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いざ、軍本部へ

読んでくださってありがとうございます。

 「もうすぐ着きますね」

 

 アレクは、俺に対してかなりフランクになった。旅の初めのころからは信じられないほどだ。今もアレクから話しかけてきた。かわいいやつじゃねえか。

 

 「そうだな。前線に送られたくはないよ」

 

 「死ぬのが嫌だという意味なら、わかります」

 

 アレクの返答は、我が国の軍人らしからぬものだった。

 

 「俺以外にそんなこと言うなよ」

 

 「へっ?」

 

 なんだその反応。俺の言わんとするところが伝わらなかったのか?

 

 「処分されちまうかもしれないからな」


 言葉を補う。

 

 「そういうことですか。言いませんよ。東側国境が戦場にでもならない限り、軍にいても自分は死なないでしょうし」

 

 最後の方、アレクは笑いながら言った。たしかにあの砦にいる限り安全だとは思うが、この前のこともある。絶対に大丈夫だと言い切る自信はなくなっていた。

 

 「アレクの言う通りだ。俺も早く仕事を終わらせて、ソーン砦に帰りたいよ」

 

 だがアレクの前で、我が砦の隊員の前でそんなことは言えなかった。まあ、俺は国境警備増強のために派遣されたんだ。いざとなれば、俺が砦を守ってみせる!

 

 と、柄にもないことを考えているうちに、城壁がどんどんと大きくなってきた。

 

 「うわー」

 

 アレクの口からは、アホそうな嘆息が漏れ続けている。とはいえ、その気持ちもわかる。今まで機会がなかったが、外から見るとめっちゃ壁だ。すごい。これを見れば、みんなアホになること請け合いだ。

 

 城壁の中、すなわち王都内にはいるには、検問を受けなければならない。ソーン砦における入国審査のようなものだ。それを待つ人々が列をなしている。

 

 しかし、こちらは呼び出しを受けている身。待つことなく検問を終え、城壁の中へ。優越感が半端ない。アレクの顔にも笑みが貼り付いている。

 

 ここの入り口からは、左手遠方に王宮が見える。高台にあるため、見下ろされる形になる。なんとも気に食わない立地だ。王都到着早々、心の中で悪態が止まらない。そんなのも、この街の空気のせいだ。そういうことにしておこう。

 

 さあ、帰ってきちゃったな。ただいま、クソふるさと。

 

 

 

 帰郷から数時間。俺の目の前には、王。あと知らない人が数人に、我が妹。なんでこんなことになったんだっけ?

 

 ――王都に着いて、まずとある店に向かった。物心ついたときから行きつけのミートパイ屋だ。さっき朝食を食べたばかりな気がしないでもないが、食べたいときに食べるのが最高の贅沢だと俺は思う。そして、俺は今食べたいのだ。

 

 王都に入ってから、アレクはずっとキョロキョロしながら歩いている。一緒に歩いているのが少し恥ずかしくなるほどだ。ただ、その輝く目を見ていたら、それも許せる気がしてくる。

 

 店のある通りまで来た。が、なんだか様子がおかしい。目当ての店付近に人だかりができている。そして、その中には軍服を着用した人間が何人か見える。面倒なことが起きているのは容易に想像できた。

 

 「何かあったんでしょうか?」

 

 アレクが聞いてくる。

 

 「まあ、何かはあったんだろうな。そうじゃなきゃ、あんなに軍人が集まっているのはおかしい」

 

 さすがに軍人ならば、このグレーの国境警備隊服を知っているだろう。軍人たちにこの姿を見られてしまえば、俺が本部に顔を出す前に腹ごしらえをするつもりだったのがバレてしまう。その中に上官に報告するやつがいれば、最悪何らかの処分が下されるかもしれない。アレクを巻き込んではかわいそうだし、ここはいったんお預けにするのがいいだろうな…… 

 

 「見つかったら面倒だから先に本部に行こう。食べるのは用事が終わってからでも遅くはない」

 

 「承知しました」

 

 あそこにいた軍人たちが何をしていたかは知らないが、若干の恨めしさを抱えたまま、本部に向かった。店から本部までは遠くなく、ほどなくしてその影が見えてきた。

 

 「え、これが軍本部ですか?まるで王宮じゃないですか」

 

 本部の目の前に来たアレクは、驚きとともにそんなことを口にした。軍本部ごとき、王宮と比較するなどおこがましいにもほどがある。

 

 「それ、不敬罪だぞ」

 

 「ええ!?」

 

 「冗談だよ」

 

 「そ、そうですか」

 

 王都に着いてもう一時間弱だと思うが、いまだにアレクの挙動不審っぷりと言ったらない。もはや愛おしいまである。いや、愛おしくはないか。

 

 「さっきから田舎者丸出しだよな」

 

 「実際、田舎者なんですよ」

 

 「素直なやつだな。そんなお前は、あとで王宮の近くに行ってみるといい。たぶん心臓が止まる」

 

 「こ、怖いんで付いてきてください」

 

 何が怖いのかわからんし、俺は行きたくない。

 

 「えー、やだな。元上司とかいそうだし」

 

 「そういえば、王宮の警備をされていたんでしたね」

 

 「そうだ。ただ立ってただけみたいなもんだけどな」

 

 おっと、つい口が滑って本当のことを言ってしまった。カッコつけようと思ったのに。

 

 「今も昔もやってること変わってないじゃないですか」

 

 そんな俺に対して、アレクがツッコむ。こいつも言うようになったもんだ。これが二週間と少しの旅を共にしてきた男同士の絆ということか。

 

 「失礼なやつだな」

 

 本当にそう思ったわけではないが、売り言葉に買い言葉的に反応してしまった。

 

 「す、すみません……」

 

 途端に申し訳なさそうにするアレク。そんなに真に受けなくてもよかったんだが、そういうのを求めるのは苦だったようだ。部下とのコミュニケーションというのは難しい。

 

 「別に謝らなくていい。おかげで緊張もほぐれてきたし」

 

 事実、この会話のおかげで俺の緊張は少し軽減されていた。これ以外にも、アレクがいて何かと助かったことは多い。神様、王様、アレク様だ。これはさすがに過言だな。

 

 「お役に立てたのなら幸いです」

 

 アレクは一瞬のうちに明るい表情を取り戻した。先ほどの申し訳なさそうな態度が演技なのではないかと思えてしまうほどの変わり身だが、これも俺との関係性が構築されてきたゆえだと受け取っておこう。そう思っておいてほうが幸せだからな。

 

 「じゃ、行ってくるから外で待っててくれ」

 

 「承知しました」

 

 警備担当に案内を受け、本部の敷地内へ。あー、何言われるのかなあ。緊張がほぐれたとはいえ、憂鬱なものは憂鬱だ。俺の足取りは軽くなかった。

 

 前線は嫌だ、前線は嫌だと願いながら、建物を進んでいく。これから会うのは、今まで直接話したこともないようなお偉いさんだ。それを意識すると、ほぐれたはずの緊張もぶり返してくる。

 

 その相手とは、クラウド・アグリネス中佐。我が軍を完全に制御する鉄人だ。

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