第72話 ホームレス、女王陛下と密会する
俺はそのまま女王陛下の部屋へと誘われた。大学の貴賓室をそのまま部屋にしているようだな。
急ごしらえとはいえ、かなり豪華な控室だった。
「クニカズ、お疲れ様……困ったわね、まさか皇帝があんな理屈で責任逃れをしてくるなんて思わなかったわ」
女王陛下は疲れたような顔になっていた。だよな、まだ10代の若者があんなタヌキみたいな政治家と渡り合わないといけないんだ。ストレスだってすごいだろう。
「でも頑張っていましたよ、陛下」
「陛下?」
俺が何気なく言った言葉に女王陛下は少しだけピクリと震えた。
そうか、ここは彼女にとってはプライベート空間なのか。
なら……
「じゃありませんでしたね、ウィリー?」
俺がそう言うと彼女はほっとしたように笑い首をかしげる。
「ついでに敬語もやめてくれると助かるわ。今の私たちは臣下じゃなくて、友人関係よ?」
「わかった。お疲れ様、ウィリー」
「うん、ありがとう」
彼女は俺のためにお茶を淹れてくれた。女王陛下からお茶を淹れてもらうなんて光栄すぎるな。
「ここにあなたを呼んだのは他でもないわ。どうやって、戦争に勝利するか一緒に考えて欲しいの」
「もちろんだよ。ウィリーはさっきの皇帝の発言をどう読む?」
※
「ふむ。だが、すでに爆発が発生した場所は戦闘によって荒らされている。これでは中立的な捜査も難しく事実究明は絶望的だろう」
「当たり前だ。今回の戦争はあくまで自衛戦争であり、こちらはそちらが仕掛けてきたから戦ったまでだ。それに、諸君たちの考えと私の説明。国際社会がどちらを信用するのかは自明だろう?」
※
「私たちに暗にこのまま戦争を続けるつもりなら、ヴォルフスブルク包囲網を使って、私たちを滅ぼすと脅しているのでしょうね」
「さすがに周辺諸国を敵に回すのは厳しいか?」
「ええ。兵力の絶対数が足りません。だから、皇帝の言葉が正しければ、逆に追い詰められているのは私たちです」
「だが、ブラフの可能性が高いと俺は思っているぞ」
「その根拠は?」
女王陛下は前のめりになって俺に向かう。ちょっとだけ顔が近いぞ。長いまつげと整った顔。政治家なのに、甘いにおいもする。ちょっとドキドキしてしまうな。
「まず、今回の敗戦で周辺諸国に与えた衝撃の度合いだ。大陸最強国家のローザンブルクが俺たちに敗北したとなれば、小国たちは自分たちまで戦争に参加するのは損だと考えるはずだぜ。それも他国は、俺たちがどうやって空から攻撃をしてきているのかわからない。そんな未知の状況で、新兵器を持っている可能性が高いヴォルフスブルクを相手にはしたくないはずだ」
「なるほど」
「それに周辺諸国は念のため防備を固めているようだが、物資の流通などを考えれば本気で動いているとは思えない。そもそも、参戦するなら、ハ―ブルク要塞攻防戦付近で、ヴォルフスブルクに侵入していたほうが理にかなっている。ここから、俺は皇帝の発言はブラフだと判断した」
ウィリーはうんうんと頷いて自分の中で結論を出したようだ。
「ありがとう、クニカズ。あなたのおかげで、私も結論を導き出せそうよ!」




