第88話 ホームレス、港を視察する
そんなこんなで、俺の視察は続いている。
今回は、港湾施設がどれくらいの数の船を作ることができるのかやドックでどれだけの修理ができるのか、建造できる最大の船の大きさなどを確認する作業だ。
これでこちらの海軍力をどれくらい増強できるかがわかる。
世界最強の海軍国家であるグレア帝国とある程度、戦えるくらいには海軍力は増強しなくてはいけないからな。
戦争にならないのが一番だが、向こうの国には怪物がいるからな。
ルパート=オーラリア辺境伯。
グレア帝国宰相にして、戦略級魔術師。
前線指揮はあまり得意ではないが、サポートに回れば自軍を最高に強化する。
さらに、寿命が異常に長いことでも有名だった。
ゲーム世界ではシナリオ1からシナリオ5まで生きている。
ゲーム設定では討死しなければ、110歳まで生きる妖怪みたいな武将だ。
どこの黒衣の宰相だよ。
やってること、天海と変わらないからな!
有能な長生きとか敵にしたら恐ろしすぎる人材だよな。
徳川家康が天下統一をはたしたのも、戦国時代では長寿で健康だったのも大きいと言われているし。
「どうしたましたか、クニカズ中佐……難しいことを考えていらっしゃるのですか?」
俺が考え事をしていたら、皆が凍りついていた。
『やばいぞ、絶対に何かを考えていた』
『きっと将軍の更迭だ』
「いや、グレア帝国についての戦略を考えていただけですよ」
俺は場を落ち着かせるために正直に答えた。
『そっちか』
『やはり、彼はローザンブルクだけじゃなくて、グレアも打ち破るつもりだ』
『どれだけ深い戦略を考えているんだ』
『当たり前だろ。俺たちには考えもつかないくらい深い思考を張り巡らせているに決まっている』
「そうですか、ではこちらへ。造船所を見学してください!」
「あっ、その前に少しトイレに行ってきてもいいですか?」
「ああ、はい。どうぞ!」
そう言って俺は隊列を離れる。
ひとつの仮説を実証するために。
「おい、いつまであとをつけているんだ? バレバレだぞ?」
――――
用語解説
天海
徳川家康の側近として知られており、江戸幕府黎明期に大きな役割を果たした。
足利将軍家の血筋や明智光秀本人という俗説もあるが証拠はない。
江戸の設計にかかわったとされるが、そちらもはっきりとしない。かなり謎の多い人物。
金地院崇伝ともに「黒衣の宰相」と呼ばれる。
生年月日がはっきりしないため、実年齢は不明だが、少なくとも江戸時代に100歳以上だったと考えられている。
フィクションではよく明智光秀説が使われるが、おそらく別人だと考えられている。




