第92話 ホームレス、女王陛下に報告する
―王族専用の別荘―
そして、女王陛下と合流した俺は先ほどのスパイの件を報告した。
「なるほど、さすがはグレア帝国の守護者と呼ばれる宰相ですね。まさか、我が国の港湾施設に直接スパイを送り込んでくるとは……クニカズ、本当にけがはないんですね。あなたは暗殺されかけたんですから、あまり無理をしないようにしてください」
「ありがとうございます。女王陛下、怪我などはしておりません。ご安心ください」
「よかった。あなたは、我が国の至宝です。そのような無理は今後は絶対にやめてください」
ホッとした女性の顔をすぐに切り替えて、威厳のある女王に戻るウィリー。
「はい! そして、女王陛下には少将のことは寛大に処理していただきたいと思います」
「一番の功労者の言葉は尊重します。少将はおとがめなしとはなりませんが、できる限り寛大な処分にするようにしましょう」
「ありがとうございます。そして、女王陛下もお気を付けください。政権の最高幹部に裏切り者がいる可能性も捨てきれません。外国勢力と手を結んで、クーデターや要人暗殺の凶行に及ぶ可能性だってあるのですから」
「ええ、忠臣のアドバイスは心にとめておきます。いつもありがとう、クニカズ」
「今からウィリーと呼んでいいのかな?」
「そうよ、ここからはプライベートタイム」
そう言って、彼女は俺にグラスを渡した。女王陛下のために用意されたフルーツジュースを分けてもらい、俺たちはベランダに用意された机で海を眺めならくつろぎタイムだ。
「乾杯!」
「乾杯!」
彼女方からグラスを俺に向けてきたので、ゆっくりと杯をぶつける。
「海を眺めながら飲むジュースは最高だな」
「そうね、近くにあなたがいるから私にとっては最高の時間よ」
「えっ!」
「もちろん、友人としてね。男女じゃないからね、勘違いしないでね。父上が亡くなってから、私は大人の世界でずっと独りぼっちだったのよ? 10代の何もわからない女の子がいきなり敵だらけの政治の世界に放り出されて何年も……やっと、自分の理解者であり、守ってくれる人が現れたのよ。嬉しくないわけがないでしょ」
彼女は海辺の日光を気持ちよく浴びながら、しっとり俺を見つめた。
年下の女の子のはずなのに、彼女の少しだけ疲れた目が、とても色っぽく見えてしまった。
こうして、ゆっくりと二人だけの時間は過ぎていった。
※
「そんなことをされて、好きにならないなんてありえないじゃない」
彼には聞こえないように私は小声でつぶやいた。身分をこれほど恨んだのは初めてかもしれない。




