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第94話 ホームレス、警戒される

―グレア帝国宰相府―


「以上が、ヴォルフスブルクの造船場の情報です。現在、急ピッチで海軍の増強が行われているようですが、我が国に匹敵する海軍を作るのには10年以上のスパンが必要だと思われます。その間にも我が国側は海軍を改良しますので、軍事的な優位性は揺るがないかと」


 私は、雇い主の宰相閣下にそう報告した。

 ここまでうまく潜入できるとは思わなかった。やはり、協力者はホンモノね。まさかあんな大物が味方してくれるとは……


 僥倖(ぎょうこう)


 宰相閣下は、温和そうな顔で私の報告を嬉しそうに聞いていた。


「海軍力で優位性を確保できているなら、まだヴォルフスブルクを抑えることができるだろうね。我が国は圧倒的な海軍力で海上封鎖をちらつかせれば勝利は間違いない」


「ええ、海軍力はまだぜい弱ですからね。いくら、あの閃光と世界最強の魔術師でも陸上から海上を攻撃することは難しいですから」


「よくやってくれた。どうだい、1杯くらい?」

 そう言うと宰相閣下は、机から陶器のビンを取り出してグラスに茶色い液体を注ぐ。


「ええ、任務のおかげで、素敵な男性からのお誘いを断ってしまったので……こちらのウィスキーはいただきますわ」


「彼の代わりになれるかな、僕で?」


「もちろんです。私がウィスキーを一緒に飲むのは、本当の強者だけ。美味しいです。とても甘くて、お花を飲んでいるように華やかな香り。さすがは、宰相閣下のお好きなお酒です」


「ああ、21年物だ。なかなか手に入らないから、こういう夜くらいしか飲まんよ。それで、噂のクニカズ中佐はどうだった?」


「完全にやられましたわ。私の想像のはるか上に生きている魔術師でした。発想力、魔術操作の正確性、発動スピード。まさに、伝説級の魔術師でしたね。ニコライ=ローザンブルク中将を撃破した実力は本物です。私も脱出路を用意していなかったら、間違いなく捕虜になっていたところです」


「それは困るな。キミがいなければ、今後の動きが難しくなる。ローザンブルク帝国がヴォルフスブルク包囲網から脱落したとなっては、あの国を止めるのは私たちの責任だからね」


「しかし、1対1ならクニカズ中佐に勝てる相手はいません。いかがいたしますか?」


「なに、たいていの英雄は味方に殺されるんだよ。嫉妬に狂った味方にね。彼には自滅して退場してもらえばいいんだよ。歴史は、彼を悲劇の英雄として讃えるだろう。英雄は悲劇的な最期の方がよく似合う」


「では、あちらの方は私のほうで進めていきますが……」


「ああ、よろしく頼む」

 ろうそくの炎がウィスキーに反射している。謀略の夜がふけていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さて、そろそろ謀略の出番ですね。 まずは後ろから撃ってくる宰相の処理をしないと。 頭のネジが何本か飛んでる妖精や女王といちゃこらしてる場合ではありませんね。 因みにここまで来たら、妖精…
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