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第90話 ホームレス、敵国のスパイとぶつかる

「ふふ、どんなにすごい魔術師でもさすがにガスまでは防げないでしょう? 眠ってしまえばこちらのものよ。眠っている人間を処理するのは造作もないわ」


 なるほど、敵意がないわけだぜ。だがな、俺には最強のダンボールの妖精がついている。

 彼女は不可能すら可能にする。


「それはどうかな、美人スパイさん?」


「えっ?」


 俺は敵が勝利を確信した瞬間に後ろに回り込んでスパイを拘束した。ダンボールをナイフ状にして、金髪女スパイの首元に突き付けた。


 結んでいた長い髪は格闘戦でほどけて、まるで糸のように美しく空を舞った。


「さあ、攻守逆転だ」


「うそ、あなたは催眠ガスにまかれているはず」


「残念ながら、あれは(おとり)だ」


 ガスの中からは、さっきまで俺に偽装していた人型ダンボールが現れる。ナターシャの加護を利用して、短い間なら自走できるようになっていた。


「さすがは、世界最強の魔術師ね」


「敵国のスパイ相手に、わざわざひとりで突撃してくるバカなんていないだろ」


「油断したわ。まさかそんな手段を使うなんて思わなかった」


「どうやら、俺だけが使えるものらしいな」


 女に余裕をもって笑っている。


「そうですわね。でも、そんな生やさしいものではないんでしょう? こんな強い魔力と索敵能力。見たこともないわ。神に近い何かの加護を受けているとしか考えられない」


「さあな」


 うすうすと感じてはいたが、やはりあの後輩の妖精は相当すごいみたいだな。


「そして、なぜあなたがその力を持っているのか。とても不思議ですわね」


「神は気まぐれなのかもしれないな」

 俺たちは笑い合う。謎の信頼感みたいなものができあがっていた。

 ストックホルム症候群みたいなものか。


「あなたとはとても気が合うけど、その意見だけは同意できないわ。だって、そうでしょう。"神はサイコロを振らない"のよ。この世界において、偶然なんてありえないの。私たちの出会いだって(ゲームマスター)から考えれば必然に違いない」


「まるで恋に落ちたようなセリフを言うね」


「否定はしないわ。宰相様以外で、こんなに知的な会話ができるなんて思わなかったもの。また、お会いできたら、今度は素敵なデートをしましょうね?」


「逃がすとでも?」


「ええ、優秀なスパイはどんな局面に陥っても逃げ道は確保しているものですよ。このクリスタルは瞬間移動が可能なのですよ。あまりにも高価なので、ここで使いたくはなかったんですけどね!」


 クリスタルは砕けて、女スパイは光のように消えていく。


「クニカズ中佐、またお会いできる時を楽しみにしておりますわ? ご壮健で」

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