第9話 ホームレス、砦を再建する
さて、ここに転生してから毎回絶体絶命なわけだが、今回は特にやばい。
いきなりゲーム序盤の難所を迎えた。
おそらく、今回の試練がうまくいかなければ、歴史イベントが発生し一気にバッドエンドに突入だ。
もしかしたら、守備隊長のゴーリキさんが死んでもダメかもしれない。
さらに、リセマラは不可能で失敗したら即終了。
大陸最強国家と正面から戦争をすれば、ヴォルフスブルクは1週間ももたないだろうし。
今回は、慎重にならなくてはいけない。
補給の関係で、敵の攻撃はだいたい1週間間隔らしい。だが、今の状態の砦なら簡単に崩壊するし、1発でも直撃弾をくらえば即終了だ。
前回の挑発が3日前らしいから、残された日数はあと4日か。
となると、はっきり言ってなおす余裕はない。
なにかしらの裏道を見つけなくてはいけないな。
これって完全に「墨俣一夜城」だよな。豊臣秀吉が出世の糸口になった極めて短期間での城を作ってしまった伝説。たしか、木を先に加工しておいて、船で運んで時間を短縮したんだっけ?
でも、この付近にそれができる川なんかないし……そもそも、これはどちらかと言えば西洋建築だもんな。木材使わないよね。床くらいかな?
俺、文系だし図面とかよくわからない……完全に専門外の注文だ。
そもそも、ホームレスになろうと思って、ダンボールを用意して寒さをしのげずに転生したくらいだもんな。
いや、待てよ。
ダンボール!!!!
そうか、これがある。
「(ターニャ、教えてくれ。ダンボールはお前の能力でいくらでも作り出せるんだよな?)」
『まぁ、そうですけど?』
「(それで、昨日の決闘みたいにダンボールの強度を上げる魔力は、どれくらい持つんだ?)」
『さすがに、24時間くらいですよ。半永久効果にするには、強度が足りないですからね』
「十分だ!! これならいけるぞ」
俺は勝利を宣言した。
俺の一夜城建設が始まった。
※
―ザルツ公国軍国境警備隊―
「隊長!! ヴォルフスブルク王国のアール砦に動きがありました」
「なに!? 先週の挑発で大きなダメージを与えたからな。もしかすると、ついにこちらに反撃する気になったのか? ならば、武器などが運び込まれているのか? こちらも守備陣形を整えなくてはな。グレア帝国が援軍に来るまで耐えきれば、こちらの勝ちだ」
「いえ、それが……」
「なんだ、はっきり言え」
「それが茶色い紙のようなものを壁に巻きつけはじめまして……」
「はぁ??」
「スパイが言うには、紙よりも少し厚い茶色い物体と……どうみても大砲に対処できるものではないと……もしかすると、何かの儀式でも始める可能性が」
「失笑ものだな。ついに神頼みか? ならば、チャンスだ。明日にはすべての準備が整う。一気に砦を崩壊させるぞ」
※
「大丈夫なのですか、クニカズ殿……こんな防備で……」
ゴーリキ隊長は心配そうだ。だからこそ、俺はあの名言を彼に贈る。
「大丈夫ですよ、問題ない!!」
砦の中には、あのダンボール特有の匂いが広がっている。
「ゴーリキ隊長。ご安心ください。この茶色い物体は、クニカズ様の作り出すマジックアイテムなのですよ。これには幾重にも強化魔力がかけられていて想像以上に丈夫です。我が剣技でも突破ができなかったくらいですから」
「なんと……アルフレッドの剣が通用しなかったんですか!?」
「はい。ダメージを与えることもできずに敗北しました。あそこまでの完敗は生まれて初めてでしたから……」
アルフレッドの話を聞いて、砦内の不穏な雰囲気は落ち着いていく。
やっぱりすごいな、こいつ。
そんな話をしている巨大な爆音が砦に響いた。ついに攻撃が始まったんだ!!
ターニャに聞いて、今回は魔力防御力を強化した。この世界の大砲は火薬ではなく魔力を応用しているので魔力無効化のコーティングを施している。
爆音だけは響くが、砦の内部に攻撃は一切影響を与えなかった。ダンボールが完全に攻撃をシャットアウトしていた。
「まさか!! あんな薄い壁ですべての攻撃を弾くのか!」
「いったいどれだけの魔力を込めているんだァ」
「なんという魔力ポテンシャル」
「怪物だ。すごすぎる!!」
「なんでこんなすごいマジックアイテムをあんなに量産できるんだ。どういう論理になっているのかさっぱりわからん」
※
―ザルツ公国軍国境警備隊―
「隊長ダメです。あの砦の紙のようなものを突破できません!!」
「なんだと!? なぜ、あんな吹けば飛ぶようなものを壊せないんだ!?」
「わかりません。マジックコーティングがほどこされている可能性も」
「そのような高価なものを貧乏なヴォルフスブルクが量産できるわけがないだろ!! バカなことをいうな」
「では、あれはいったい?」
「ええい、こうなったら大砲ではらちが明かない。突撃だ、私に続け!!」
ちなみに墨俣一夜城はフィクションの可能性が高いですw