに驚いたのか、急に字が汚くなっている。

 

 どこで殺されたかとか、どんな人が殺されたかとか、ありきたりなことを師匠は聞いてきたようだ。シルヴィエはそれらに律儀に答えている。最初のころはギルドの情報規制もなく、シルヴィエのもとにも情報が入っていたらしい。

 

 「そういうことだったんですねー」

 

 ラムが急に話に割って入って来た。何がそういうことなんだろうか。

 

 「正直なところー、私はシルヴィエさんを疑ってたんですよー」

 

 「なんでだよ!?」

 

 ラムの予想外の発言に大きな声で反応してしまう。個室に俺の声が反響した。あまりに反響するもんだから、ちょっと恥ずかしい。

 

 「私だって申し訳なく思ってますよー。ただ、エルさんが被害者の数を教えてくれたのは、シルヴィエさんだって言ってたもんだからねー。正確な数は冒険者ギルドしか知らないはずなのに」

 

 「そうか、そういう理由ね。こっちも大きな声出して悪かった。で、今さっきの説明で疑いが晴れたと」

 

 「そんな感じだねー。アーティファクトが反応しなかったから」

 

 あれ?ということは、俺が余計なことを口走ったせいでシルヴィエが疑われてたってこと?なんてこった。

 

 アーティファクトという言葉に、シルヴィエが反応する。もしかして、と声を潜めてラムに話しかける。

 

 「ラムさんは、《ファルサ・ウェリタス》をお持ちなんですか?」

 

 あー、ファル何とかね。砦では嘘を見抜くアーティファクトって呼んでだけど、そういえばそんな名前だった気がするわ。

 

 「うわー、このアーティファクトの正式名称まで知っているなんて、兄弟揃って物知りなんですねー」

 

 どうやらシルヴィエは正解したらしい。

 

 「私なんてお兄様の足元にも及びません。師匠との魔法陣の研究に使っていたので、知っていただけですよ」

 

 「いや、俺の方が及んでないけどね?」

 

 思わずツッコんでしまったが、誰も聞いてくれていなかった。意図的に無視されたわけではないと信じたい。

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