新たな任務
読んでくださってありがとうございます。
シルヴィエは説明を始めた。お付き合いくださいという言葉通り、俺も聞いていていいらしい。よかった。
説明によると、わざわざ俺を王宮に呼んだのは王とシルヴィエらしい。それぞれが俺に用があって、王宮でやれば一度で済むだろうという話になったようだ。王とやり取りできるとは、さすがは王国でもトップクラスの魔術師だな。
まず、中佐が言っていた新兵器なるものの話があった。なんでも、それを開発したのはシルヴィエらしい。発明が軍に採用されるって、もうちょっと信じられないことをしている。それで、シルヴィエが直々にその使い方を俺に教えたかったんだとか。そんな理由で王宮を使うんじゃありません。
新兵器とは、魔法陣を利用した火砲だ。古代にあった技術を模倣したものらしい。説明を聞き、これは画期的なものだと一瞬で理解した。俺でもわかるくらいすごいものだ。これでまたロウマンド王国は強くなると直感した。
どういうものかというと、魔法陣に触れて魔力を流すだけで魔法陣によって指定された魔法が発動するというものだ。魔力というものは、その個人差はあれど大抵誰もが持っている。しかし、魔力を持っていることと魔法が使えることは別問題だ。
実際、戦争で有効な魔法が使える人間、つまり魔術師のことだが、そういうのは我が国でもそう多くはない。軍の中でも一万を少し超える程度だ。
しかし今回の魔法陣を使えば、魔法を使えない人でも疑似的に魔法を使えるようになる。使用条件は、魔法陣に流せるだけの魔力を持っていることだ。単純に、人口の九割以上が魔術師になることができる計算になる。
これは革命的なことだ。でも同時に、俺は恐ろしくも感じた。こんなものを手にしてしまったこの国の軍人たちは、さらに戦争を拡大しようとするのではないだろうか。
俺のスローライフが守られるには、この国が存在していなくてはならない。正確には、存在してくれていた方が便利だ。それは事実なのだが、罪なき他民族の命の上にそれがあってもよいのだろうか。俺にはわからなかった。
だが、俺が反対したところで止められるわけもない。不安に思ったことは他にもあったが、俺には受け入れる以外の道はなかった。
「さて、次は儂から一つ頼みたいことがある」
シルヴィエの説明が終わると、王がそう切り出した。王は軍の最高士官でもある。逆らえるわけがない。
「何なりと」
跪いて答える。
「では、任命しよう」
ん、任命だと?その頼みごとを受けるにあたって、何か役職を授からねばならないということなのか?こんなに無能な俺にいったい何をさせたいんだ。
「エル・マラキアンを、ギルド大使に任ずる」
王は厳かに言った。
「つ、謹んで拝命いたします」
俺はマニュアル通りに答える。役職名の響き的に前線送りではないみたいだが、どうなんだろう。ギルド大使、何をやるのか想像がつかない。てか、国境警備隊の方は?聞いてみるか……
「いくつか、お尋ねしたいことがあるのですが」
「申してみよ」
おお、答えていただけるらしい。
「はい。まず、ソーン砦副長官はどうなるのでしょう?」
「そなたが兼任するに決まっておるだろう。だが、砦を心配するそなたの気持ちも十分理解できる。そこで、話には聞いているだろうが、とびきりの人員を派遣している。戦力的には問題ないだろう」
兼任ってマジかよ。窓際部署のやつに仕事任せすぎだって。基本的に無能だから窓際にいるんだよ?そんな窓際軍人に任せて大丈夫?アネモネみたいな例外もいるけど、あれは本当に例外中の例外だ。
あと、砦の心配って言ってたけど、砦のことはあんまり心配していない。たしかにアンデッド侵攻があって、これまでみたいに確実に安全とは言い切れなくなったけど、あんなことはもう起きないだろうから。
とはいえ、こんなことを王に言えるわけがない。
「左様でございますか」
これだけ言うのが俺の限界だった。ギルド大使、面倒くさそうだな。
「案ずるでない。ギルド大使は一時的な職だ」
じゃあ任が解かれれば、ただのソーン砦副長官になって、また窓際ライフを送れるってこと?
「一時的というのは、いつまででしょうか?」
確認したい気持ちが先行して、断りもせず発言してしまう。
「連続殺人事件を解決するまでだ。そなたが冒険者ギルドと協力してな」
俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。ギルドと協力して事件を解決って、軍人の仕事なのか?
「そなたが抱いてるであろう疑問もわかる。しかし、色々と事情があるのだ」
そう言って、王はその事情とやらを説明してくれた。
近年顕著なギルドの巨大化が、ギルドによる規制強化をもたらしているらしい。その規制というのは、主にギルドに加入していない者を対象にして、技術提供や商品売買が制限することをいうんだとか。詳しいことはよくわからない。
一方、国としては自由な商売や競争を望んでおり、各種ギルドとは反りが合わないらしい。それでも国は、彼ら――特に冒険者ギルド――は非正規軍として重要な戦力であるし、その自治も利用したいという。図々しさ、ここに極まれりだ。
国がそんな悩みを抱えていた今日このごろ、王都やその近辺で殺人事件が連続して起きた。この話を聞いて、ローバラで出くわした殺人も、一連の事件だったのだと合点がいった。そして、あの茶髪で二つ結びの変な人は、ギルドの捜査員みたいなものだろう。
都市の自治を買って出ているギルドからすれば、こんなことが起きてしまうのは失態だ。王国側は、その失態の隙に漬け込むことにした。ギルドによる捜査に協力を持ちかけたのだ。が、ギルドから拒否されてしまった。国としては強制できないこともなかったが、国民の反発を生む恐れがあるとかで、それは止めたらしい。
そこで、俺に白羽の矢が立った。なぜ俺かというと、今の俺の国民人気がものすごく高いからだという。この部分は説明されても理解できなかったんだが、とにかく救国の英雄扱いで国民人気が高いらしい。俺のここまでの人気ぶりは、誰かの陰謀なんじゃないかと疑ってしまうほどだ。
さて、俺のギルド大使としての任務は二つ。ギルドと協力して事件を解決すること。ギルドに対して国が口出ししやすいようにすること。この二つだ。
人気があるばっかりに、面倒なことになってしまった。人気があってこんなにうれしくないことなんてあるんだなあ。
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余談ですが、ストーリーに矛盾が生じそうで心配です。頑張ります。