第64話 ホームレス、最強の将軍と激突する
ニコライ=ローザンブルク……
「マジックオブアイアン5」最強の武将だ。魔力・指揮・政治・謀略。すべての分野で才能を発揮した傑物。
わかりやすく言えば、あのゲーム世界における武田信玄だ。
人間が操作すればほとんど敗北はなくなり、敵に回れば最強の悪夢になる。特にヴォルフスブルク側を操作している時にこの男が出てくると絶望を味わうことになる。
ある程度戦えるのがアルフレッドしかいないし、アルフレッドですら勝ち目が薄い。
他の武将たちが束になってかかっても、一瞬にして溶かされる。
まさに怪物だ。
それがこちらの補給基地まで移動していたか。
さすがに防衛は間に合わなかったがこちらに一矢報いるつもりか。
だが、もう戦う意味はない。
「みんなすぐに撤退だ。いくら最強の名将でも空を飛ぶことはできない。俺は時間を稼ぐ!」
下手に魔導士戦力を浪費したくはない。落下した2人もできる限り助けたいが……
ニコライの攻撃はおそらく魔力を込めた矢だ。ならば、このダンボールの翼で防ぐことはできる。
部下に向かって正確無比に矢が飛んでいく。
「これ以上はやらせるかよ!」
俺のダンボールの翼は、その魔力矢をはじき返した。
「ほう?」
これがニコライの声か。
飛んできた方角から考えると奴がいるのは兵庁舎の屋上。ならば、兵庁舎ごと吹き飛ばせばいい。
ここでゲーム中最強クラスの武将を撃破できれば、最高だ。もちろん味方になって欲しいが、さすがにゲームほど甘くないだろう。
「くらえ!」
庁舎に向かって、俺は火球を投げつける。これで庁舎もろとも最強の男は消えるはず。
だが……
火球は真っ二つに斬られてしまった。庁舎にたどり着く寸前に……
まさか、ここまでとは……
『センパイ、危ない!!』
火球を二つにした斬撃が俺に襲いかかる。火球を相殺してなおもこの威力を維持できるだと!?
俺の周囲を浮遊していたダンボールが、ターニャの意思で俺を守った。
ダンボールは金属音のようなものをたてて斬撃から俺を守ってくれる。
助かったぜ、ターニャ。
「やはり、お前が異界から来た英雄だな。ここで始末せねば、我が帝国に災いをもたらすだろう」
すごい魔力のプレッシャーだ。
まさか……
「ならば、ここで消さねばなるまい。わが命に代えてでも、お主をここで排除する」
庁舎の上から強力な跳躍を見せたニコライは、空中にいる俺に肉薄しとらえた。
「嘘だろ!?」
俺はとっさにダンボールの翼で自分の体を守る。
魔力と剣技が空中で激しくぶつかり合った。
「やっと会えたな、異界の英雄!!」
こちらの世界の英雄は静かに笑った。




