第80話 ホームレス、同棲を始める?
ということで、俺の新しい生活は始まった。
軍事参議官室長の朝は早い。
軍が用意してくれた官舎で目を覚ますとターニャが朝食を用意してくれていた。
ハムとピクルスと黒パン。
どうやら官舎生活に慣れて、デスクワーク中心になったので、彼女は暇すぎるのか市場に遊びに行き食材まで用意してくれているようだ。今あるピクルスは既製品だけど、彼女が作ってくれたピクルスも地下ボックスに眠っているらしい。
「酢漬けのピクルスは今晩が食べごろですよ、センパイ!! 今日の夜は2人でピクルスとソーセージをおつまみにワインでも飲みましょうよ!!」
とか新妻みたいなセリフを言ってくる。
ちょっと、ドキドキするよな。実際さ、妖精と言われるだけあってターニャは普通に美少女だし……
そもそも、料理を含む家事スキルは高いし、魔力の加護は絶大。ちょっと独占欲が強いところはあるけど、それを補っても余りあるほどレベルが高い。
そんな女の子と同棲みたいなことをしていて俺はいいのだろうか?
いや、むしろこれは同棲なのか!?
「何をバカなことを言っているんですか?」
やばい、心が繋がっているのを忘れていた。
「だよな、同棲じゃないよな!!」
俺は慌てて妄想を否定する。
「いや、それがバカなことですよ。年頃の男女が同じ部屋で生活を共にして、私が作った朝食を先輩が美味しそうに食べているなんて、どこをどう見ても同棲中のカップルですよ? 当たり前のことを言わせないでください」
「そうだよな、やっぱりこれカップルだよな。それも同棲中の!!」
「むしろ同棲中のカップルよりもきずなが強いと言っても過言ではありませんよ。だって、魂は繋がっているわけですからね。ソウルメイトでもあります」
なんかちょっとヤンデレ気味な気もするが気にしてはいけないよな。
「あっ、センパイ!! もうそろそろ行かないと遅刻しますよ!」
なんかありきたりな展開になってしまったが、確かにそろそろ出ないとまずい。
「おう、じゃあ行ってくるよ」
「行ってきますのキスくらいします?」
「ぐほっ」
いきなりの爆弾発言に飲んでいた水を噴き出しかける。
「冗談ですよ、まだ、ね?」
そう言うと妖精は、その場から恥ずかしそうに消えてしまった。
俺と同化したのか、暇だから街に散歩に行ったのかはわからないけど……
「ん?」
そう言えばさっき、まだとか言ってたよな。ということは将来的には可能性があるのか!?
いや、考えないようにしよう。それがお互いのためだ。
※
「はぁ、なんで肝心なところで弱気になっちゃうんだろう、私って……」




