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閑話 国境警備隊初日

本来は物語の本筋を進めようと思ったのですが、この話を投稿するタイミングがなくなりそうなので、その前にこれを投稿します。閑話ではありますが、一応本筋に絡んでくる内容もありますので、ご容赦ください。あと、少し長めです。

 「本日付けで国境警備隊に異動となりました。エル・マラキアンです。一応、副長官という役職になります。ですが!そんなに畏まらないで、皆さん仲良くしてください!」

 

 自己紹介を終えた俺は、まばらな拍手によって迎えられた。ここは、俺の終の棲家になる。だからなるべく嫌悪感を与えないようにしたつもりなんだが、あんまり歓迎されてない?まあ、これから長い付き合いになるし、ゆっくり気長にやらせてもらうとしようか。




 今日から俺の職場になるソーン砦は、ロウマンド王国東側国境防衛の要である。俺はここの体制強化のために派遣された。


 なーんていうのは建前だ。体制強化が必要なはずもない。なぜなら、我がロウマンド王国は250年もの間、無敵なのだから。わざわざ攻めて来る国なんて、あるはずもない。


 では、なぜ俺はここへ来たのか。


 簡単だ。楽をするためだ!


 ここは、窓際部署と呼ばれている。要するに、仕事がないのだ。理由は上の通り。楽をしたい俺にぴったりの場所だ!


 とはいえ、設置されているのだから、全くその仕事がないわけではない。ただ、軍組織の一部だというのに、前線のように命を懸ける仕事がないのだ。

 

 前線。あそこは、地獄である。いくら我が国が最強だといっても、戦争で死者が出ないはずもない。前線では、ガンガン死者が出るのだ。特に、貴族はよく死ぬ。というか、死にに行く。一度、前線に行ったことがあるが、普通に知り合いが死んでいた。

 

 なぜ死にに行くのか。それは、家の格を保つためだ。貴族家の者が戦死すれば、国のためによく戦ったとして、国王に大変光栄な評価を受ける。これは貴族にとって、自らの力を保つ、また証明するのに最も簡単な方法だ。

 

 さらにこの豊かな国では、恵まれた者は、恵まれていない者に報いなければならないという思想が強い。そういう思想も、この伝統に繋がっている。つまり、国のために死ぬのは、貴族の責務だというのだ。本当にバカバカしい。

 

 ここに来るまで王宮の警備をしていたが、あそこにいては、いずれ前線送りになる。だから俺はここに来た。副長官という相応の地位を引っ提げて。自らの死を避けるため、隠居生活を送るために。

 

 

 

 今日から早速仕事がある。その仕事とは、周囲の環境を知ることも兼ねて、見回りだという。見回り、なんとも安全そうな名前をしてやがる。

 

 まずやってきたのは、砦から1キロメトルにある結界付近。この結界は、古代の遺物アーティファクトによって生み出されている。低位の魔物を退ける効果があるそうだ。


 見回りでは何をするかというと、結界で防げない高位の魔物が侵入した形跡がないかとか、死角に潜む侵入者がいないかとかを調べるそうな。

 

 俺のお供は、ロッキー・クールフォックス隊員。みんなからは、ロックと呼ばれているらしい。なんかバカそうな顔と声なんだけど、大丈夫かな。

 

 「到着ー!」

 

 およそ軍人の勤務中とは思えない、明るい声だ。うん、バカそうだけど楽しそうでいいね。

 

 「じゃあ、ここから結界に沿って見回りをしていくということかな?」

 

 「そっす!」

 

 あまり畏まるなとは言ったけど、なんか腹立つなこいつ。

 

 「では、君が先導してくれたまえ、ロック君」

 

 「了解っす!」

 

 彼は文章を使って会話することができないのかもしれない。

 

 砦の前に広がるのは基本的に平坦な草原だが、丘のようになっていて砦から死角になっている場所もある。ところどころ、そういうのを見ていく。が、何もない。さっきからこの繰り返しだ。やること自体は単調で、退屈だ。

 

 しかし、青い空に白い雲、黄金色がかり始めた草原は目に優しいし、晩秋の風が気持ちよい。これは、あれだな。散歩だ。見回りなんかじゃねえ。

 

 三キロメトルほどのお散歩コースを歩き終える。最高の気分だ。

 

 「じゃあ、もう一周行きますか!」

 

 ロックはそう言った。あ、マジか。それはちょっとしんどいかも。今まで王都にいて運動不足だし。

 

 俺の気持ちを無視して、ロックはずんずん歩いていく。しょうがないので、俺もついていく。

 

 結局、砦から結界までの1キロメトルを往復で二回、お散歩コース3キロメトルを二回。合計8キロメトルを歩いた。思ったより疲れた。だけど数日続けていれば、慣れるだろう。慣れるころには運動不足も解消されて、健康になっちゃうな。仕事をしながら、健康になれるし気分も晴れる。最高の仕事だ。


 初日の仕事を終え、俺は副長官室で寝ることにした。副長官って、自室あるんかい!最高なんだけど!命に関わらないというだけでいいと思っていたが、まさかここまでいい待遇だったとは。地上の楽園は、ここにあったんだ。

 

 翌朝。砦の朝は早い。しかし、見張り役と比べれば幾分マシだ。見張り役は、ローテーションを組んで24時間稼働しているのだ。が、俺はそれに組み込まれていない。なぜなら、副長官だから!必要なときに適宜入ればいいらしい。おいおいおい、こんなことあっていいの?

 

 夜襲なんかがあれば叩き起こされるそうだが、そんな事態は発生しない。つまり、俺は規則正しい生活をしていればいいだけだ。益々健康になっちゃうんですけど。

 

 

 

 さて、今日の仕事は入国審査だとか。検問みたいなやつだな。主に入ってくるのは、行商人と観光客くらいだ。

 

 「エルさん。まずは、私がやるのを見ていてくださいね!」

 

 こいつ、エルさんとか呼びやがったか?名前は確か、マリア・サンテレジアだ。上官は役職で呼べよ。まあ、かわいいから一回くらい許してやろう。

 

 お、早速入国希望者が来たようだ。どれどれ、こいつもバカそうだけど、仕事はできるのかな?

 

 「入国目的は何ですかー?」

 

 マリアは、ほわほわした声で聞く。けっこう強面の人だけど、大丈夫かしら。悪い人なんじゃないの?いざとなれば、上官である俺が守ってやらねば。

 

 「か、観光です……」

 

 ん?強面の反応がおかしい。顔が赤い。表所も固い。なんだ?やましいことがあるのかもしれない。要注意だ。

 

 「観光ですか、なるほど。どこに行くんですかー?」

 

 この強面の異常を察知したのか、質問で詰めていくマリア。いいぞ、仕事できるじゃん!

 

 「ちゅ、中央の大聖堂とか……」

 

 「いいですよねー、大聖堂!とってもきれいなのでおすすめですよ!あなたがジーズ教徒でなくとも、十分行く価値があります!」

 

 おいおい、何も聞き出せてねえぞ。それどころか、観光案内してるじゃねえか。相手は明らかに動揺している。行き先を誤魔化しているのかもしれない。

 

 「では、楽しんできてくださいね!」

 

 「は、はい!」

 

 そう言って、強面は俺たちの前を通過していく。え、行かせちゃっていいの?と思ったのも束の間――

 

 強面が振り返る。まずい、攻撃してくるつもりか!?

 

 「あの、お名前、なんていうんですか?」

 

 「マリアといいます!」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 何事もなく、強面は去っていった。一連のやり取りを、俺はポカンと見ていることしかできなかった。あの強面は、マリアに照れていただけだったのか……?

 

 「質問なんだが、もっといろいろなことを聞かなくていいのかね?」

 

 「あれ、言ってませんでしたっけ?」

 

 「なにを?聞いていないぞ、たぶん」

 

 「ここには、人の嘘を見抜くアーティファクトが置かれてるんですよ。だから、質問に答えてもらうだけでいいんです!」 

 

 あー、なんかあったな。砦のことを調べているとき、そんな情報を目にした気がする。そしてなぜか自慢気なマリア。お前がすごいわけではないのに。

 

 となると、最初に観光で来たという答えが本当だったんだから、行き先とか聞く必要なくないか?ただの世間話じゃねえか!なにしてんだよ!

 

 その後、入国希望者はほとんどなく、ただ立っているだけで仕事が終わったようなものだった。


 窓際最高!


読んでくださってありがとうございました。

感想・批評等お待ちしております。

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