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ソーン砦攻略作戦

読んでくださってありがとうございます。

 今回の作戦はシンプルなもので、まず大沼のアンデッドを覚醒させ、砦を襲撃させる。その後、混乱状態にある砦を抑えるというものだ。

 

 アンデッドは人間の歩兵一人とほぼ同戦力と考えていい。人間と比した場合の戦闘技術は劣るかもしれないが、体の耐久力は人間と同程度だし、疲れを知らず命を狩ることだけに集中するという点については人間よりも優れている。

 

 そしてアンデッドを覚醒させる方法についてだが、作戦ではアーティファクトを使用する。主に植物の成長を促進するために使われるアーティファクトなのだが、死体のアンデッド化を引き起こす効果があることを偶然にも発見した。


 死体がアンデッド化する理由は解明されておらず、自然現象、悪魔の仕業、この世への未練などといった様々な説がある。しかし、人為的に発生させられるという説は見たことも聞いたこともない。すなわち、万が一アンデッドが退けられるようなことがあっても、こちらの存在が気取られることはないということだ。


 また、こちらから連れていく兵はなるべく数を絞りたいと考えている。第一に、魔術師を封じた上で白兵戦を仕掛けることが前提であるから、近接戦に長けた我が国の兵たちなら少数で問題ないこと。第二に、ソーン砦までの距離を考えると、大規模な行軍は負担が大きいこと。第三に、奇襲のための隠密性を確保すること。大まかにこの三つが理由となる。

 

 

 

 作戦当日。私は砦から死角になる位置に小ぢんまりとした本陣を敷いた。この本陣にいる兵は、精鋭百人のみ。こちらからも砦の様子を窺い知ることはできないため、戦闘部隊とは別に偵察兵を置いている。

 

 「本当に、アンデッドなんているのですか?」

 

 隣にいる将軍に尋ねられる。血気盛んなシュガ族の中では冷静で合理的なよき将だ。

 

 「ああ。あの沼には、古代の戦争の死者が十万以上眠っている。間違いない」

 

 「軍師様がおっしゃられるなら、そうなのでしょうが」

 

 「まあ、信じがたいのはわかるがな」

 

 私が読んだあの歴史書にはそうあった。あれを書いたのは、間違いなく変態だ。褒め言葉としての変態だ。他にも著作を読んだが、どうやってあそこまでの情報を集めたのか、見当もつかない。

 

 もちろん疑わしい内容も多かったため、王に頼んで検証も行った。その結果、それらがすべて事実であったことが明らかとなっている。物証として、いくつかのアーティファクトまで手に入れた。アーティファクトが絡む内容は、これからも積極的に検証を行う計画ができたほどだ。

 

 アーティファクトは、かのロウマンド王国をもってしても再現できない古の代物である。今後、ロウマンド王国を本格的に攻めるときには、カギとなる存在だろう。

 

 「アンデッド、覚醒しました」

 

 偵察兵が告げる。本陣の兵たちが、おおっと声を上げる。私の発見通り、アーティファクトは上手く作用したようだ。これで作戦は完成したと言っても過言ではない。

 

 「報告ありがとう。アンデッドは、より多くの生者を狩るために砦へ向かうことだろう」

 

 「はい。確かに砦に向かっております」

 

 完全に作戦通り。柄にもなく笑みがこぼれてしまいそうだ。

 

 沼から砦までは、およそ八百メトル。アンデッドの足を考えると、到着まで二十五分ほどか。アンデッドに暴れてもらう時間も考慮すれば、これから三十分はゆったりと構えていていいだろう。

 

 アンデッド覚醒より、二十分が経った。そろそろ兵たちに声をかけておくとしよう。

 

 「諸君、今日は歴史的な日となる。建国以来、天下無敵だったあのロウマンド王国の牙城を崩す時が来たのだ!」

 

 兵たちの顔を見ると、やる気に満ちているのがわかる。言葉を続ける。

 

 「諸君らの名前は、歴史には残らないかもしれない。だが諸君らの働きは、我が国の繁栄という形で永久に残ることだろう」

 

 砦に捕捉されるのを避けるため、兵たちは小さく声を上げた。私にしては臭い言葉になってしまったが、兵たちは素直に受け取ってくれた。存外、私も興奮しているのかもしれない。

 

 偵察兵が一人戻って来た。魔術師が集まっているという報告は先ほど受けたが、何か動きがあったのだろか。果たして、どのような手を打ってきたのか。場合によっては、出撃をはやめる必要もあるかもしれない。

 

 「何やら、小さな火の玉のようなものがアンデッドの方を目指しているようです」

 

 「ん、火の玉?」

 

 おそらく火魔法だろう。しかし、そんな火の玉一つで十万のアンデッドを葬ることなどできまい。何か、私の知らない魔法か?

 

 「その火球から目を離すな。変化があれば、すぐに報告してくれ」

 

 「はっ」

 

 とりあえず、まだアンデッドに被害が出たり、こちらの存在が露呈したりしたわけではない。状況を注視しよう。

 

 それにしても、火の玉で何をするつもりなのか。私たちの存在に気づき、降参の合図でも出しているのか?そんな合図聞いたこともないが、仮に降参してきたとしても、もう私にアンデッドを止める術はない。

 

 その後も火の玉について考えていると、また偵察兵が戻って来た。顔は青ざめている。何かあったようだ。ただ、その何かが悪いものであるだろうことは想像がつく。

 

 「あ、アンデッドが……」

 

 声が震えている。次の言葉が出てこないようだ。実は悪いことなど起きておらず、アンデッドによって攻め込まれた砦の悲惨な様子を見て、気でも違えたのかもしれない。

 

 「アンデッドがどうした、早く言え」

 

 少し乱暴な言い方になってしまった。発言を促すには不適切だったと反省する。兵が委縮してしまっては本末転倒だからだ。

 

 「すまない、落ち着いてからでいい。状況を正確に伝えてくれ」

 

 このあと、偵察兵が言ったことに我が耳を疑った。

 

 「アンデッドが、燃えています」

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