第73話 ホームレス、女王に甘えられる
「……という流れで行こうと思います」
俺たちは、夕食の時間まで一緒に過ごして、作戦会議を続けていた。
今日はローザンブルク料理だ。
クジャクのソテー、赤かぶのスープ、野菜とひき肉をパン生地に包んで焼いたもの、野菜サラダ。
贅沢な食事だ。要塞攻防戦中はずっとジャガイモ生活だったし……
ウィリーが俺に気を使って、格式ばった食事にしないようにしてくれたようだ。ありがたいぜ。
「私もこういう飾らない食事の方が好きなのよね。王宮では食事まで儀礼的で肩が凝ってしまうもの」
そう言いながら、赤いスープを彼女は上品に飲んでいく。女王陛下は、食事の仕草すらも気品が漂うな。
「やっぱり、ウィリーは笑っている時が一番だな」
「えっ!?」
「さっきの講和会議の時はずっと神経を使っていたのが分かるからさ。友達として少し心配していたんだよ。たぶん、俺くらいしか対等にしゃべることができる人いないだろう。俺の前では、肩の力を抜いておしゃべりしようぜ」
「もうそうやって……リーニャにだって、ちょっかいをかけているの聞いているんですからねぇ?」
なんだかごにょごにょ言っている。
「えっ、なんだって?」
「なんでもないですよ」
美少女は政治家のように鋼鉄の笑顔で俺を威圧した。
「いや、絶対今なんか言ってたよね?」
「なんでもないですよ!!」
彼女は力強く断言した。これ以上の質問は無用だと笑顔が言っている。
「そっか……」
俺は彼女の笑顔に圧倒されて口をつぐむことしかできなかった。
※
食事も終わり、ローザンブルクの伝統的なデザートが運ばれてきた。
白くてとろとろの酸味のある乳製品。
「ヨーグルトだ!!」
一口食べただけで、それがなじみのあるものだと分かった。
「クニカズの世界にもあるデザート?」
「おう! もともとは外国の料理だったんだけどな。今では朝食の定番になってる料理だ」
「酸っぱいけど、口直しにちょうどいいですよね」
「そうだ、ちょっとした工夫で美味しくなる食べ方を教えてやるよ」
「ちょっとした工夫?」
俺はヨーグルトの容器に魔力を伝える。
ヨーグルトを氷魔力で、シャーベット状にしていった。
軽くミントを添えて、本当は砂糖がいいんだがジャムをのせた。
「どうぞ? ヨーグルトのシャーベットだ」
「冷たくて気持ちいいわ」
「酸味も冷やしたことで和らいで、最高だよ」
「すごいわ。こんな工夫考えたこともなかった」
「まあ、俺の世界では結構有名だったんだけどな」
「クニカズの世界は、魅力的なものにあふれているのね? どんな王宮料理や世界の秘宝よりもおもしろいわ」
俺たちは明日の地獄に備えて、一緒に英気を養った。




