第60話 ホームレス、無双する
―ローザンブルク帝国のとある補給基地―
俺は仲間たちと共に夜の見張りをしていた。
見張りと言っても、ここは最前線から離れている。だから、敵が攻めてくる心配はなく、不良兵士が物資の盗難をしないか注意していればいい。簡単なもんだ。
「しかし、ついに戦争が始まったのか」
「俺たちもいつか前線に送られるのかな?」
仲間たちはそんないつもの会話をしながら、物資が運び込まれた倉庫を確認していく。
「でもさ、相手は大陸最弱のヴォルフスブルクだろ? それもニコライ将軍が前線に出ているから、負けるわけがないよ」
「それもそうだ!」
「この物資が前線に届けば、いくらハ―ブルク要塞なんか一瞬で崩壊するだろ!」
「うんうん。だって、この砲弾の数だけでも全回の総攻撃の2倍近いだろう? それに、魔導士も帝国中から動員しているんだろ。もうどんな要塞だって吹っ飛ばせる」
「なら、俺たちが前線に出た方がいいかもな。楽勝ないくさなら、簡単に武功も立てられるし……もしかしたら、俺たちの誰かが将軍になれるかもな」
そんな威勢のいい話題でみんなが笑った。
簡単に勝てるいくさなら、兵士としては嬉しい限りだ。
戦争に勝てば、前線にいただけでも英雄扱い。もしかしたら、ボーナスがもらえるかもしれない。
領土も増えれば、みんながお祭り騒ぎになるし……
ヴォルフスブルクに多額の賠償金を支払わせれば、景気が良くなる。
それもこの戦争は負けるわけがないと来ているんだ。弱小国家のくせに、俺たちにかみついてきたバカな行為の代償を支払わせればいけないよな。
しょせんは弱小国家。大陸最強クラスの我が国に勝てるわけがない。
「なぁ、なんか変な音がしなかったか。爆発音みたいな……」
「なんだ、ぼやか? ここには大砲に使う魔力火薬や砲弾がたくさんあるんだぞ。ぼやなんかだしたら、軍法会議で極刑に……なんだ、あの空から降り注ぐ光は……」
「ホントだ!」
「すごい数だぞ」
「こっちに落ちてくる。みんな建物の中に逃げろ」
俺たちは慌てて、基地の内部に入る。あの光が何かわからなかったが、危険な感じがする。
空から降り注ぐ光は、倉庫や地面に落ちていく。そして、地面に突き刺さると爆音とともに炎上していく。
顔見知りの兵士が、その爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。
「なんだよ、これ……」
俺たちは降り注ぐ光を見ていることしかできない。
時間差で倉庫からは巨大な火の手が上がった。
中にあった火薬が誘爆を起こし、倉庫ごと吹き飛ばす。
「敵の攻撃、だ……空から敵が来たんだ」




