第7話 ホームレス、無茶振りされる
アルフレッドに勝利してからは、どんちゃん騒ぎだった。
アルフレッドと観戦していた兵士たちからは、まるでサッカーで決勝点を取ったかのようにもみくちゃにされた。
なんでも、アルフレッドは王国最強の兵士だったらしい。いや、完全に殺しに来ているな。あの宰相。
そのまま兵士たちと一緒に酒場に連れ出されて、ワインとエールを浴びるように飲んだ。
ヴォルフスブルクの料理は、前世世界的にドイツ料理に近い。社会人時代に先輩にビアガーデンに連れ出されて、ジャガイモとソーセージ、キャベツの漬物を食べさせてもらったな。寒冷な土地だから、保存食が発展しているらしい。しょっぱい料理が酒とよく合う。
今日は、前菜がポテトサラダ。おつまみが、辛いソーセージ。メインディッシュが「アイスバインとキャベツの漬物」だ。
アイスバインは、豚肉の塩漬けを香味野菜と香辛料で煮込む肉料理だ。
なんでも、こっちでは16歳から成人らしい。俺がこっちだと何歳かわからないけど、まあ中身はおっさんだから大丈夫だろう。
「じゃあ、行きましょうか! クニカズ様!!」
飲み会の後に泥酔状態の俺にアルフレッドはそう言った。その後はよく覚えていない。二次会のお誘いだと思って、「おう、どんどん行こう」と言ったことだけは覚えているんだが……
その後の記憶はブラックアウトだ。
※
夢を見た。その夢の中で、俺は「マジックオブアイアン5」のヴォルフスブルクプレイをしていた。
シナリオ1でヴォルフスブルクを選ぶこと自体、縛りプレイみたいなもので、俺は滅亡回数100回を超えていたはずだ。
「マジックオブアイアン5」の世界観は、魔力を使う以外なら16~17世紀の文明に近い。魔力の力で異常に発達している分野もあるが……
きっと、ヴォルフスブルクのモデルは「神聖ローマ帝国」崩壊後のドイツだろうな。近隣は小国だらけで、四方八方を大国に囲まれているのはそっくりだ。
宗教対立と諸外国からの軍事介入で、神聖ローマ帝国は300以上の領邦と自由都市に分裂してしまい統一までにかなりの時間がかかった。ドイツが2度の世界大戦を挑まなくてはいけなくなったのも統一の遅れが遠因だ。
ヴォルフスブルクには、計り知れない潜在能力はある。周辺諸国をすべて併合できれば、大国すら勝てなくなるだろう。だが、統一ができないんだ。
下手に動けば、大国がすぐに軍事介入してきて滅ぼされる。生き残るためには、綱渡り的な外交と短期決戦で隣国に完勝しなくてはいけない。少しでも長引けばゲームオーバー。
「無理ゲーすぎんだろ!!」
俺はマウスを投げ捨てて、ベッドにもぐりこんで夢の中でもふて寝する。
結局、俺は3年生き残ることしかできなかった。
夢はそこで終わる。
※
「起きてください、クニカズ様!!」
アルフレッドの声が聞こえた。
いつのまにか馬車に揺られていた。なんだよ、二日酔いで気持ち悪いから寝かせてくれよ~
「もうすぐ、アール砦ですよ! 父上の試練がはじまりますから……」
宰相の試練!?
「聞いてないぞ!?」
「昨日の宴会中に話したではありませんか! アール砦を1週間以内に修復しないといけません。そうしないと、ザルツ公国がチャンスとばかりに侵攻してくるかもしれません。ザルツ公国は、大国グレア帝国と同盟を結んでいますから、砦の守りを固めないと一瞬で併合されますぞ。救世主の力を見せてくだされ!」
馬車の進行方向には、なぜかボロボロの砦が見えてきた。なんだよ、あれ!?
まるで、大砲に撃ち抜かれたかのように壁がボロボロで……
砦というよりも物置みたいだ。どうして、こうなった!?
「この試練を乗り越えなくては、我々は破滅するだけです。頑張りましょう」
なんで、アルフレッドはこんな絶望的な状況でこんなに楽天的なんだよ。
っていうか俺、建築とかよくわかんないんだけど。
風よけもうまくできずに橋の下で凍死しかけたし!!
やばい、グレア帝国はシナリオ1では大陸最強国家だ。勝てるわけがない!!
どうすればいいんだ……
「いやだあぁぁぁぁああああああ」
―――
用語解説
マジックオブアイアン5
海外メーカーが作った。歴史シミュレーションゲーム。科学ではなく魔力が発展した世界で繰り広げられるシミュレーションゲーム。難易度はかなり高くシンプルなゲーム性のために、Iも強い。
各種歴史イベントも設定されており、プレイヤー側を苦しめる。「各種歴史イベント」はファン曰く、「歴史の修正力」と揶揄されており、弱小国家を特に苦しめる。海外歴史シミュレーションゲームなので、プレイヤー側の改造を推奨しており、自分で歴史イベントを作ったりできるカスタム性の高さのためコアな人気を誇る。
ゲーム世界は、現実世界的にだいたい16~18世紀くらいの技術水準。