第76話 ホームレス、老人と話し合う
「それは答えなくてはいけない質問ですか?」
下手に自分の立場を明かすべきではないと直感した。
だからこそ、はぐらかすような方向へと持っていく。
「いや、強制ではないよ。あくまで答えることができる範囲で構わない」
そう言って老人は笑いながら茶を飲む。
「では、ノーコメントでお願いします。俺の立場を簡単に明かすほど、ふたりの関係は進んでいないと思うので」
「それは残念じゃな」
今度は俺が茶を飲んだ。
「では、酒でも飲みながら話をしようか。そのほうが仲良くなれるチャンスじゃろう? わしは、ヴォルフスブルクの酒である"ハーブ酒"をいただこうか。気分を変えたいからね。きみはどうする? わしが奢ろう」
ハーブ酒は、ヴォルフスブルク名産の酒だ。健康効果があるとされて、薬のような役割を果たしているらしい。
薬草入りワインみたいなものだな。
あえて、敵国だった地の酒を飲むというのはなにかしらのメッセージみたいなものだろう。
こちらは試されていると考えた方がいい。
ならば……
俺の世界で一番有名な酒の頼み方をしてやる。
「では、俺はマティーニを。ジンではなく、ウォッカで。オリーブではなくレモンを添えて……」
どうだ、ニートをなめるなよ。時間が余りまくっていたから、映画は大量に見たんだ。
「ふむ、おもしろいな、きみは……。本来ならジンとハーブ入りのワインで作るマティーニを、我が国名産のウォッカで作れとは?」
よかった。この世界でもマティーニがあったか。
イチかバチかだったがうまく伝わったようだ。たしか、マティーニは20世紀に誕生したカクテルのはずだが? この世界の創造主はどうやら相当酒好きのようだ。
「ええ、陛下が我が国に配慮してくださったので……こちらもそれに応えようかと?」
それで度数が高い酒を昼間から飲まなくてはいけなくなったんだけどな!?
※
後世の歴史家は語る。
「ワル―シャ講和会議の直後、ローザンブルクのロバート帝とヴォルフスブルクの女王の懐刀とされたクニカズ・ヤマダ中佐の会談はおこなわれた。これがのちに言う"賢者会議"である。この会議はいくつもの絵画や小説で描かれており、歴史の転換点として今なお有名である。皇帝はヴォルフスブルク名産の「ハーブ入りワイン」をオーダーした。オーダーに両国間の安定についての願いをこめた皇帝に対して、クニカズ中佐は返礼としてローザンブルク名産の「ウォッカ」と自国の名産品「ハーブワイン」のカクテルを注文し両国の融和の意思を示したとされる。また、クニカズ中佐は『このカクテルにはマッシリア王国名産のレモンを添えるように』と注文した。これは暗に今後の国際秩序について一石を投じるメッセージを残したものだと考えられる。このようなエピソードから前半生に謎が多いクニカズ将軍だが、相応の文化人かつ教養豊かな人物だったと推測される。友人たちは、彼は特に小説と演劇を好み、即興で人を楽しませる物語を作るのがうまかったと証言している」




