つまらないもの
読んでくださってありがとうございます。
翌朝。途中で起こされたわりに、よく眠れた。我ながらずぶといやつだと感じる。
一階が食堂でささっと朝食を済ませてしまいたい。どこかで対服に着替えないといけないんだが、朝食前に着替えちゃえばいいか。本部に顔を出すから汚さないようにしないとだけど。あと、勝負パンツも履いておこう。部屋の中で全裸になると、けっこう冷える。そういえば、移動している間に十二月になっちゃったもんな。
コンコンコンとノックの音。アレクかな?
「いらっしゃいますかー?ちょっとお聞きしたいことがあるんですがー」
アレクの声じゃない。女性の声だ。オーナーか誰かか?
「いますよ。先ほど起きたところです」
「起き抜けに申し訳ないですが、失礼しますねー」
「はーい。え!?」
やべえ、俺スッポンポンじゃん!扉の鍵は……昨日アレクを入れた後、閉め忘れた。クソ、このまま扉を開けられてしまえば、俺は変態のレッテルを貼られてしまうかもしれない。
扉を押さえるべく、全力でダッシュする。
あと少しで、届くッ――
ガチャリ。無情にも、俺の目の前で扉は開いた。
立っていたのは、茶髪を二つ結びにした女性、いや、少女?彼女の視線は下に向く。終わった。
「で、聞きたいことなんですけどー」
そして下を見つめたまま、平然と話を進めてくる。この子、おかしいのかもしれない。俺は扉を閉めた。
「え!?なんで閉めるんですかー!?」
なんなんだ、あいつは。俺のモノを見ながら話を続けてきやがった。今この瞬間も、おーい、とか呼びかけてきてるし怖すぎる。俺のモノを認識できなかったのか?だとしたら失礼なやつだな。
「あ、あの。服着るんで少し待ってもらえます?」
それだけ言って速攻で服を着た。
改めてさっきの人と対面する。
「すみませんね、つまらないものをお見せして」
「いえ、つまらなくはなかったですよー?」
どういう返答だよ。つまらないってことは認めてもらえたってことか?いやいや、俺は何を考えているんだ。こんなやつにモノを認められて何になるって言うんだ。てか、やっぱり見られてたんだ。
「で、聞きたいことって何ですかね?」
なんとかして平静を装う。
「あ、そうでした。昨日、向かいの宿で殺人があったのご存じですかー?というか、あったんですけどー、やってませんよね?」
「やってませんけど」
とりあえず、身の潔白を主張しておく。この変人についてだが、おそらく冒険者ギルドの者だろうと推測する。昨夜の殺人について調べているのだろう。それにしても、質問下手すぎないか。
「やってないんですね!ありがとうございましたー!」
こっちを見ることもなく感謝の言葉を述べると、颯爽と帰っていく。待てよ、この感じ知ってるぞ。……嘘を見抜くアーティファクトだ。
「アーティファクトですよね?」
帰ろうとするところに、つい話しかけてしまった。やべ、変な人なのに自分から話しかけるなんて何やってるんだ。
「正解です。なんで知ってるんですかー?怪しいですねー」
振り向いた顔はニヤッとしいる。
「怪しくねえよ」
「うーん、アーティファクトが反応しないように話してます?」
そんなこと全然気にしてなかったわ。このアーティファクトの前ではそのように立ち回らないといけないのか。勉強になった。
だが、そんなこと意識していなかったとここで言ったら、この人にはそれが本当だとバレちゃうから恥ずかしい。アーティファクトのことは知ってるのに、それへの対処を意識してなかったってバカっぽいもんな。んー、こういうときは――
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな」
「あ、やっぱりそうなんじゃないですかー」
ふっ、計画通り。両方の可能性を提示しておけばアーティファクトには引っかからないし、勝手に相手が勘違いしてくれる場合もある。そして、実際いい感じになった。この切り抜け方は、我ながら天才的だったな。
「そんな物知りで賢いあなたに、頼みたいことがあるんですけどー」
上目遣いで目をパチパチさせている。かわいさアピールのつもりか?ちょっとうざい。
「ごめんなさい。無理です」
即答する。
「ええ!?私がたのんでもダメなんですか!?」
私が頼んでもってなんだよ、まずお前誰だよ。名前も知らない怪しい人の話は聞いちゃダメだし、付いて行ってもダメだ。よい子のみんな、約束だぞ。
「すみませんが、仕事があるんですよね」
「そうですかー……」
少しむくれている。あざといな。だが、俺はそんなものに屈しはしない。
「では」
短く別れの言葉を告げ、閉め出した。なんか話していて疲れる人だったな。
ここで気づく。扉を閉めたはいいけど、食堂へ行かないといけないんだよな。恐る恐る扉開けると、今度は隣の部屋でアレクが絡まれていた。助けを求めるような目をしていたが、俺には救えない。ごめんな。
先に朝食を食べ始めたころ、アレクも食堂にやってきた。
「ひどいですよ。なんで助けてくれなかったんですか」
「だいぶ長い間絡まれてたみたいだな。なんかあったのか?」
俺のときは人を殺していないか聞かれただけだったから、それが疑問だった。
「え、あ、えーっと……」
アレクはどこか動揺しているようだった。が、自力で平静を取り戻し、話し始める。
「自分も隊服を着ていたので、副長官と同じ仕事だと割れてしまって、それで副長官が協力してくれるよう説得してくれないかとしつこくて」
アレクは何か動揺しているようだった。
「なるほど、それはすまなかったね」
俺が隊服を着ていたせいで長々と絡まれてしまったみたいだ。アレクが最初答えに窮していたのも、俺のせいだと言いづらかったからだろう。それは申し訳なかったな。
アレクが食べ終わるのを待ち、宿を出る。さっきの人は、他の人に聞き込みをしているのか見当たらなかった。絡まれても面倒なので、早々にローバラを発つ。
ローバラから王都までは、ピーちゃんの足なら一時間もかからない。着いたら昼食を済ませてから本部に顔を出そう。腹が減っては何とやらだからな。嫌なことを後回しにしたいとか、そういうことではない。
……嘘をつきました。嫌なので後回しにするつもりです。
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