シルヴィエの追及
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ピーちゃんが引く竜車に揺られる。揺れはそこまで大きくないからわかりづらいが、窓から見える景色の移り変わる様を見れば、ピーちゃんの足の速さがよくわかる。乗員に少女が一人増えたくらいなんてことないようだ。
竜車に乗ったら、シルヴィエに聞こうと決めていたことがある。それはもちろん、シルヴィエがおばちゃんにしたという例の話の内容だ。
こういう秘密の話みたいなのが無性に気になる質なんだが、これは俺だけだろうか。え、みんなも気になるって?なんだ、それならいいや。遠慮せずに聞けるってもんだ。
「この間の話って何だったんだ?おばちゃんに言ってたやつ」
「何でもありませんよ?」
シルヴィエは少しいたずらっぽい笑みを浮かべ、即答してくる。あまり妹を疑いたくないものだが、少し不自然な様子だ。何かを隠しているのは間違いない。
「何だよ、少しくらい話してくれたって――」
「何でもありませんよ?」
被せ気味に言われた。何も答えるつもりはないらしい。そっちがそういうつもりなら、俺だってとことん追求してやる!
そんな風に息巻いていたときが僕にもありました。結論から言うと、聞き出せなかった。あの後、同じような問答を続けているうちに、ローバラに着いてしまったのだ。
おそらく、俺に対するものすごい悪口だったんだろう。なんたって、おばちゃんが焦るくらいなのだ。信じられないような罵詈雑言が、妹の口から吐き出されていたに違いない。俺が傷つくと思って話さないでいてくれるのかな。そんな気遣いするくらいだったら、初めから悪口なんてやめてよね……
「アレク、ここまでありがとう。このまま砦まで帰っていいよ」
軽く労いの言葉をかけ、帰還を促す。事件の捜査などという面倒な仕事はせず、のんびりとピーちゃんとの旅を楽しんでほしい気持ちからの言葉だった。
「そんなこと言わないでくださいよ!自分にもお手伝いさせてください。昨晩の事件の捜査ですよね?」
あれ、アレクには仕事としか伝えていなかったような。俺とシルヴィエの会話から察したのだろうか。意外と察しのいいやつだ。俺だったら察していても気づかぬふりをして帰るところだが、こんな面倒ごとに自分から首を突っ込んでくるなんて信じられない。
「人手はあったに越したことはないだろうが、いいのか?」
「国民の命を守ることが、軍人の仕事ですから!」
ま、眩しすぎる。こんなまっすぐなやつが俺の部下だなんて、もったいない。やっぱり、こいつはただのいいやつだ。
「お前の気持ちはわかった。こうなったら、最後まで付き合ってもらうぜ」
「承知しました!」
「よし、じゃあローバラの冒険者ギルドでも行ってみるか。今日の捜査で何か進展があったかもしれないし」
一番情報を持っていそうな冒険者ギルドへ行ってみることを提案する。今朝の変な人と一緒に捜査することになるかもしれないのが気がかりだが、
「ここが最新の現場なのですか?」
「え?ああ、そうだよ。知らなかったのか?」
シルヴィエの反応は予想外のものだった。てっきり知っているものだとばかり思っていた。まあ、昨晩起きたばかりの事件の情報を、貴族とはいえ一般人のシルヴィエが知る由もないか。そう勝手に納得する。
「昨日この街に泊まったら、ちょうど向かいの宿で殺人事件が起きたんだよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
シルヴィエは感慨深そうに何度も頷いた。
「今朝ギルドの人にも会ってるから、話も通しやすいと思うんだ」
「さすがはお兄様です」
何がさすがなのかはわからないが、とりあえず大仰に頷いておく。さすがと言われたなら、堂々としていればいいのだ。
こうして三人で道のど真ん中で話していると、見覚えのあるシルエットが近づいてくる。あの特徴的な二つ結びは、今朝の変な人だ。この人がギルド所属の冒険者なら、協力しなくてはならない。心労の多そうな仕事だ。
「おやおやー?あなた方は、今朝の?」
すごくわざとらしい話しかけ方をしてきた。おやおやー、なんて言うのが素なら近寄りたくない。
「どうも、今朝ぶりですね」
無難な返答をしておく。さて、ここからどう協力を――
「今朝はいいものを見せてもらいまして、ありがとうございましたー」
シルヴィエの前で爆弾発言をかましてくるこいつに、俺は二の句を継げなかった。
「お兄様、いいものとは何ですか?この女性とお知り合いなのですか?お知り合いならば、どのようなご関係なのですか?」
「べ、別に知り合いってほどでもないよ。今朝、少し話しただけで」
最初の質問には答えず、後ろ二つの質問にだけ答える。複数質問されたときには、これで誤魔化せることもある。
「そうですか。では、なぜ話すことになったのですか?もしやナンパですか?このように華奢な方がお好みなのですか?」
凄まじい勢いで質問が飛んでくるが、俺は密かに胸を撫で下ろしていた。なぜならば、一番答えづらい質問をスルーできたからだ。勝った。計画通り。
「俺がわざわざこんな変なやつナンパするわけないだろ」
「ちょっと!変なのって何なんですか!」
「お前のせいでこんなことになってるんだ。少し黙っていてくれ」
茶髪二つ結びは、わーわーと抗議をしてくる。鬱陶しいやつだ。この状況で割り込んで来れるのは、メンタルが強靭なのか、ただ空気が読めないのか。後者な気がする。
「あなたからは、あとでお話を伺います。もう少し待っていてください」
シルヴィエの冷たい声に、茶髪二つ結びは黙った。シルヴィエがその気になれば、ローバラの街を吹き飛ばせる。そんな圧力を本能的に感じたのだろうか。こういうときのシルヴィエは怖いね。
「気を取り直して。お兄様、本当に何もなかったということでよろしいのですね?」
「ああ、誓って何もない」
俺は身の潔白を訴えた。シルヴィエは軽く肩をすくめて、俺から視線を外した。おお、許してくれるのか?
「では、ここからはあなたに話を聞きます」
シルヴィエは茶髪二つ結びに向き直り、そう話しかけた。全然許してくれてなかった。他の証言者に当たるだけだ。シルヴィエは捜査に向いているかもしれないな。
いやいや、そんなことを暢気に考えている場合じゃない。こいつが変なことを言えば、俺はお兄ちゃんとして終わってしまう――
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余談ですが、余談として書くことがあまりありません。