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第86話 ホームレス、後輩とイイ感じになる

「じゃあ、共犯者に乾杯!」

「乾杯!」


 俺たちはグラスをぶつけ合った。


「ところで、センパイ?」

「ん?」


「さっき、心の中で思っていたことは、実際に言ってくれた方が嬉しいですよ?」

「うっ……」


「センパイはごまかしたかったみたいですけどね。私達、心の中でつながっているんで隠しても無駄ですよ」


「恥ずかしいから知らぬふりをしてくれると助かる」


「でもね、センパイ? 心が繋がっているとわかっているからこそ、そんなふうにふいに言われるとどうしようもなく嬉しくなっちゃうのが乙女心なんですよ。隠すこともせずにポロっと気持ちが表に出ちゃう。それは間違いなく本音で、私に向けられた純粋な好意。嬉しくないわけがないじゃないですか」


 俺は、恥ずかしさとウィスキーのアルコールで体温が上がっていくのを感じた。やばい、心が燃えるように熱い。


「そうやって、心がかき乱されているのがわかるのは、嬉しいな。センパイ、実は私に気があるんでしょ?」


「さあな」


「ごまかすところが余計に怪しい。まあ、心をのぞけばわかるんですけどね? でも、実際のあなたの気持ちは、あなたの口から聞きたいから、そこは見ないようにしますよ」


 どんな風な原理になっているんだよ、その能力……


「でもね、センパイ。私が器が大きい女だからって、女王様や貴族の令嬢に甘えられて鼻の下を伸ばしているのはダメですからね。そんなことばかりしていると、私が家出しちゃいますよ?」


「気をつけるよ」


「はい、気をつけてくださいね。旅行だってあるみたいだし?」


「ぐぬ」

 やはりばれていたか。いや、話すつもりだったよ。ただ、タイミングを逃しただけだし。


「大丈夫ですよ。言い訳しなくてもわかってますから!」


「……」

 くそ、完全に尻に敷かれているだろ、これ。


「さてと、せっかくイイ雰囲気になったことだし、既成事実くらい作っちゃいますか? 酒の力でいろいろ超えちゃいましょうよ?」


「なんだよ、それ! さすがにダメだって、近い、近い、近い!!」」

 妖精は笑いながら、俺のくちびるに近づいた。


「センパイ……冗談ですよ?」

 そう言って人差し指で彼女は俺のくちびるを叩いた。


「完全にからかわれた。俺の純情が……」


「何言ってるんですか。30歳のおじさんが?」


「それは言ってはいけないやつだろ」


「じゃあ、ヘタレ野郎の先輩は放っておきますかね。リンゴのコンポート作っておいたんで、持ってきますね」

 そう言って、彼女は少しだけ席を外した。


『(まぁ、ヘタレなのは私もなんだけどね)』

 妖精は小声でそうつぶやいていた。

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