面倒な協力者
読んでくださってありがとうございます!
「何でもお聞きください!」
茶髪二つ結びは降参したのか、そんなことを言う。お前が何でも答えちゃうと困るんだけど。
「よい心がけです。まず、あなたのお名前を聞かせてください」
たしかに、俺もまだ名前を知らなかった。脳内では茶髪二つ結びとか、変な人とか呼んでいたが、名前がわかるならその方が便利だ。君の名は?
「ラムリール・ハイデグと言います。ラムって呼んでくださいねー。あ、冒険者ギルドでは偉いんですよー?」
予想通り、こいつは冒険者ギルドの冒険者のようだ。名前はラム。短くて覚えやすい。にしても、こんなやつが偉いとか本当か?人材不足がひどいな。
ちらりと後ろを窺うと、アレクが目を白黒させている。ラムみたいなのがギルドのお偉いさんだと聞いて混乱しているのだろう。わかるぞ、その気持ち。
「ラムさんですか、わかりました。冒険者ギルドの方だったのですね。つまり、私たちは協力しなければならないということ。ぜひ、仲良くしていただきたいものです」
シルヴィエは微笑んでいた。絵画にすればかわいいんだろうけど、実物を目の前にすると謎の圧力を感じる。
「きょ、協力?何のことでしょー?」
「協力して事件の捜査をしましょうということです」
「そういうことなら信じますー。仲良くしましょー」
なんて白々しいやつだ。嘘を見抜くアーティファクトを持ってるんだから、信じるもクソもないだろう。アホそうな喋り方なのに、そういうところは小賢しいな。
というか、貴重なアーティファクトを個人で持ち歩いているとなると、こいつ本当に偉いんじゃないか?うちの砦に一つしかないやつレベルだというのに。
「自己紹介しましたし―、そちらも自己紹介してくれませんかー?」
ラムはこちらに自己紹介を求めてくる。さっきまではシルヴィエにタジタジだったのに、急に強気だ。地位の高さが自信を与えてくれているのだろうか、ただ空気が読めないだけだろうか。後者な気がする。
「いえ、まだです。質問が残っていますから」
シルヴィエの牙はラムを捕らえて離さない。なんか、ラムって食べられちゃいそうな名前だよな。
「質問が終わったら自己紹介ですからねー?」
それでもラムは引き下がらない。やけに自己紹介にこだわるんだよな。こういう変なところにペースを乱される。
「私たちはあなたの協力者ですから、自己紹介はさせていただきますよ」
「わかりましたよー。何でも質問してください」
こちらに害意がないとわかったからか、少しふてぶてしくなったな。いや、もともとか?
「それでー、質問は何ですかー?」
ラムはシルヴィエに質問を促す。一呼吸ののち、シルヴィエが口を開く。
「はい。いいものとは何ですか?」
忘れてなかったー!そうだよなあ、シルヴィエが忘れるわけないよなあ。おしまいだ。見知らぬ女性にアレを見せつけてしまった男として、一生妹に軽蔑され続けるんだ。アレクにだって軽蔑されるかもしれない。もっと言えば、二人のどちらかが密告すれば捕まるかもしれない。
「その質問ですかー。それだったら大した話じゃないですよー?」
ラムは何でもなさそうに言うが、俺にとっては大した話なんだよ!
「我が国の英雄エル・マラキアン様のご尊顔を拝謁できて光栄だったという話です。それだけです」
「なるほど。たしかにお兄様は英雄と呼ばれるに相応しいですから」
なぜかシルヴィエが少し胸を張っている。普通、それは俺がやるんじゃないの?
てか、なんでラムは俺がエル・マラキアンだと知っているんだ?今朝はそんな素振りを見せていなかったはずだが。
どういうことなんだとラムの方に目をやると、ウインクをしてきやがった。一つ貸しだぞ、と言わんばかりの顔。気に食わないが救われたのも事実だ。あとで一杯奢ってやろう。って違う。危うく騙されるところだった。ラムが俺の制止を聞かず、勝手にドアを開けあがったせいだ。悪いのはラムだ!
「じゃあ、そちらの自己紹介の番ですよね?」
ラムはニコリと笑ってそう言った。俺のことがわかっているならシルヴィエのこともわかっているだろうし、今さら必要なくないか?まあ、約束したしするけど。
「俺はエル・マラキアン。国境警備隊ソーン砦副長官だ。この街に来たのは、君たち冒険者ギルドと協力して、連続殺人事件を解決するという王命を果たすため。よろしく」
我ながら自己紹介だと思ったんだが、どうだろうか?ラムはふんふんと頷いただけだった。
「アレクも自己紹介しとけよ」
「は、はい!同じく国境警備隊ソーン砦所属パイザ・ヴァルツァーであります!」
なぜかガチガチだ。偉いやつだと聞いてビビっているんだろうか?
「コホン。最後に私から。シルヴィエ・マラキアンです。特に名乗る肩書はありませんが、お兄様の最愛の妹です」
凛とした声音でシルヴィエは自己紹介を終えた。なんか最後に変なこと言ってたよな。最愛の妹とか。妹は一人しかいないし、たしかに最愛なんだけどさ、自分で言うか?
「自己紹介ありがとうございますー。で、協力してくれるんでしたっけー。別に頼んでないんですけどねー」
全員の自己紹介が終わると、ラムはそう言った。どうやら協力に対しては否定的のようだ。予想通りではあるが、面倒だ。どうしたものかと考えていると、ラムから予想外な言葉が聞かれた。
「でもー、あの英雄様が手伝ってくれるというなら話は別です。一緒に事件を解決しましょー!」
「へ、いいの?」
意外過ぎて、間抜けな返答をしてしまった。
「いいって言ってるじゃないですかー。早速事件現場に行きますよー」
ラムの鶴の一声によって、俺たちは四人で現場となった宿屋に向かうことになった。急展開過ぎて頭が付いて行かないが、こいつは思い立ったら即行動するタイプなんだろうな。だからかは知らんが、なんとなく俺とはペースが合わない。
これからこいつと行動を共にすると思うと、気分が重くなる。王様も酷なことをしてくれる。あー、早く窓際に戻りたい。
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余談ですが、ここのあとがきって二万文字も書けるらしいです。いつもちょっとしか書いていないのがもったいない気がしています。