完全犯罪
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事件の解決ってのは、犯人の特定・確保っていう明確なゴールがある。だけど、ギルドに対して国が口出ししやすいようにするって何だよ。わかりづらすぎる。王には自分で考えろと言われる始末だし、窓際軍人には無理ですって。
とりあえず、事件解決に動くことにしようと思う。最新の事件はたぶん、あのローバラでの事件だよな。ローバラに戻ってみれば、あの人もまだいるかもしれない。正直、一緒に捜査とかはしたくないけど。
「では、任せたぞ」
王の一言で、謁見は終了した。任されてしまった。王は部下に仕事を丸投げするタイプのようだ。あまりいい上司とは言えないかもしれない。おっと、不敬なことを考えてしまった。仕事を人に投げることこそが、王の仕事なのだからこれでいいのだ。
謁見の間の外でため息をつく。任務が終われば大使の仕事は終わりって言ってたけど、裏を返せば、終わらなければずっと砦には戻れないってことだよな。ああ、マリアやロックのバカさ加減が懐かしい。この王都には、俺より優秀なやつしかいなくて困る。
いや、待てよ。逆転の発想だ。ずっと事件が解決されなければ、俺はずっとギルド大使としてのらりくらりとやっていけるんじゃないか?それもアリな気がしてきた。そんなゲスい考えそしている俺のもとに、カツカツと優雅な足音。
「私にも調査のお手伝いをさせてもらえませんか、お兄様?」
俺をお兄様と呼びのは、この世にただ一人。振り返ると、そこにはやはりシルヴィエが立っていた。ちょっと背が伸びたような気がする。
「でも、お前は学園があるだろ?」
「魔法陣の研究成果によって、卒業を認められました。ですので、大学に通い始めるまでは時間が有り余っているのです」
え、学園ってそんなシステムあったの?成績が悪かった俺は知らない世界だ……
「そうなのか。じゃあ手伝ってもらおうかな?」
「ありがとうございます!お兄様のお役に立てるよう頑張ります!」
俺がオーケーすると、シルヴィエはニカッと笑った。なぜかはわからないが、シルヴィエには昔から気に入られている。理由はわからないが、別にわからなくてもいいものは追求しなくたっていい。
さて、これで心強い協力者を得ることができた。事件解決に向けての第一歩だ。とはいえ、俺はまだ事件についてほとんど何も知らない。王からの説明では、そういう事件が起きているということしか教えてもらえなかった。仕事丸投げにもほどがある。とりあえず、シルヴィエに聞いてみるか。
「いきなりなんだけどさ、俺はまだ事件について詳しくない。知ってることがあったら教えてくれないか?」
「もちろんです!」
元気に返事をしてくれた。天才と称されることの多い妹だが、こういうところは年相応でかわいげがある。いや、別にこういうところ以外もかわいいんだけどね。
「まず、最初に殺人があったのは二週間前でした。それから毎晩一人ずつ殺されているということですので、被害者は計十四人になりますかね。この辺りで殺人事件なんて滅多にないので、同一犯だと考えるのが自然でしょう」
恐ろしい内容をスラスラと語ってくれる。
「犯人の見当ついてたりするの?」
「……いえ、犯人の特徴や足取りは掴めていません。目撃者すら見つけられていないほどのようで」
十四人も殺しておいて、今のところ完全犯罪。事件の解決は相当困難そうだ。つい腕を組んで唸ってしまう。
「でも、お兄様ならすぐに解決できますよね?」
身長差から、こちらを見るシルヴィエは自然と上目遣いになる。かわいいけどやめてくれ。視線が眩しすぎる。お兄ちゃんだってかっこいいところを見せたいけど、これっぽっちもわからない。
だが、わからないなりに何か考えてみるしかない。こういうときって、どういうところから考えるんだろうな。被害者の共通点、犯行方法、アリバイ?共通点や犯行方法はギルドの人らに聞くとしよう。容疑者が見つかってないんだから、アリバイなんて関係ないか。
この辺りで毎晩ってことは、犯人は潜伏しているんだろう。それで姿を見られもしないとは、疎ましいと同時に関心すらしてしまう。神業の領域だ。俺にもその技を教えてほしい。そしたらここを抜け出して、誰にもバレずに田舎暮らしできるのに。
犯人が潜伏していない可能性はあるだろうか?いちいち遠くの拠点まで帰って、ここに戻ってきて殺す。いや、毎日毎日同じやつが出入りしていたら、怪しまれて検問で止められるだろう。検問で止められないような身分なのか?それだって毎日出入りしてたらさすがに怪しいよな。あとは、特殊な魔法とか?
それとも、犯人は複数?同一犯だからといって、複数犯でないとは限らない。そもそも同一犯という前提が間違っている?
んー、そんな可能性まで考えだしたらキリがない。潜伏しているという方向で考えた方がよさそうだな。いくつか確認してみるか。
「犯人は、この近辺で潜伏しているってことでいいのかな?」
「私はそう考えていました。遠くの街で人が殺されたという話もありませんから」
まあ、そうなるか。そうであれば、まさに神業的隠遁術だ。俺が犯人を捕まえた暁には、ぜひ教えてもらおう。そして、聞きたいことはもう一つ。
「犯人は、確実に一人か?」
「断定はできません。ですが、どの方も首の傷が致命傷となっていて、その傷口がよく似ているそうです。そうした点から、犯人が一人だと考えてもよさそうです」
なるほど、殺され方に特徴ありというわけか。ならば、単独犯に狙いを定めてよさそうだ。ただ、そうなると犯人は本格的に逃げるのが上手すぎる。それこそ転移魔法とかがないと――
「転移魔法ですか?」
「ああ、いや、なんでもない」
「そうですか?」
口に出していたつもりはなかったんだが、漏れていたようだ。どうもこういう癖があるらしい。マリアにも指摘されたことがあった。シルヴィエは瞑目して、考え込み始めてしまった。そんな深く考えるなって。
とりあえずローバラに戻って、情報を仕入れて来よう。これ以上は考えようもない。あの変な人も何かしら情報を持っているだろう。
「ここで考えていても答えは出ないし、一番新しい事件が起きた街に行ってみようか。ギルドの人もいるだろうしさ。兄弟仲良く二人旅だ」
「わかりました!お兄様と二人旅なんてワクワクします!」
即答だった。
こうして、まずはローバラで調査を進めることになった。
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