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エル、呼び出しを食らう

この投稿から物語の本筋に戻ります。

話が行ったり来たりして申し訳ないです。精進します。

 「俺は軍本部に呼び出された」

 

 こんな書き出しの物語を読んだら、涙が止まらなくなるに違いない。少なくとも、俺は号泣する。これから凄惨な末路を辿るだろう青年のことを思って。しかし、これは現実である。ここでの「俺」とは、俺自身のことだ。涙はとうに枯れ果ててしまった。

 

 本部に呼び出されるのは、俺が最も恐れていたことだ。アンデッド襲来以降、俺の評価はうなぎのぼり。王都では、俺が凄腕魔術師だなんて噂まで出ているらしい。無駄に兄妹たちの出来がいいばかりに、謎の信憑性が生まれている。

 

 本部に呼び出されたら、何が起きるのか。予想、いや、予知をしよう。南方前線に派遣さえる。俺が逃げ出したあの場所へ。

 

 俺は国境警備増強のために来たのに、異動早々呼び戻されるなんておかしいだろ。と思い、その旨を伝えたのだが、代替の人員を送るから気にするなと言われた。なんでも、代替人員は凄腕魔術師なんだとか。本物の凄腕魔術師が来たら、俺の居場所なくなりそう……

 

 こうして唯一の反論材料は、あっけなく消え去った。もう命令に従うしか道はない。すぐに来いとのことで、今日が出発日となった。

 

 アンデッドを倒し、これからようやく理想の窓際ライフが始まると思っていたのに、この仕打ち。雇われ人は辛いです……

 

 ちなみに、連絡にはアーティファクトが用いられている。巨大な水晶の板のようなものに相手の姿が映り、会話までできるのだ。連絡手段が馬とか竜なら、まだ時間稼ぎができたんだがね。

 

 だがすぐに来いと言われても、移動手段は限られている。そのおかげで移動に時間がかかるのがせめてもの救いだ。基本的には徒歩、馬、地竜の三択。天馬や飛竜というのもなくはないが、この砦にはいない。古代竜人族は転移魔法なんてものを使ったらしいけど、失われていてよかった。

 

 今回は、地竜が引く竜車での移動になる。地竜は普段から砦にいる移動用のやつで、名前はピーちゃん。幼体のころにピーピー鳴いていたのが由来らしいが、今ではその面影はない。ごつい四足歩行のドラゴンというか、トカゲというか、カメというか、そんな見た目の地竜だ。

 

 地竜での移動は、馬によるそれの半分くらいの時間で済む。本当は馬、もしくは徒歩でゆっくり行きたいが、砦に地竜がいることは本部も把握している。急げと言われていて馬で参上したら、処刑されてもおかしくない。

 

 ピーちゃんが引く竜車に乗り込もうかというとき、ダダダッと足音が聞こえてきた。誰か見送りに来てくれたのかもしれない。嬉しいじゃないか。

 

 振り返ると、こちらに向かってくるロックが見えた。なんだ、お前か。

 

 「副長官!かましてきてくだい!」

 

 俺のそばに来るなり、ロックはそう言った。

 

 「お、おう。任せとけ」

 

 思わずそう答えてしまったが、いったい何をかませばいいのか。

 

 「じゃ、そういうことで!」

 

 え、それだけ?あっさりしすぎじゃない?ロック以外、誰も来ないし。俺と砦のみんなは、あの日以来、鉄の絆で結ばれたんじゃなかったのか?

 

 「待て、ロック!他のやつらは?」

 

 「みんな仕事です!」

 

 「そんなことわかってるよ」

 

 「なんか、入国審査で引っかかった人がいるとかで、忙しいみたいです!」


 「そ、そうか」


 どうやらみんなはお取込み中らしい。忙しいなら仕方あるまい。というか、そうなるとお前は何でここにいるんだ、サボるなよ。はあ、鉄の絆なんて幻だったのかな……

 

 気づいたころには、ロックはいなくなっていた。薄情なやつめ。

 

 

 

 王都アストラ。ロウマンド王国建国以来、ずっとその首都機能を果たしている。昔はそうでもなかったらしいが、町は清潔で治安もいい。今の姿しか知らない俺からしたら、信じられないほど綺麗な街だ。

 

 あそこは観光地としても有名だ。世界中から人を受け入れている。中でもコロッセウムと呼ばれる闘技場は、対人・対魔物戦とも大盛況だ。俺も何度か足を運んだことがある。まあ、今回はそんな時間ないだろうけど。

 

 あとは、国にいくつかあるジーズ教の大聖堂の一つ、ステラ大聖堂がある。見た目は豪華絢爛。清貧を説くジーズ教徒らしからぬ建物だ。なんて批判していた人が、次の日にはジーズ教徒になっていたなんて噂があったりなかったりする。

 

 そういえば、ロウマンド王国の宗教色は薄いよな。圧倒的力を持った国に、もはや宗教はいらないということなのだろうか。我が国で宗教と言えばジーズ教だが、熱心な信徒は身の回りにはいなかった気がする。

 

 どれもこれも、つい最近まで身近にあったものだ。懐かしさのかけらもない。

 

 「まさか、こんなに早く帰ることになるなんてな」

 

 竜車の中で、ひとりごちる。聞こえていなかったのか、無視されたのか、御者は振り向くことすらない。まあ、反応を求めたわけじゃないからいいんだけどさ。かわいそうな俺を思って、慰めたりしてくれよ。

 

 いや、こいつは砦の兵、つまり軍人だ。本部に呼び出されることを、誉れ高いとか思っているタイプかもしれない。本部に呼び出されるてのはな、ほとんど死刑宣告なんだぞ!

 

 「きみ、名前はなんていうんだっけ?」

 

 少し探りを入れてみようと、話しかけてみる。というか、暇すぎるから普通に話したかったりもする。

 

 「はっ、はい!自分は、ソーン砦所属のアレク・ヴァルツァー隊員であります!」

 

 俺の副長官という肩書にビビっているのかもしれない。めちゃくちゃかしこまっている。そんなにかしこまらなくていいのにな。着任初日の挨拶で、かしこまらなくていいって言ったはずなんだが。

 

 「か、かしこまりました!」

 

 堅いなあ、こいつ。話していて疲れそうだ。こういうのは、本部に呼び出されるのを誉れ高いと思っているタイプに違いない。これだから田舎者は。にしても、ヴァルツァーなんて加盟には耳馴染みがない。砦周辺の出身なのだろうか?

 

 「アレクってどこ出身なの?」

 

 疑問をぶつけてみる。

 

 「北東部の出身であります!」

 

 「あー、旧ジャミ王国領ね」

 

 「ご明察の通りです!さすがは副長官、そのような小国のことまでご存じとは」

 

 まあ、国のことについては家庭教師にも教わったし、第一学園でも授業を受けたからな。ある程度のことは知っている。そうは言っても、旧ジャミ王国領では小麦がよく採れるとかそれくらいしか知らないけど。

 

 「じゃ、アレク。短い間かもしれないけど、よろしくな」

 

 「こ、こちらこそよろしくお願い申し上げます!」

 

 やっぱり堅いやつだ。

読んでくださってありがとうございました。

感想・批評等お待ちしております。

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