第54話 ホームレス、敵を撃ち落とす
右翼への攻撃が防がれているというのを察したであろう敵が逆方向を集中して攻めてきた。
まさかここまで的確に状況判断されるとは思っていなかった。
戦力の集中。
情報の分析。
柔軟な方針転換。
そして、用意された周到な謀略の罠。
優秀な将軍としての才能を見せてくれるぜ。
「クニカズ、これ以上左翼に攻撃が集中するとまずいぞ! 魔力攻撃で大砲の弾を迎撃するか?」
「ダメだ、アルフレッド。敵の攻撃は激しすぎる。魔導士の迎撃スピードでは間に合わなくて、こちらが消耗する」
特に魔導士は、一人前になるまでに時間がかかる高価な兵科だ。できる限り消耗は抑えておきたい。
「どうしますか。このままでは敵の攻撃の第一波が終わる前にこちらの守備陣を突破される可能性もありますよ、クニカズ少佐?」
皆が俺の方向を見ている。
どうする、よく考えろ。俺の前世知識で、こういう時どう対処すればいいのか、何かヒントはなかっただろうか。
ダンボールをミサイルのように発射し撃ち落とす?
無理だ。向こうの数の方が多くて、迎撃が間に合わない。
今から補強に行く?
そんな余裕はないな。補強中に穴が広がるだけだ。
ならば……
「弾幕しかない!!」
俺はそう思いつき、すぐさま行動に移した。
「アルフレッド、俺が何とかする。防御の指揮は、任せたぞ」
「わかった! 頼むぞ、クニカズ」
「頑張ってください、クニカズ少佐」
俺は司令室を飛び出して、見通しのいい要塞の屋上に向かう。
『センパイ、私の出番ですね』
「ああ、頼むぞ、ターニャ。ダンボールを裁断して、細かい粒にしておいてくれ。できるよな」
『はい、できますけど! 破れたダンボールで何をするんですか?』
「簡単なことだ。ダンボールの弾幕を作るんだよ!!」
※
だいたい、敵の攻撃は30秒に1回のペースでこちらに襲いかかってくる。
このペースなら余裕だな。
「準備はできたか?」
『はい、いつでも大丈夫ですよ。敵の攻撃、来ます!』
俺の背後に数千枚のダンボールの破片が浮遊する。魔力で操作している。
反・魔力をこめたダンボールの弾丸によって、弾幕を作って敵の攻撃を撃ち落とせばいい。
1枚のダンボールを粉々にして、破片にしたものを飛ばせば、魔力への負担も軽くなるはずだ。
「いけぇ」
一分間に数百発の単位で、ダンボール片は敵の砲撃をとらえていく。一発、一発は弱いダンボール片だが、この連続攻撃によって砲撃を誘爆させて空中で爆発を引き起こした。ダンボール片が描く青い軌跡は、空中を鮮やかに彩った。
イメージは、軍艦に設置されている「CIWS」や陸上に設置される「高射砲」だ。近づいてきたミサイルや飛行機を撃ち落とすガトリング機関砲みたいなものだな。
敵の砲撃の進行方向にダンボール片をばらまくことで撃ち落とす。1分間に2発程度の攻撃なら楽勝だぜ。
俺が作った弾幕は、次々と敵の攻撃を撃ち落とした。
※
―要塞司令室―
「なんだ、あの攻撃は!!」
「クニカズ少佐です」
「ありえないぞ。どんな理論を使えば、あの連続攻撃が可能になるんだ!?」
「魔力の小さな一撃で、幕のようなものを作っているのか?」
「なんという発想力だ」
「それだけじゃないぞ。あの完璧な魔力制御と軌道をみろ。芸術的ですらある」
「あれが異世界の、英雄……」




