第61話 ホームレス、敵国の将軍を驚かす
―ニコライ将軍陣営―
野営用のテントで目が覚めた。
それはいつもの朝だった。
補給も順調に進んでいると聞いている。もう数日で総攻撃をかけることができるだろう。ヴォルフスブルクの要塞も、前回の総攻撃で限界を露呈していた。たしかに、あの弾幕防御には驚いたが、連発するには時間の制限があると思われる。
つまり、防御力を上回る飽和攻撃をおこなえば、あの難攻不落の要塞も陥落できる。
さらに、兵数、物量はこちらの方が有利だ。向こうは要塞に籠もることしかできない。
「閣下。後方の補給基地から連絡が……」
副官が急いで俺のテントにやってくる。
「ついに、第二回総攻撃の準備ができたか?」
「いえ、それが……」
副官の様子を見て、それが朗報ではないことに気づかされる。
まさか、後方で何かあったのか? どこの州が反乱でも起こしたか!?
「なにがあった。早くいってくれ」
「では、申し上げます。ラトウル補給基地とエストール補給基地の2か所が昨夜、敵の強襲を受けました」
「なんだと!? 敵のスパイによる破壊工作か? 被害は……」
「被害は、壊滅的です。こちらに運び込まれるはずだった弾薬は、ほとんどが炎上。補給基地の護衛にも多くの死傷者が……」
「なぜだ!? ヴォルフスブルクのスパイによる特攻だとしても、そこまで被害が出るわけが……」
「それが突如、夜の空から光が落ちてきて、物資を燃やし尽くしたということです」
「はぁ!?」
「原理は不明ですが、夜空から爆発音のようなものが聞こえたかと思うと、火の矢のようなものが空を覆いつくしたそうです。補給基地の兵士が言うには、まれで天上からの怒りのように見えたと。まるで、神話の世界のような光景だったと――まるで、神の雷だったと震えております」
「神の雷……」
「敵国には新兵器があるという噂や伝説級の魔導士が協力していると、兵も疑心暗鬼に陥っております。閣下、いかがいたしますか」
やはり、異界の英雄の仕業だろう。神や新兵器など馬鹿馬鹿しい。
おそらく、原理は単純なはずだ。
問題はどうやって攻撃をしたのかだ。国境沿いには守備兵がいるため、陸路では移動できるはずがない。少数のスパイやゲリラでは、2か所の遠く離れた補給基地を壊滅させることは不可能だ。ならば、やはり空か!!
「副官、ここから補給基地に移動するために必要な地形がわかる地図を用意してくれ。おそらく、今夜も攻撃は発生するはずだ。他の基地も襲われたら、戦争はできなくなる。ここが正念場だ!」




