第8話 ホームレス、歴史イベントに苦しめられる
俺はボロボロの砦の現状に絶望して、ぼう然としていた。
でも、妙だな。どうして、こんなにボロボロになっているんだ? 国境付近の最前線の重要拠点だろうに……
「なぁ、アルフレッド? どうしてこんなに砦がボロボロなんだ? 自然災害でもあったのか?」
大主教様はそんなことを言っていなかったけどな。
「ああ、これは国境付近の小競り合いに巻き込まれたからですよ」
「小競り合い?」
「そうです。ザルツ公国の国境守備隊が、グレア帝国との同盟関係を盾に私たちを挑発しているんですよ。最初は、国境の外から石を投げてくるくらいでしたが……そのうちどんどん過激化していき……最近では、大砲を撃ってくるようになりまして……それでこんな感じです」
「大砲!?」
いや、それ完全に戦争じゃん。もう宣戦布告寸前だろ。
「屈辱的ですが、我々は反撃できないのです。そうすれば、向こうはそれを口実に我が国を併合しようと動き始めますから……」
「なんだよ、それ。あまりにも理不尽すぎるんだろ!! あれ、待てよ?」
そういえば、マジックオブアイアン5ではこんな歴史イベントがあったよな。
※
アール砦の悲劇
王国歴1643年。ヴォルフスブルク王国のアール砦は、卑怯なザルツ公国軍の奇襲を受けて崩壊した。砦の守備隊は玉砕し国境は緊張感に満ちている。
女王陛下、いかがいたしますか?
①よろしい、ならば戦争だ
②ここは耐えるしかない
※
これが、プレイヤー側の一番最初の絶望ポイント。最初にして詰みポイント。
通称"どっちを選んでも死ぬ"2択。
仮に①「よろしい、ならば戦争だ」を選んだ場合は、最強国家グレア帝国に蹂躙されて即ゲーム―オーバー。
②を選んで「屈辱に耐え」ても、国内不満度は上昇し宰相率いる軍事クーデターが発生し優秀な女王陛下が死亡したうえでグレア帝国に宣戦布告する最悪の選択肢になる。
つまり、アール砦を崩壊させてしまえば、「ゲームはそこで終わりだよ、クニカズ君」になって終わる。このイベントの回避方法は、発生確率50パーセントのことを利用したリセマラしかない。
そう、このイベントは発生した瞬間に終わる時限爆弾。だから、発生しない世界線を見つけるしかないんだ。セーブ&ロードというタイムリープマシーンを使って……
まあ、確率50パーセントだからそこまできつくないんだけどさ。
「(なぁ、ターニャいるんだろ? お前の能力を使えば時間逆行とかできるんだよな?)」
ここはゲーム世界だと俺は知っている。
『なに寝ぼけたこと言っているんですか? できるわけないでしょ、センパイ』
「えっ!?」
『ここはゲームの世界ですけど、遊びじゃないんですよ?』
「じゃあ、イベントが発生したら……」
「よろしい、ならば戦争です! センパイ!!」
「……」
絶句してしまった。
『大丈夫ですよ。この砦を先輩の力で最強の要塞にすればいいんです!!』
うん、無理。
俺の絶望感がマックスに達した時、砦からひとりの老兵が出てきた。
「アルフレッド、そしてクニカズ殿、よく来てくれた。私はアール砦の守備隊長・ゴーリキと申します。この度は砦の防備のための加勢、痛み入ります」
まさか、この人はヴォルフスブルクでよくネタキャラにされるゴーリキじゃないか!!
アール砦の悲劇が発生すれば、問答無用で討死する武将キャラだ。
能力は平凡で、他国なら2軍・3軍くらいの能力値だが……
ヴォルフスブルクでは、アルフレッド・女王陛下の次に戦闘能力が高い。
だからこそ、彼が死ぬイベントは、全プレイヤーが泣く。
「俺のゴーリキーが死んでしまった」と言えば、全国1万人のマジックオブアイアン5ファンは号泣するらしい。ちなみに、あえて誤字するのが、マジックオブアイアン5のお約束だ。
たった今から俺の生きる目的は、この人を生かすことになった。絶対に負けられない戦いがはじまる。
―――
登場人物紹介
ゴーリキ(アール砦の守備隊長)
長くヴォルフスブルクに仕える軍人。能力は平凡で、国家への忠誠だけが異常に高い。
他国ではめったに使われることがない能力値だが、軍人の人材が枯渇しているヴォルフスブルクでは貴重な戦闘要員。アール砦の悲劇という歴史イベントが発生すると問答無用で死ぬ。散り際や貴重な軍人枠、そして微妙に使いにくい能力もあってネットの人気はなぜか高い。
知略:38
武闘:51
魔力:11
政治・25