第75話 ホームレス和平を結ぶ
講和会議の結果は、ヴォルフスブルク王国が完全に有利な条件で確定した。
・今回の戦争は、ローザンブルク軍団による暴走に端を発したものだと認める。
・戦後賠償に関しては、要塞の修理費用とその他を勘案して2億1000ゴールドとする。
・両国間で問題となっていたヴォルフス街道の領有権は、ヴォルフスブルク王国のもとする。この問題は不可逆的なものであると決定する。
・ローザンブルク帝国とヴォルフスブルク王国は10年間の不可侵条約を締結する。
この4つの条件で講和は成立した。
これで全てが終わった。ヴォルフスブルクが大陸の列強国を倒した瞬間だ。
すべての非をローザンブルク帝国が認めて、国家予算の半分に近い額の賠償金がヴォルフスブルクに入る。さらに、今まで火種になっていた領土問題もすべて解決されて、不可侵条約によって東側の安全まで確保できた。完璧だ。
さらに不可侵条約が締結されたことで、ヴォルフスブルク王国包囲網が瓦解を決定づけるだろう。同盟の盟主であるローザンブルクが戦争をしないことを明言したんだからな。
これで、周辺諸国がすべて敵という最悪の状態は回避した。
ヴォルフスブルクは大国への道を突き進む。
賠償金による国家の近代化。
旧秩序の打破と新国際秩序の形成。
大国へと進むべき道は少しずつ形成されてきた。あとはもっと頑張るだけだな。
「やりましたね、クニカズ?」
講和文章へのサインが終わって女王陛下は俺をねぎらうように語り掛けてくれる。
「ここからですよ、陛下!」
アルフレッドも俺の肩に手を置いて力強くうなずく。
「今回の件はクニカズの功が一番大きいからな。新しい戦略を思いつき、歴戦の政治家のブラフも冷静に状況分析することで見破った。間違いなくクニカズは救国の英雄だ。これからもよろしく頼む」
やっと、俺は居場所を見つけることができた。
死ぬ気で頑張ってやっと、やっとだ。
ここで俺はみんなを幸せにする。
そう決意した瞬間……
俺はローザンブルク皇帝に話しかけられた。
「クニカズ中佐といったかな? この老いぼれに少しだけ時間をくれないか? なに、暗殺などは考えていない。それができるならニコライがお前を殺しているはずだ。わしのような老いぼれが勝てるわけがないだろう? お茶でも飲みながら今後の世界の話をしたい」
女王陛下はこくんとうなずいた。
「わかりました。陛下、よろしくお願いします」
そして、俺はさっきまで帝国の大将だった人間と話し合うために中庭にでた。
美しい庭園の中心部に、2人分のティーカップが置かれている。ずいぶんと雅なお茶会だ。
「さて、クニカズ君。茶を飲む前に念のため聞いておこう。キミは異世界から来た転生者だね?」




