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犯人は吸血鬼?

読んでくださってありがとうございます!

 歩くこと数分。着いたのは、俺とアレクが泊まった宿のちょうど向かい。昨日のアレクや今朝のラムの話通りだった。殺人があったという部屋に通される。部屋の前には見張りらしき男が二人いたが、ラムの姿が見えると邪魔にならないようサッとどいていた。ラムは本当に偉いっぽいな。

 

 部屋は質素なもので、ベッド、机、椅子があるだけだった。本当に泊まるだけの部屋だ。しかし、この部屋きれいすぎやしないか?首を切られて殺されたわりには、部屋が荒れた様子はないし、血痕らしきものすら見当たらない。シルヴィエもそれが気になっているのか、部屋のあちこちを見回している。

 

 「遺体を運び出した以外、部屋には何も手を付けていませんよ」

 

 俺の考えを知ってか知らずか、ラムはそう教えてくれた。宿のオーナーかギルドのやつが掃除したのかと思ったが、そうじゃないらしい。今からでも泊まれそうなほど整頓された部屋に、言い知れぬ不気味さを感じた。

 

 「随分と、きれいなんだな」

 

 適切な表現が思い浮かばず、思ったことを素直に告げた。

 

 「ええ。どの現場にも血痕の一つもないんですよ。あるのは、首がズタズタに裂けた遺体だけなんです。遺体からは血がなくなっていて、そういう人形だって言われたら信じてしまいそうなくらいです。まあ、人形なら相当悪趣味なものですけどね」

 

 急に真面目な口調で話すラム。さっきまでの間延びした話し方は何だったのか。こっちが素なら、ずっとその調子でお願いしたいものだ。

 

 「犯行方法はかなり限定されそうなものですが、見当はついているのですか?」

 

 ラムの言葉を聞いて、シルヴィエが言った。たしかに、ラムの言っていることが本当ならば、そんな尋常ならざる殺し方はすぐに割り出せそうなものだ。

 

 「シルヴィエさんがおっしゃるように、犯行方法は極めて特殊なものだと思われますが、我々に統一された見解はありません」

 

 ラムは唇を噛み、悔しそうな顔をしている。二週間もの間、犯行方法すらわからないのは、ギルドとしては屈辱的だろう。

 

 犯人は、いったいどのような方法で殺したのか。俺はこの時点で一つの仮説を持っていた。

 

 「吸血鬼がやったとかじゃないと、説明がつかないくらい不気味な事件だよな」

 

 そう、古の吸血鬼ならば、血を吸い尽くすことによってこのきれいな犯行現場を作り出すことができる。さらに、姿をくらますことだって簡単だ。やつらは霧に変身できるというのだから。しかも吸血鬼が犯人だとすれば、犯行が夜にしか行われていないことにも説明がつく。

 

 クソッ。それなら見つけたとしても、神業的隠遁術を教えてもらえないじゃないか!いや、そんなことより、もしほんとに吸血鬼の仕業だったとしたら――

 

 「犯人が吸血鬼なら、わざわざ首を裂く必要はないのではありませんか?」

 

 シルヴィエの言葉が、俺を妄想の世界から連れ戻す。言われてみれば、犯人が吸血鬼なら首を一噛みすればいいだけだ。首を切る必要はない。もし吸血鬼の仕業なら、今までにもこういう殺人があって然るべきだしな。

 

 でもなんか、吸血鬼って言葉が引っかかるんだよな。あと、血のない死体。そこに何かヒントがあるのではないか、と素人の直感が告げている。

 

 「まあ、現場を見てわかることはこれ以上なさそうだし、冒険者ギルドが持ってる他の情報を共有してくれないか?」

 

 わからないものをいつまで考えていても仕方ないので、話を前に進めるための提案をする。というのは建前で、俺の吸血鬼仮説があっけなく退けられたのが恥ずかしかくて、話題を変えたかったのだ。

 

 「いいですけどー、他言無用でおねがいしますよー?」 

 

 「無論だ」

 

 この部屋で殺されたのが十四人目だというのに、王国および軍が持っている情報はかなり少ない。調査を請け負っている冒険者ギルドの話は、ぜひ聞いておきたい。

 

 「じゃ、まずは基本的なところから行きましょー。ここでの殺人で、何人目だと思いますかー?」

 

 あれ、クイズ形式なの?めんどくさいな。ただこれは簡単だ。

 

 「十四人だろ?さっきシルヴィエから聞いたよ」

 

 「お、そうです。十四人もの人が殺されているのです。つまり、私たちは二週間もの間、犯人に弄ばれているのです。本当に情けない限りです」

 

 なんだろう?シルヴィエの説明と少し違っているような気がする。何が違うんだろう。少し考えて気づく。シルヴィエとラムでは、被害者数を導くプロセスが違うんだ。

 

 シルヴィエは、二週間前に最初の事件があって、それから毎晩一人ずつ殺されているから被害者数は計十四人という説明をした。つまり、最初の事件の日付から被害者数を逆算していたのだ。

 

 一方、ラムの方は被害者数を最初に言って、そこから事件が二週間もの間続いていることを言った。どちらの説明の仕方がより一般的かと言えば、ラムの方だと思う。なぜなら、前日の被害者数に、毎日一を足していくだけで、その日までの被害者数がわかるのだから。


 じゃあ、何でシルヴィエは被害者の数ではなく、最初の事件の日付を覚えていたんだ?日付から逆算する方法と毎日一を足していく方法。後者の方が楽だと思うんだけど。何か手掛かりに――

 

 「代表を情けないと誹る者などおりません!」

 

 突然、見張りをしていた男の一人が絶叫した。びっくりするから止めてほしい。歳を取るごとにそういうのに弱くなってるんだから。あんたのせいで、さっきまで何を考えてたかわすれちゃんたじゃん!

 

 あれ、こいつさっきラムのことを代表って呼んだ?空耳だよね?

 

 「ははは。ありがとー、パルド。でも、解決できなきゃそう思われても仕方ないよー」

 

 俯きながら答えたラムの声は、少し震えていた。責任を感じているのだろう。真面目なところがあるんだな。出会い方が悪すぎただけで、本当はちゃんとしたやつなのかもしれない。……それはないか。

 

 「ラムさんは、冒険者ギルドの代表なのですか?代表は違うお方だったと存じていますが」

 

 ラムに質問したのはシルヴィエだ。さすが我が妹。俺もそれ気になってたんだよ。

 

 「ギルドの代表など恐れ多いですよー。なんというかー、ギルドのとあるチームの代表みたいなものですー」

 

 はぐらかされた気もするが、ラムがギルドの代表じゃないということが話あればそれでよい。こんなのがギルドの代表だったら、本気で国が介入せねばならないだろう。

 

 で、何か大事なこと考えていた気がしたんだけど、なんだっけ?まあ、大事なことならあとで思い出すだろうから、今は置いておいてもいいか。

感想お待ちしております!

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