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酒場での会議

読んでくださってありがとうございます!

 その後、俺たちは近くの酒場に個室を用意してもらい、夕食がてら改めて捜査情報を共有してもらった。ラムは顔が知られているようで、簡単に個室を確保することができた。

 

 今のところ、大した情報はない。現場は宿が多いが、民家もあるとか。被害者は冒険者が多いが、一般人もいるとか。貴族が殺された例もあって、ギルドにはプレッシャーがかかっているだとか。あまり価値を持たないものばかりだった。

 

 ただ一つ言えるのは、犯人は逃げるのが上手すぎるということだ。王都での殺害が多いのは確かだが、聞くところによると、数日間連続して殺害場所が次々に移っていくこともあったらしい。

 

 距離は近いから街と街を移動すること自体は可能だろうが、検問に引っかからないとなると、もう常軌を逸している。実は本当に吸血鬼の仕業だったとかないかな?首が切られているのは、吸血鬼の偽装だったとか……

 

 「で、次に殺害方法なんですけどー、さっきも少し触れたように全て首を引き裂かれて殺されているんですよねー」

 

 ラムの声で我に返る。現実的に即して考えれば、吸血鬼がやったというのはありえない。吸血鬼は、とうの昔に滅んだ存在なのだから。

 

 そういえば、さっきから首を切られたじゃなくて、裂かれたっていう言い方が気になるな。シルヴィエもそう言っていた気がするが、何か理由があるんだろうか。

 

 「その傷が本当にひどくてー、ズタズタなんですよねー。鋭利な刃物というよりは、尖った石かなんかでやったような感じで……」

 

 ラムが話をつづける。話しているうちに遺体の様を思い出したのか、声が沈んでいったのが痛々しかった。俺はまだこの目で遺体を見たことがないが、ラムは十四人ものそれを見ているのだ。程度はわからないが、気持ちが参ってるのは間違いない。俺だったら仕事を投げ出しているかもしれん。

 

 だが奇しくも、これで俺の疑問が解消された。首が裂かれたという妙な言い回しは、その傷口の特徴ゆえということだ。しかし、同時に新たな疑問も生じた。なぜ犯人は鋭利な刃物を使わないのかということだ。殺すだけならその方がいいはずだ。いや、殺しとかやったことないけどね。

 

 殺すのに刃物を使わない理由。正確に言えば、刃物より切れ味の悪いものを、わざわざ何度も殺しに使う理由。これもヒントになる気がする。少し考えてみよう。


 その場その場にあるものを使って咄嗟に殺した?それでは傷口が似ていることに説明がつかない。じゃあ、手元に刃物がないから?逃げるのが上手いんだから盗んでくればいいよな。それとも、普段から持ち歩いている仕事道具とかを使った?意外とありそうだけど、わざわざ使う理由にはなってないよな。


 しっくりくる理由は思いつかない。が、わざわざ繰り返しそれを使っているからには、それでなければならない理由があるのではないだろうか。もしかしたら、殺すこと自体は目的じゃないのかもしれない。まあ、いずれにせよ想像の域を出ることはないか。


 「いったい、どんな人間がこんなことをしているんでしょうね」


 このアレクの素朴な疑問は、意外と的を射ている気がした。首をズタズタにするというのは、惨殺と言ってもいい。殺すのも殺されるのも怖くて、前線から逃げてくるような俺には信じられない。たとえ前線の兵士だとしても、戦争でもないのにそんな風に人を殺すことは難しい気がする。それが何人ともなるとなおさらだ。


 一連の犯行は狂気じみている。並の精神でできるもんじゃない。迷信っぽいことは好きではないが、なにかに取り憑かれているのではないかと思うほどだ。そうでなくても、何か魔法で操られているとかの方が納得できる。


 「今晩も被害者が出るのかと思うと、いたたまれない気持ちになりますよ」


 ラムはまだ話を続けていた。さっきから話が止まらないが、よほど一人で抱えていたんだろうと推察される。変なやつだが、真面目なところもあるのは理解した。ギルドへの協力云々を抜きにしても、多少は力になってやりたいもんだ。


 「そうですね、どうにかして未然に防ぎたいものですが……」


 そう言ったシルヴィエの顔も暗い。ラムが悪いわけではないが、食事中にこうも陰鬱な話をされて、気分が落ち込まないやつなどいないだろう。特に、シルヴィエは優しくて繊細だ。いくら天才と呼ばれようが、まだ十六歳の少女である。俺が守ってやらねば。


 ふむ。ラムの力になりつつ、シルヴィエを守る。俺にそんな甲斐性があるだろうか。いや、ない。でも事件を解決すれば、ラムの力にもなれるし、シルヴィエが悲しむこともなくなる。一石二鳥だ。これは何が何でも事件を解決せねばならないようだ。


 などとシルヴィエとラムのことを考えていたら思い出した。シルヴィエとラムで、被害者数の思い出し方が違うのが気になっていたのだ。最初にこのことを考えていたときには、見張りの男が急に叫んだせいで忘れちゃったからな。今のうちに二人に聞いておくとしよう。

 

 「なあ、シルヴィエ。気になってたんだけど、事件の説明をしてくれたとき、最初の事件の日付から被害者数を逆算してただろ?なんで被害者数じゃなくて、最初の事件の日付の方を覚えていたんだ?」


 俺の質問にはいつもすぐに答えるシルヴィエだが、今回は様子が違う。なかなか言葉が見つからないようだ。理由などなかったのだろうか。無意識でやっていたことに理由を求められると困るもんな。


 もし今シルヴィエがそういう状況ならかわいそうだ。俺にはその苦しさがわかる。考えなしに仕事をしていて、そのやり方をしていた理由とか聞かれると辛いからな。質問は撤回しよう。そう思ったとき、シルヴィエが話し始めた。

 

 「……申し訳ありません。さすがはお兄様、そこにお気付きだったとは。実は、最初の一週間以降、事件の情報を手に入れることができていなかったため、それまでの情報からの推測でお話ししていたのです」

 

 なるほど。情報が入っていなかったのか。ギルドの情報規制とかだろうか。ちらりとラムの方を見ると、ペロッと舌を出して片目を瞑っている。うん、ギルドのせいらしい。

 

 「でも、なぜ推測で話を?わからないならそう言えばよかったのに」

 

 俺は素直な疑問をぶつけた。

 

 「お兄様の、お兄様に、役立たずだと思われたくなかったものですから……」

 

 「そ、そんなこと思うわけないだろ!?」

 

 シルヴィエのしどろもどろな答えを、即座に否定する。シルヴィエにそんな風に思われていたなんてちょっと、いや、かなりショックだ。

 

 どうやらギルドのせいではなく、俺のせいだったみたいです。

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明日は二話投稿を目標にしています。

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